コーヒーの巧い淹れ方なんて口で言ってもわからないよ。
俺は事ある毎に口に出して唱えたね。
「俺は美味いコーヒーを客に出す」
ってね。
「ふーん」
「なんで今そんなこと聞くんだよ?ほら練習だろ?とっとと行ってこい」
「わかってるよ」
気が乗らない。幾ら練習しても記録が伸びないから。掴みかけた「コツ」がどっかいっちゃった。
「伸!遅せーぞ!遅刻だぞ!」
「うるせーな、わかってるよ!――痛アッ!美樹、何すんだよ!」
「わかってるなら走って来い」
「うっせーな、わかってるよ」
「それ口癖?」
「どこが?」
「…あんた陸上部一のホープなんだから自覚しなさい」
「えっ?あー……」
「本気にしてやんの!あんたなんかビリがお似合ーい。ぺっぺっ」
「うっせ!殴るぞ!」
「こわ~」
「仲の良いこったな」
「わっビックリした。部長!」
「伸一、早く準備しろ。今日から特訓だって言ったろ」
「ハイ、スミマセン」
だから来たくなかったんだ。特訓?そんな事したって俺の記録は伸びないよ。
もう限界なのかも知れない。
『…パンパン!』
両の頬っぺたを叩いた。陸上を始めて4年、幅跳びになって1年、腐っちゃ情けないだろ。
(でも、どうしたら今以上力がつくのか?)
わからねえ。そういえば親父の言葉、
(俺は事ある毎に口に出して唱えたね)
思い出しちまった。
俺、なんであんなこと親父に訊いたんだろう。
口に出して唱える――
『俺はあと少しでも遠くへ跳びたい』
その言葉を呟きながら、3週間、俺は特訓を受けた。
「今日で結果が出なかったら、お前をレギュラーから降ろす」
――わかってるよ。
確信ではない。俺の中で何かが変わった気がする。自信か?今もベクトルは向っている。
その答えはもうすぐ出るだろう。
走り出す。あっ…ほら、もう何かが違う。
踏切までが長く感じる。スピードに乗る風に乗る。
跳んだ。
景色が流れる。美樹の姿も――
そして茶色い粉を飛び散らして着地する。
一瞬、鼻先を親父の香りが掠めた気がした。
第20回文章塾――お題「「珈琲の香り」で思い浮かぶ文章」――への投稿作品です。
この作品に対する、文章塾塾生の皆さんからのコメント、僕のそれに対する返信のコメントは、こちらから。
俺は事ある毎に口に出して唱えたね。
「俺は美味いコーヒーを客に出す」
ってね。
「ふーん」
「なんで今そんなこと聞くんだよ?ほら練習だろ?とっとと行ってこい」
「わかってるよ」
気が乗らない。幾ら練習しても記録が伸びないから。掴みかけた「コツ」がどっかいっちゃった。
「伸!遅せーぞ!遅刻だぞ!」
「うるせーな、わかってるよ!――痛アッ!美樹、何すんだよ!」
「わかってるなら走って来い」
「うっせーな、わかってるよ」
「それ口癖?」
「どこが?」
「…あんた陸上部一のホープなんだから自覚しなさい」
「えっ?あー……」
「本気にしてやんの!あんたなんかビリがお似合ーい。ぺっぺっ」
「うっせ!殴るぞ!」
「こわ~」
「仲の良いこったな」
「わっビックリした。部長!」
「伸一、早く準備しろ。今日から特訓だって言ったろ」
「ハイ、スミマセン」
だから来たくなかったんだ。特訓?そんな事したって俺の記録は伸びないよ。
もう限界なのかも知れない。
『…パンパン!』
両の頬っぺたを叩いた。陸上を始めて4年、幅跳びになって1年、腐っちゃ情けないだろ。
(でも、どうしたら今以上力がつくのか?)
わからねえ。そういえば親父の言葉、
(俺は事ある毎に口に出して唱えたね)
思い出しちまった。
俺、なんであんなこと親父に訊いたんだろう。
口に出して唱える――
『俺はあと少しでも遠くへ跳びたい』
その言葉を呟きながら、3週間、俺は特訓を受けた。
「今日で結果が出なかったら、お前をレギュラーから降ろす」
――わかってるよ。
確信ではない。俺の中で何かが変わった気がする。自信か?今もベクトルは向っている。
その答えはもうすぐ出るだろう。
走り出す。あっ…ほら、もう何かが違う。
踏切までが長く感じる。スピードに乗る風に乗る。
跳んだ。
景色が流れる。美樹の姿も――
そして茶色い粉を飛び散らして着地する。
一瞬、鼻先を親父の香りが掠めた気がした。
第20回文章塾――お題「「珈琲の香り」で思い浮かぶ文章」――への投稿作品です。
この作品に対する、文章塾塾生の皆さんからのコメント、僕のそれに対する返信のコメントは、こちらから。
showhemさん、心のダンス切りっ!
想像力が乏しいせいか、茶色い粉(砂?)から珈琲の
(香り)までは行き着かなかった。
ざんね~ん(古っ)