おっちーの鉛筆カミカミ

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サキシュクラウド(1)

2012年11月16日 13時45分14秒 | SUKYSH CLOUD
サキシュクラウド 第1部 七色の糸Ⅰ 第1章 旅達

『腕試し(1)』

 ライタは焦っていた。
 こんなハズじゃない。
 俺の力は、もっとあるはずだ。こんな打たれ強い奴、出会ったことがない。

 ライタの試合相手、王者・ソルトは絶望の淵にいた。
 私はこの、世界で一番強い者を競う武闘会の、テン・タイムズ・チャンピオンだ。10回優勝をしたのだ。
 驕ることはしない主義だが、今年の大会も、並み居る強い者達を事もなく退け、今、決勝戦まで勝ち進んできた。
 目の前にいる私の相手、ライタといったか、彼は、今回が初参加であり、見た感じも幼い。身体も出来上がっていない。
 最初にあいまみえた時は、なぜこんな子供が、この伝統ある世界大会の決勝の場に勝ち進んできたのか、その理由が思い浮かばなかった。彼には失礼だが、よほどのラッキーが重なった結果であろう、と自分の中で推測し、それでようやく納得したほどだ。
 しかし私は今、彼にかなりの苦戦を強いられている。はっきり言ってしまえば、私は彼に歯が立たないといっていい。
 それほどの実力差だ。
 なぜ彼は今まで埋もれていたのか。
 今まで、どこで何をし、どんな訓練を積んできたのか。
 この試合が終わったなら、彼に問うてみたい。彼と語ってみたい。そんな穏やかな、諦めの境地まで、この試合中に浮かんできているほどであった。
 王者ソルトは、このライタという少年に、敗北の悔しさを通り越して、尊敬の念まで覚えていた。
 そのような状態であった。

 ライタの試合内容はこうだ。
 この大会に出場する大部分の者は、皆何らかの装備を整えていた。
 ツルギや、槍、棍棒等の武器を構え、防具もみな重装備。大抵は、フルプレート、といった全身を覆う甲冑に身を包み、盾を装備する者も多い。
 しかしライタはその事情に反し、信じられないほどの軽装であった。
 まず武器は拳であった。
 一応アイアンナックルというような、拳を保護し、また拳が当たった時の衝撃度を上げるものは装着しているが、この大会で、自分の拳を武器に相手を倒そうなどということを考える者は、他に一人としてなかった。
 そして防具と呼べるものはレザーベストのみ。ほぼ、普段着同様である。もちろん盾など持ってくることを考えすらしていないのではないか。
 こんなふざけた構えで大会に参加する者は、この大会の全歴史をひも解いても、今大会のライタくらいだと思われた。
 そんな者が、今、大会のチャンピオンになろうとしていた。


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