田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『search/サーチ』

2018-09-28 18:54:36 | 新作映画を見てみた
 最近妻を亡くした韓国系アメリカ人のデビッド。彼の16歳の娘マーゴットが、ある日忽然と姿を消した。行方不明事件として捜査が開始されるが、家出なのか、誘拐なのかも分からないまま、時は刻々と過ぎていく。娘のSNSを必死に探ったデビッドは、そこに自分の知らない娘の姿を見ることになる。



 キム一家の歴史を紹介する映像のモンタージュに始まり、全編がパソコンの画面で展開するというアイデアが秀逸。我々はいかにパソコンやスマホに依存しているのかが見えてきて、怖くなってくるところもある。

 この映画が、監督デビュー作となったインド系アメリカ人のアニーシュ・チャガンティは「スピルバーグ、シャマランに次ぐ、映画の天才登場」と騒がれているようだが、スピルバーグの『激突!』(71)『ジョーズ』(75)、あるいはシャマランの『シックス・センス』(99)を例に出すまでもなく、いくら斬新なアイデアがあっても、それを生かすストーリーテリング(脚本)がよくなければ話にならない。その点では、この映画も脚本がよくできているのが最大のポイントだろう。見かけは斬新だが、中身はオーソドックスなミステリーの作り方をきちんと踏襲しているからだ。
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『波の上のキネマ』(増山実)

2018-09-28 06:01:11 | ブックレビュー


 尼崎で小さな映画館を営む安室俊介。時節柄、閉館を決意した彼だが、創業者である祖父が“緑の牢獄”で過ごした事実を知ることになる。

 事実とフィクションを融合させながら、前半はほろ苦いノスタルジーを、中盤から後半は極限状態に置かれた者の苦難を描き、前向きなラストで締めるという構成は『勇者たちの伝言 いつの日か来た道』とほぼ同じだと言ってもいい。ここでは、阪急ブレーブス(野球)が映画館と映画に、北朝鮮が沖縄の孤島の炭坑に、朝鮮人の友人が台湾人に、置き換えられている。

 ジャングルの中に映画館があったという意外性、各章のタイトルを映画のタイトルと結びつけた構成などで、映画好きの心を刺激しながら、戦前の沖縄の炭坑の実態を明らかにしていく。炭坑からの脱走の件は、冒険小説の趣もある。

 野球と映画とは、まさに自分の泣き所をつかれた感じ。共感と多少の反発を覚えながらも、一気に読まされた。
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