おっちーの鉛筆カミカミ

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第20回文章塾投稿作品『俺は挽いたコーヒー豆の上に尻餅をついた』

2007年11月24日 17時57分17秒 | 文章塾
 コーヒーの巧い淹れ方なんて口で言ってもわからないよ。
 俺は事ある毎に口に出して唱えたね。

「俺は美味いコーヒーを客に出す」

 ってね。


「ふーん」
「なんで今そんなこと聞くんだよ?ほら練習だろ?とっとと行ってこい」
「わかってるよ」
 気が乗らない。幾ら練習しても記録が伸びないから。掴みかけた「コツ」がどっかいっちゃった。

「伸!遅せーぞ!遅刻だぞ!」
「うるせーな、わかってるよ!――痛アッ!美樹、何すんだよ!」
「わかってるなら走って来い」
「うっせーな、わかってるよ」
「それ口癖?」
「どこが?」
「…あんた陸上部一のホープなんだから自覚しなさい」
「えっ?あー……」
「本気にしてやんの!あんたなんかビリがお似合ーい。ぺっぺっ」
「うっせ!殴るぞ!」
「こわ~」
「仲の良いこったな」
「わっビックリした。部長!」
「伸一、早く準備しろ。今日から特訓だって言ったろ」
「ハイ、スミマセン」

 だから来たくなかったんだ。特訓?そんな事したって俺の記録は伸びないよ。

 もう限界なのかも知れない。

『…パンパン!』

 両の頬っぺたを叩いた。陸上を始めて4年、幅跳びになって1年、腐っちゃ情けないだろ。

(でも、どうしたら今以上力がつくのか?)

 わからねえ。そういえば親父の言葉、

(俺は事ある毎に口に出して唱えたね)

 思い出しちまった。
 俺、なんであんなこと親父に訊いたんだろう。
 口に出して唱える――

『俺はあと少しでも遠くへ跳びたい』

 その言葉を呟きながら、3週間、俺は特訓を受けた。


「今日で結果が出なかったら、お前をレギュラーから降ろす」
 ――わかってるよ。
 確信ではない。俺の中で何かが変わった気がする。自信か?今もベクトルは向っている。
 その答えはもうすぐ出るだろう。

 走り出す。あっ…ほら、もう何かが違う。
 踏切までが長く感じる。スピードに乗る風に乗る。
 跳んだ。
 景色が流れる。美樹の姿も――
 そして茶色い粉を飛び散らして着地する。

 一瞬、鼻先を親父の香りが掠めた気がした。



 第20回文章塾――お題「「珈琲の香り」で思い浮かぶ文章」――への投稿作品です。
 この作品に対する、文章塾塾生の皆さんからのコメント、僕のそれに対する返信のコメントは、こちらから。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
う~ん2 (鉛筆カミカミ)
2007-11-27 21:32:50
 やっぱり、「珈琲の香り」というお題でさんざん頭をひねった人たちの、共通言語になっているのかもしれないなあ。

 showhemさん、心のダンス切りっ!
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う~ん (showhem)
2007-11-27 11:25:55
マンダム・・・

想像力が乏しいせいか、茶色い粉(砂?)から珈琲の

(香り)までは行き着かなかった。

ざんね~ん(古っ)
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