おっちーの鉛筆カミカミ

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枝毛

2014年06月01日 09時29分16秒 | 小説・短編つれづれ
「コッコちゃん、おいで!」
 主がアタシに指図する。アタシのポリシーは何でも楽しむことだから、主の自己中心な命令にも、アタシは喜んで従う。ほらそうすれば、万事うまくいく。主人も、アタシも、家族のみんなも、幸せになる。
 今は姿も違うし、全然小さいし、ハダには黄色い毛が生えていてモコモコしているけど、次第に成長して、アタシも家族と同じ、立派なオトナの人間になるんだな。
「手のりピヨ!」
 また主が調子に乗っている。もっとも、いろんな意味で、乗ってあげているのはアタシの方なのだが。主よ、そんなんじゃ立派な大人にはなれないぞ!
 前言撤回。アタシの主人は、既に大人なのであった。だって彼女は、もう大人の姿になっている。主は、おん歳五才。五才といえば、立派な大人である。アタシも、主人の様に成長するのは、もう近いのか? 楽しみだ。
 夜になると、アタシは寝室に入る。この仕打ちだけは、アタシには納得がいかない。大人は皆、布団の中で寝ている。子供だからといって、こんな部屋とも呼べないような檻の中に閉じ込めることは、人道的に有り得ない。ここには、布団も枕もない。雑魚寝するしかない。申し訳程度に、床にはおがくずが敷いてある。人として最低の扱いである。アタシは何だ、罪人か。
 しかも、そのアタシと同じ囲いの中には、化け物が二匹幽閉されている。二匹とも、アタシの裕に四倍はある大きな体で――無論アタシが大人になれば、アタシの方がはるかに大きくなるが――真っ白な羽に覆われ、足と唇が黄色くて固い。また、これは最近気付いたのだが、頭だけが赤くてビラビラしているのである。
 アタシや家族とはかけ離れた姿で、まったく化け物としかお伝えのしようがない奴らだが、なぜか二匹ともアタシになついてくるのである。アタシが入った途端、奴らはアタシに飛び掛かる。そして何かというと、アタシにちょっかいを出してくる。その有様たるや、アタシにとっては絶望的な恐怖そのものである。そのため気分が落ち着かず、寝室というが、とても熟睡など出来ない。アタシは毎晩不眠で、昼間は意識がもうろうとしている。
 そんなアタシにも、将来の夢はある。日々、大人達を観察していると、こう思う。我々人間の良くないところは、生真面目すぎるところだ。もっと、人生をエンジョイするといい。アタシが大人になったら、もっと人生を楽しむ術を、世の中の人々に教え伝え広めようと思っている。
 アタシはやるよ。


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