昨日に引き続き、僕が「へちま亭文章塾」に投稿した作品ブログで公開するシリーズ第2弾です。
僕がへちま亭文章塾に初めて投稿したのが第5回目のとき。
けれども昨日は訳あって6回目に投稿したものを発表しました。
今日は7回目に投稿した作品。
投稿締切日は2006年3月19日でした。
お題は「卒業」から思いつく文章表現。
題名は『奴』。
ではどうぞ!
『奴』
奴がその子に送った最後のメール。
「もう僕を見掛けても声を掛けてくれなくていいです」
返信は二度となかった。
どうしてそうなったかは覚えていない。
でも最初から終わるのは分かっていた気がする。
いや、もともと始まってもいなかったのかも知れない。
何度か、両手で数えられる位、デートをしただけ。
それでもその子は奴にとって大切だった。
どうしてこうなったのか……
考えれば考えるほど奴は内に籠っていった。
寝るかパソコンに向かうだけの生活。
精神は麻痺していった。
幻覚が見え始めた。
突然、世界は滅亡するという妄想にとらわれた。
何故か東京ディズニーランドの下に「陰」の世界の入り口があるという
考えが奴を支配した。
もうすぐアメリカで「陽」の世界の王が生まれる。
彼に対抗するため、日本で生まれてくる「陰」の世界の王を見付け、
その参謀にならなくてはならない。
そういった幻想。
また、黒いものは「不浄」と考えた。
だから魚のオコゲが食べられない。
白い米と牛乳で作った粥をくれと家族に頼んだ。
祖母は牛乳を買ってきてくれると言ったが、
父はそんなこと必要ないと祖母を制した。
皆にはこの窮地は理解できない。
奴はこのままでは死ぬと思った。
焦りのあまり、とうとう奴は狂った。
前後不覚に陥り、フェンスを登り、線路の上へと身を躍らせた。
なぜそんなことをしたのか、奴は全く覚えていない。
覚えているのは、電車のライトの光と、警笛の大きな音、体中の傷の痛みだけ。
「あ、自分は死ぬのかも。大変なことをしたのかも」
そう思ったときはもう遅かった。
その子が大学を卒業した年、奴は人生を卒業した……
目が覚めた。
病院のベッドの上だった。
生きていた。
卒業は始まりの年でもある。
周りには心配そうに見つめる家族の顔。
「ごめんね」
最初に出た言葉だった。
「家の建替えの話、進めていい?」
いきなりそれかい。
「いいよ」
答えた。
まだ終わらない。
彼の新しい人生の始まりは、これからだった。
僕がへちま亭文章塾に初めて投稿したのが第5回目のとき。
けれども昨日は訳あって6回目に投稿したものを発表しました。
今日は7回目に投稿した作品。
投稿締切日は2006年3月19日でした。
お題は「卒業」から思いつく文章表現。
題名は『奴』。
ではどうぞ!
『奴』
奴がその子に送った最後のメール。
「もう僕を見掛けても声を掛けてくれなくていいです」
返信は二度となかった。
どうしてそうなったかは覚えていない。
でも最初から終わるのは分かっていた気がする。
いや、もともと始まってもいなかったのかも知れない。
何度か、両手で数えられる位、デートをしただけ。
それでもその子は奴にとって大切だった。
どうしてこうなったのか……
考えれば考えるほど奴は内に籠っていった。
寝るかパソコンに向かうだけの生活。
精神は麻痺していった。
幻覚が見え始めた。
突然、世界は滅亡するという妄想にとらわれた。
何故か東京ディズニーランドの下に「陰」の世界の入り口があるという
考えが奴を支配した。
もうすぐアメリカで「陽」の世界の王が生まれる。
彼に対抗するため、日本で生まれてくる「陰」の世界の王を見付け、
その参謀にならなくてはならない。
そういった幻想。
また、黒いものは「不浄」と考えた。
だから魚のオコゲが食べられない。
白い米と牛乳で作った粥をくれと家族に頼んだ。
祖母は牛乳を買ってきてくれると言ったが、
父はそんなこと必要ないと祖母を制した。
皆にはこの窮地は理解できない。
奴はこのままでは死ぬと思った。
焦りのあまり、とうとう奴は狂った。
前後不覚に陥り、フェンスを登り、線路の上へと身を躍らせた。
なぜそんなことをしたのか、奴は全く覚えていない。
覚えているのは、電車のライトの光と、警笛の大きな音、体中の傷の痛みだけ。
「あ、自分は死ぬのかも。大変なことをしたのかも」
そう思ったときはもう遅かった。
その子が大学を卒業した年、奴は人生を卒業した……
目が覚めた。
病院のベッドの上だった。
生きていた。
卒業は始まりの年でもある。
周りには心配そうに見つめる家族の顔。
「ごめんね」
最初に出た言葉だった。
「家の建替えの話、進めていい?」
いきなりそれかい。
「いいよ」
答えた。
まだ終わらない。
彼の新しい人生の始まりは、これからだった。
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