田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『銀幕のメッセージ 女子大生桜川東子の推理』(鯨統一郎)

2018-09-14 08:52:27 | ブックレビュー
 とあるバーを舞台に、マスター、探偵の工藤、ライターの山内のヤクドシトリオ、酔えば酔うほど推理の冴える女子大生の桜川東子、アルバイトのいるかちゃんに、刑事や映写技師まで加わって、推理合戦を繰り広げる。



 シリーズ第7弾とのことだが、読むのは今回が初めて。「帝国のゴジラ」「崖の上のファンタジア」「スパイはつらいよ」という“ダイイング・メッセージ”を扱った三つの短編の中に、タイトル通りに映画の話題が出てくるので読んでみたのだが、人の話にいちいち茶々を入れるマスターのセリフが鬱陶しいし、会話が主体の話なのに、誰が話しているのか分からなくなるところがある。

 また、映画に関する蘊蓄の披露はまだしも、いい年をした作者が、軽さを狙ってか、無理に流行物やはやり言葉を入れ込んでいるように見えて、読んでいて痛々しく感じるところもある。ライトノベル(軽小説)は、やはり若い作家のものなのか、と思わされた。
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『嘘はフィクサーのはじまり』

2018-09-14 06:17:52 | 新作映画を見てみた
 舞台はニューヨーク。しがないフィクサー(仲介者)のノーマン・オッペンハイマー(リチャード・ギア)は、ユダヤ人の上流社会に食い込むため、小さな嘘を積み重ねながら人脈を広げてきた。



 ある日、イスラエルの政治家エシェル(リオル・アシュケナージ)に近づいたノーマンは、成り行きで最高級の靴をエシェルにプレゼントする。3年後、イスラエルの首相となったエシェルは、祝賀会でのノーマンとの再会を喜び、友情を再確認する。ところがその後、ノーマンのお節介が思わぬ波紋を呼ぶことになる。

 ずる賢い金の亡者なとど言われ続けた迫害の歴史の中で、生き残るために強い同族ネットワークを築き上げたユダヤ人社会の知られざる仕組みを、笑いと皮肉の中に描く。シェークスピアの『ベニスの商人』の現代版の趣がある。

 ところで、実はユダヤ人が牛耳るハリウッドでは、ユダヤ人問題を正面から描くことはタブーとされてきた。例えば、第二次大戦直後の47年に、ユダヤ人問題を扱ったエリア・カザン監督の『紳士協定』とエドワード・ドミトリク監督の『十字砲火』が公開されたが、どちらも物議を醸し、カザンとドミトリクは赤狩りの標的となった。両作は、当時の占領軍の政策によって日本では公開されず、87年になってようやく公開されたといういわくもある。

 その後、ウディ・アレンやメル・ブルックスがジョークの中にまぶして描いてきた微妙な問題を、ここまで深く描けたのは時代の変化故か。もちろんこうした映画が出てきたことは、トランプ大統領のイスラエル寄りの政策とも無縁ではあるまい。

 ギアが、口八丁で調子がいいが、どこか憎めない風采の上がらぬ主人公を、アシュケナージがカリスマ性のある人のいい政治家役を、スティーブ・ブシェミがちょっと怪しいラビ役を、それぞれ好演している。
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