おっちーの鉛筆カミカミ

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ゆめをみるかね(2)

2011年11月29日 00時00分00秒 | SUKYSH CLOUD
第二節 ワークアンドアクシデント


 コバンは走っていた。しくじるはずがない。今まで仕事でしくじったことがない。自分は天才だと思っている。この仕事。
 それは往来の真ん中で他人の金品を盗み取る仕事。
 それはいわゆるスリという犯罪だ。
 コバンはショッピングモールの中に逃げ込んだ。そこは人で溢れ返っていて、入ってしまえば絶対に見付からない自信があった。
 自分はまだ子供である。もともと目立たないし、今盗んだお金で新しい服と帽子を買いそれを身に着けてしまえば完璧な変装であり、逃げ切れない方がおかしいと思われた。
 チョロイものである。
 コバンはトイレで新しい服装に着替えて、さっさとこのショッピングモールを出ようと考えていた。それまで着ていた服は、今着ている新しい物の入っていた紙袋の中に仕舞い込む。
 その時、脱いだ上着のフードの中に虫が入っているのに気付いた。手で払ってもよほど強力なカギ爪で引っ付いているらしく剥がれない。
 ホタル?
 恐らくは黄金虫か蛍である。潰してしまうのも可愛そうなので、そのままにしておくことにした。きっといつの間にか自分で逃げていくであろう。

 ショッピングモールから通りに出た。歩みを進め、町の外れに向かう。心なしか早足になっていた。
 そうして、着いたのは町の外壁沿いにある家無し男の住み処だった。
「トントン、先生遊びに行こうぜ」
 コバンが声を掛けると、
「おう、来たか」
 太くてガラガラな声で男が応じる。
「今日はどこ行く?」
 コバンが問う。すると家無し男は不気味に笑った。
「今日はお前を鍛えてやる」
「は?何処行くつもりだよ」
「いい所だ」
 家無し男とコバンは再び町の中心部に向かって歩いていった。
「お前は頭でっかちで体力はさっぱりだからな」
「なんか嫌な予感がするんだけど~」
 コバンは引きつった笑いを浮かべる。
 彼の予感は当たり、十五分後、コバンは痛烈な悲鳴を上げていた。
「先生、もういいだろ」
 先生と呼ばれている家無し男……名を「コッチョル」というが、彼はそう言われて豪快に笑った。
「我慢せい。今から我慢をしておれば、大人になって自由に生きられる」
「そうなのか?それにしても体力の限界だって。今身体中痛い」
 コバンはそう言って水面に大の字を書いて浮かんだ。
「ほんとにお前は体力がないな」
 二人のいるのは、俗に「体力強化センター」と呼ばれている場所。
 中には大きなプールがあり、その中で様々な体力トレーニニングができるようになっている。
 水中での負荷と浮力を最大限に利用し、身体に無理なく筋力・瞬発力・持久力が鍛えられるような設備が整っているのである。
 コッチョル先生は言った。
「お前は今日ヘマをやったな」
「は?」
「隠しても無駄だぞ。もう充分分かってると思うが、私はこの町で起きた出来事を全て把握している」
「はーん、そうだったよな、先生……やっちまった」
「お前にしては奇跡的に珍しい事だな」
「そうなんだよ。アイツ何者だ?俺はミスしてないぞ。仕事は完璧だった」
「まあ偶然ということもあろうよ」
「たまたま気付いたんかな?それで勘で俺を追っかけたのか?」
「ただし物事を全て偶然のせいにしていては、お前は成長しない」
「俺にミスがあったってことか……」
 コバンは言いながらプールを上がろうとする。
「だから!私は今日お前を鍛えてやる。手加減はせんぞ!」
 コッチョルはプールサイドに上ろうとしていたコバンを突き飛ばした。水飛沫が上がり、コバンは水中に没した。
 浮き上がり、
「もう疲れたよ!」
 悲鳴を上げるコバンだったが、コッチョルは態度を変えないようである。
 コッチョル先生のシゴキは、その日の夜まで続くのであった。

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