『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』(2021.8.17.オンライン試写)
「パントマイムの神様」と呼ばれたフランスのアーティスト、マルセル・マルソーが第二次世界大戦中にユダヤ人の孤児123人を救った実話を映画化。
1938年、フランス。アーティストを夢見る青年マルセル(ジェシー・アイゼンバーグ)は、兄のアラン(フェリックス・モアティ)や思いを寄せるエマ(クレマンス・ポエジー)と共に、渋々ながらナチスに親を殺されたユダヤ人の子どもたちの世話をしていた。
パントマイムを通して子どもたちと触れ合ううち、彼らと絆を結び始めるマルセルだったが、ナチスは日ごとに勢力を増し、1942年、ドイツ軍がフランス全土を占領。マルセルは子どもたちをスイスへ逃がすため、アルプスの山越えをすることを決意する。
この映画は、マルセル・マルソーという著名なアーティストに関する秘話を描いているのだが、舞台がフランスなのに、登場人物が皆英語で話したり、マルソーの変心の様子や、彼と仲間たちとの関係性の描写も雑で、パットン将軍(エド・ハリス)が唐突に現れるなど、人物関係の描写に難がある。
また、マルソーを演じるアイゼンバーグは頑張ってはいるが、いかんせんパントマイムが稚拙なので、パントマイムを通しての子どもたちとの関係の変化や、チャップリンへの憧れ、芸が与える希望といった、肝の部分が浮かび上がってこない。もとより、マルソーのまねなどできないのだから、ここはボディダブルや特撮などで処理してもよかったのではないかと思った。
ただ、公開中の『アウシュヴィッツ・レポート』、近々公開の『ホロコーストの罪人』に続いて、またもやユダヤ人の受難を描いた映画の登場という意味では、「この問題を決して風化させない」というユダヤ系の人々の執念のようなものを感じさせられる。この映画の監督ジョナサン・ヤクボウィッツはユダヤ系のベネズエラ人、主演のアイゼンバーグももちろんユダヤ系の人である。
ところで、マルソーと言えば、メル・ブルックスの『サイレント・ムービー』(76)という“おふざけ無声映画”の中で、唯一のセリフ「Non!」を発したシーンを思い出す。