北海道、釧路湿原を望む高台にあるホテルローヤルに非日常を求めてやって来る人々。ホテルの経営者の一人娘・雅代(波瑠)が見つめた彼らの切ない人間模様とは…。
桜木紫乃の直木賞受賞作を映画化。桜木の実家だったラブホテルを舞台にした連作小説を、現代と過去を交錯させながら描く。監督は武正晴。
ヒロインの雅代がずっと傍観者でありながら、最後はちゃんと“主人公”になる構成が面白い。これは、作り手たちが、全ての登場人物を大事にした結果でもある。だから、決して幸せではない、登場人物一人一人の悲喜劇を見ているうちに、彼らが愛おしくなってくるのだ。
そんなこの映画には、何だか、昔のニューシネマのような雰囲気があると思ったら、ラストとそれに続くカーテンコールに、78年の名曲「白いページの中に」が流れた。一体誰がこんな選曲をしたのかと思ったら、武監督とのこと。ハマり過ぎていささかずるい気もしたが、これには見事に一本取られた。
さて、武監督と言えば、ほぼ時を同じくして公開される『アンダードッグ』よりも、この映画の方に引かれる。どちらも性の問題を大きく扱っているが、見ていて嫌な気分になるかならないか、あるいは雑多な登場人物たちの描き方、というところで差がついた。これは、もちろんオリジナルと原作物という違いはあるが、多分脚本家(『アンダードッグ』の足立紳と、この映画の清水友佳子)の持っている資質や品性の違いが大きく影響していると思われる。