田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『マイク・タイソン-THE MOVIE-』

2020-11-30 16:30:31 | 映画いろいろ

 プロボクシングの元ヘビー級3団体統一王者のマイク・タイソンと元4階級制覇のロイ・ジョーンズによる、ヘビー級エキシビションマッチが行われた。結果は予定通り?のドローだったが、タイソンの動きがが思いの外よかったことに驚いた。10年ほど前に見た、タイソンのドキュメンタリー映画のことを思い出した。

『マイク・タイソン-THE MOVIE-』(08)(2010.4.24.スペースFS汐留)

 40歳になったタイソンが、己のことを赤裸々にしゃべりまくるドキュメンタリーだが、圧倒的に強かったころの試合と、めちゃくちゃな私生活とのギャップ、そしてボクサーとしてのまさかの衰えを見せられると、タイソンが孤独な裸の王様のように見えて切なくなってきた。

 とにかく全盛期のタイソンは強かった、速かった、うまかった。その戦いをリアルタイムで見られたことを誇りに思えるボクサーだった。だが、いまや“~だった”とすべてを過去形で語らなければならない。時は流れたのだと改めて実感させられた。

 モハメド・アリのように自分をコントロールするのが苦手なタイソンにとって、致命的だったのはチャンピオンになる前に恩師カス・ダマトを失ったことだろう。人生に「もし」はないが、こうして彼の波乱の人生を見せられると、やはり、もしカス・ダマトがもう少し長生きしていたら…と思わずにはいられない。最後にタイソンが「俺の過去はヒストリー、未来はミステリー」と語ったひとことが印象的だった。

タイソンが出演した『イップ・マン 継承』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/75a6ae986bb80d6a3f195350304180e7

 

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『43年後のアイ・ラヴ・ユー』

2020-11-30 07:50:16 | 新作映画を見てみた

 今は独り暮らしの70歳の元演劇評論家クロード(ブルース・ダーン)は、昔の恋人で舞台女優だったリリィ(カロリーヌ・シロル)がアルツハイマーのため介護施設に入ったことを知る。もう一度リリィに会いたいと考えたクロードは、アルツハイマーのフリをして同じ施設に入居するが、リリィの記憶から彼のことは失われていた。

 クロード・ルルーシュの『男と女 人生最良の日々』(19)とは男女の立場が逆のこの映画は、見方によっては、医学的な根拠に欠け、認知症の悲惨さがなく、主人公の動機もいささか不謹慎だとも思える。だが「認知症になっても決して終りではない」「できればこうあってほしい」という希望を描いた一種のファンタジーという見方もできる。確かに、映画にまでつらい現実を見せられてはたまらないという気もするからだ。

 加えて、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)に続いて、ダーンが老いてますます盛んなところを見せる。それこそ70年代からずっと見てきた人だけに、こちらも感慨深いものがあった。

 スペイン人のマーティン・ロセテ監督と脚本のラファ・ルッソは、主人公を演劇評論家と女優にすることで、シェークスピアの「冬物語」を、劇中に巧みに入れ込んでいるが、”成り済ました者”(ゲーリー・クーパー)が主人公のフランク・キャプラの『群衆』(41)が映るのも象徴的に思える。

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『エボリューション』

2020-11-30 07:30:33 | ブラウン管の映画館

『エボリューション』(01)(2006.6.3.)

 急速に進化(エボリューション)、変態する宇宙生命体と科学者チームとの闘いを描いたSFコメディー。「X-ファイル」のデビッド・ドゥカブニーがちょっと間抜けな科学者を演じ、『ゴーストバスターズ』(84)のダン・エイクロイドが市長に扮するところからして、すでに立派なパロディーである。

 ただ、このあまりにもバカバカしくて下品なコメディーは、みんなが手放しで笑えるものではないだろう。こういう映画にもちゃんと金をかけるハリウッドをすごいと言うべきか。監督のアイバン・ライトマンは、出来不出来の波が大き過ぎる不思議な監督だ。

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『ガンジー』

2020-11-30 07:06:24 | ブラウン管の映画館

『ガンジー』(83)(1983.5.31.新宿スカラ座)


 アインシュタインがガンジーについて言った「次の世代は、このような人間が生きて、この世に存在したとは信じられないのではあるまいか」という言葉が、胸に迫ってきた。何故なら、この映画を見終わって、浮かんだ思いは、まさしく「信じられない!」という驚きに他ならなかったのだから。果たして、人間はここまで強く優しく生きられるものなのだろうか、ここまで自らの信念を貫き通せるものなのだろうか…と。

 もちろん、そんなガンジー像を、押しつけがましく、「こんなすごい人がいた!」風に見せられたのなら、ここまで彼のすごさを感じることはできなかっただろう。

 つまり、監督のリチャード・アッテンボロー(『大脱走』(63)のビッグXがこんなすごい映画を撮ってしまうとは…)は、ガンジーの弱さや、政治家・指導者としてのずるさや嫌らしさも同時に描いており、神ではなく、あくまでも一人の人間としてガンジーを捉えているのである。

 しかも、ガンジーの周りには常に何千、何万という群衆が描かれ、英雄ではなく、群衆の中のガンジーという視点で話が展開していく。そこには、この映画に20年もの歳月をかけてきたアッテンボローの執念や信念が感じられる。

 加えて、ガンジーに扮したベン・キングスレーの演技が奇跡としか言いようがないほど素晴らしい。彼がこれまで無名の俳優だったこともあるが、何の違和感を持つこともなかった。

 ガンジー役の候補に挙がっていたというロバート・デ・ニーロやダスティン・ホフマンが演じていたら、それは芸達者な彼らのことだから、それなりにうまい演技は見せただろうが、キングスレーが出した味を、彼らが出すのは無理だったに違いない。

 そんなこんなの様々な要素が絡み合って、まれに見る伝記映画が出来上がったわけだが、かつてインドを支配したイギリスが、自国の恥をさらしてまで、インドの英雄を描いた皮肉も面白いが、欧米の俳優たちを尻目に、インドの俳優たち(特にガンジーの妻役のロヒニ・ハタンガディとネール役のロシャン・セス)が際立って見えた皮肉もまた面白かった。そう言えば、『アラビアのロレンス』(62)の時も、エジプト人のオマー・シャリフが際立っていたなあ。

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