『探偵物語』(83)(1983.9.21.東急レックス.併映は『時をかける少女』)
松田優作主演で同名の傑作テレビドラマがあるから、何やらややこしいが、『遠雷』(81)の根岸吉太郎監督、進境著しい薬師丸ひろ子と優作の顔合わせということで、期待は大きかったのだが、どうも薬師丸演じる主人公の性格に付いていけなかった部分がある。
今まで、ひたすら純情路線をひた走ってきた薬師丸が、今はやりの、どこにでもいそうな軽薄女子大生を演じる姿に、無理して背伸びをしているような印象を受けた。
憧れの先輩に誘われたからといって、何のためらいもなくホテルに入ってしまう短絡さ、自分勝手な行動の数々…。それはいつまでも、純情なひろ子ちゃんで通すわけにもいかないだろうが、そんなに急に、無理してイメージを変えなくてもいいと思うのだ。
そんなわけで、この嫌な主人公と優作演じる探偵さんとの“探偵ごっこ”が繰り広げられていく。そして、きっとこの主人公は探偵さんと付き合っていくうちに、いい女になっていくのだろう、という期待(例えば『ローマの休日』(54)のような…)も空しく、この主人公は最後まで嫌な女のままなのだ。
それ故、優作はもとより、岸田今日子、秋川リサ、財津一郎といった脇役たちが盛り上げても、主人公が浮かび上がってはこない。薬師丸がいくらかわい子ぶっても、わざとらしさを感じるだけだ。俳優のイメージチェンジの難しさを、改めて知らされた気がする。
それにしても、この映画が今夏大いに受けたというのは、今の軽薄女子大生たちが、薬師丸演じる主人公に自分を重ねて、ちょっとした冒険をしたような感覚で楽しんだからなのかもしれない。そう考えると、根岸は今の若い女性たちの性格を見抜いていた、ということになるのか。
【今の一言】今から37年前に書いた気恥ずかしくなるようなメモだが、バブル前のあの時代の空気の一端は捉えていると思う。今は、軽薄女子大生なんて言わないし、言ったらセクハラになるのかな。