おっちーの鉛筆カミカミ

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ゆめをみるかね(3)

2011年12月01日 00時00分00秒 | SUKYSH CLOUD
第三節 微笑むホタル


「もう動けねえ。一歩歩く体力もこのプールに吸われちまった」
「情けないなあ」
「仕方ない……」
 コバンがよっこらせと立ち上がろうとした時だった。
 コバンの周りを何かの虫が一匹飛んでいる。
「? うっとおしいな」
 立ち上がったコバンが追い払おうと手を動かすが、その虫はすり抜けつつコバンの周囲を回り続ける。不自然な様子の虫であった。
 しばらくして、その虫はコバンから離れて飛んでいった。そして、少し離れた所で虫はコバンを待っている。そして緑色の光を放っていた。
 そう、待っているとしか思えなかった。そこでコバンが歩み寄ると、ホタルは遠ざかる。コバンが歩みを止めるとホタルも止まって小さな範囲を飛び回っている。そしてコバンがホタルから遠ざかると、またコバンに寄ってきて周りを飛ぶのである。

 着替えて強化センターを出た。まだホタルはコバンを先導していた。
「気味の悪い夜になったな」
 コッチョルが呟くと、
「面白い事が始まるのかも」
 一方のコバンは胸を躍らせていた。
 二人はホタルを追った。そしてしばらく歩いて、十字路に差し掛かったところでコッチョルが叫んだ。
「コバン、逃げるぞ!」
「は?」
 目の前に、昼間コバンが犯したスリの被害者がいた。

 体力に劣るコバンは被害者に力ずくで抑え込まれ、結局盗んだものを全て返すことになった。
 コッチョルがどう説得したのかは分からないが、彼のお陰でポリスに突き出されることだけは避ける事ができた。
「ホタルさまさまだ」
 元被害者はそう言い残して去っていった。
「あんな奴の金は先生が使った方がいい」
 コバンは食事をしながら、かすれた声でコッチョルに嘆いた。
 コバンはスリを行うターゲットを適当に選んでいる訳ではなかった。充分に、人となりや社会的な立場を吟味して、要はコバンの思う嫌な奴を選んで仕事をしているのである。そして、金持ちしか狙わない、という事実も付け加えておくか。
「今晩はどうする?」
 空に浮かんだ星を見上げながらコッチョルが訊ねた。
「先生のところに泊めてもらっていいか?」
「城には帰らないのか?」
「帰るとまた兵器の開発を進めなくちゃならない。もう嫌なんだ」
 コッチョルは空を見上げたまま、
「そうか。お前も大変だな」
 誰か、今の生活をぶち壊してくれないだろうか。誰が悪なのか、もはやわからない。ただ、今が正しくない事だけは分かる。
 コバンは先生の顔を見た。この人はどうなんだろうか。自分はなぜこの男の人を「先生」と呼ぶようになったんだっけか。
「なんだ、コバン?」
「身体痛くなかったら逃げられたんだけどな」
 コバンは先生に顔を背けて言った。
「人のせいにすんな」
 コッチョルは苦笑いでそう答えた。
 二人が床につき、眠りにつく。
 コバンの上着のフードの中に、何か緑色に光る虫が、飛び込んだ。

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