1969年、米ペンシルベニア州。孤独な寮生活を送る高校生のジェイミー(アレックス・ウルフ)は、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を劇化することを思いつき、許可を得るため、演劇サークルで知り合ったディーディー(ステファニア・オーウェン)と共に、隠遁生活を送るサリンジャーの居所を探す旅に出る。
一言で言えば、一人のいじめられっ子の、ちょっとした旅を描いただけなのだが、全く飾り気のない、素直な人物描写が好ましく映り、とてもチャーミングなジェイミーとディーディーがいとおしくなってくる。2人の好演に加えて、サリンジャー役のクリス・クーパーも妙演を見せる。
また、時代背景としてベトナム戦争の影が描かれる点も含めて、5人組の若者たちの車での旅を描いた『ファンダンゴ』(85)とイメージが重なるところもあった。その意味でも、小品の佳作という言葉がぴったりの映画だ。
さて、この映画は、ジェームズ・サドウィス監督の自伝的な要素が強いという。つまり彼は実際にサリンジャーと会ったことがあるのだ。
それを知って思い出したのが『フィールド・オブ・ドリームス』(89)である。あの映画で、主人公のレイ(ケビン・コスナー)が見付ける隠棲した作家は、架空のテレンス・マン(ジェームズ・アール・ジョーンズ)になっていたが、W・P・キンセラが書いた原作『シューレス・ジョー』では、主人公が会いに行く作家はサリンジャーなのである。
つまり、この映画のジェイミー(サドウィス監督)と、『シューレス・ジョー』の主人公レイ(キンセラ)には相通じるものがあるのだか、これらは、サリンジャーが、アメリカのある世代にとって、伝説の存在だったことの証だとも言えるだろう。