本を整理していたら、伊坂幸太郎の『陽気なギャングが地球を回す』が出てきた。これは映画化された際に、前田哲監督にインタビュー(2006.5.24.『レッツエンジョイ東京』)するために読んだのだが、あまりの面白さに、続編の『陽気なギャングの日常と襲撃』まで読んでしまった覚えがある。
で、この時の前田監督へのインタビューも、『トニー滝谷』(05)の市川準監督同様、本編に載らなかった会話の方が面白かった。
以下、構成上、こぼれた話を二つ。
-いろいろな人の助監督を経験して得たものはやはり大きいということですね。
(前田)僕が一番影響を受けているのはやっぱり伊丹(十三)さんの映画です。最初に、サード助監督で美術や小道具を担当したんですが、少しでも演出にかかわりたいということで、かばんや眼鏡なんかも工夫して選んでから見せるわけです。そうすると伊丹さんは「それ面白いね」という感じで受け入れてくれて。懐が広いんですね。それで「なんて楽しいんだ」とその時に思って。だから、キャラクターが持つ背景や、それを表現する小道具や衣装へのこだわりという点では伊丹さんの影響が大きいです。
-私はこの映画を見て、同じく4人組の強盗団で、誰も死なない『ホット・ロック』(72)というアクション・コメディーの映画を思い出したのですが。そうした昔の映画から受けた影響はありますか。
(前田)『ホット・ロック』は意識しました。この映画の主人公の成瀬は、あの映画のロバート・レッドフォードのイメージなんです。あまりしゃべらないでいつも考え事をしているような。だからレッドフォードがいつもアメをなめていたように成瀬にもガムを噛ませたりしました。
それと10代から20代にかけて見た映画というのは鮮明に覚えているんです。映画に対する基本的な考えはそこで決まってしまいました。ベトナム戦争前の健全な勧善懲悪のアメリカ映画などが染みついているので、その影響は非常に強いと思います。まだ勧善懲悪が信じられた時代、ヒーローがちゃんといて「弱い者いじめはいけない」と。スティーブ・マックィーンが神様でしたから。
最近の映画を見ると、頭では分かっても、すごい映画だなと思っても、すぐに忘れてしまいます(笑)。結局、原点に戻るしかない。そこで培われたものしか生きないということですね。だから、若い時にもっと映画を見ておけばよかったと、ちょっと後悔しています。
【今の一言】このインタビューをしてから、もう14年もたったのか…。