この前のシドニー・ルメットに続いて、今回はロバート・ワイズが自作について語ったドキュメンタリー。彼については以前、『20世紀の映画監督名鑑』で総括的な原稿を書いたことがあったので興味深く見た。(2004.10.17.)
生涯39本の作品を監督したワイズだが、元々はRKO所属の優秀な編集者だったのは有名な話。中でもオーソン・ウェルズの『市民ケーン』(41)での彼の功績は大きい。「ウェルズの才能に魅せられた。だから彼から難題をふっかけられて、もう嫌だと思っても、結局は彼のアイデアの素晴らしさに唸らされた」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/cff623f2a05e396ceed820f3c25021d1
監督デビュー作『キャット・ピープルの呪い』(44)
「撮影現場でスローに見えるシーンは、実際の映像になると2倍はスローに見えるものだ」
『月下の銃声』(48)
「ロバート・ミッチャムとロバート・プレストンの殴り合いは、あえてスタントマンを使わず、本当のけんかみたいにリアルに撮った」
『罠』(49)
「うらぶれたボクサーの話というのが気に入った。実際の試合やロッカールームまでつぶさに観察した。主役には実際にボクシング経験のあるロバート・ライアンを起用した。ここでもあくまでリアルにこだわった」「この時期、B級映画の監督を続けるなら、一流映画の編集をする方がいいかもしれないと悩んだ」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/8dee05b84e0ae063f29c76c61b24ad50
『地球の静止する日』(51)
「原作を読んで、原水爆や核戦争を告発する内容だと感じ、ぜひ撮りたいと思った」
『重役室』(54)
「人間を誠実に、リアルに描くのがワイズのスタイルだ」(脚本のアーネスト・レーマン)
『悪人への貢物』(56)
スペンサー・トレイシー降板についてのエピソードを披露。
『傷だらけの栄光』(56)
「スティーブ・マックィーンと同じようにポール・ニューマンにも華があった。これは演技のように学んで得られるものじゃない。生まれつき備わったものなんだ」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/2dc058f49f17e7d7cf0c2d0e367f1deb
『拳銃の報酬』(59)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/e5b15b4db3dffd5ed98540c7b80b5fba
『ウエスト・サイド物語』(61)
「映画は舞台とは違う。映画の演出は控えめ過ぎてもいけないし、大げさ過ぎてもいけない。どうリアルに見せるかだ」
「撮影現場ではワイズが父親で、ジェローム・ロビンスはテロリストだったわ」(リタ・モレノ)https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/cc16d5603be54b5a22e6e792b79285c3
『すれちがいの街角 Two For the Seesaw』(62)
「キスシーンの時間までリアルに測る」と主演のシャーリー・マクレーンはおかんむり。もっともワイズ本人は検閲のためだったと弁解したというが…。
『サウンド・オブ・ミュージック』(64)
「(ミュージカルの)二番煎じは嫌だと最初は迷っていた。でも『メリー・ポピンズ』(64)のジュリー・アンドリュースを見てこれはいけると思った」「いろいろと探したけど、結局、ラストシーンを撮影したのはかつてヒトラーの隠れ家だったところだ」(美術スタッフ)
『砲艦サンパブロ』(66)
初の台湾ロケをしたアメリカ映画。「スティーブ・マックィーンは、どうすれば自分がスクリーンで輝くのかを、実によく研究していたよ」https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0cbd0493cc0c824173e739dbbb687dd2
『アンドロメダ…』(71)
「昔を描いたものばかり撮ってきたので、このへんで現代を描いたものを撮りたいと思っていた。この話は現代性や文明への警鐘に富んでいる」
『ヒンデンブルグ』(74)
「実話なので入念なリハーサルをし、リアルなセットを作った」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ef69b359c9e5fc9deb6cf3f3589acab0
『スター・トレック』(79)
「あまり楽しくなかった。ずっと脚本を手直ししながら撮らなくてはならなかったからね」
「『スター・ウォーズ』のヒットに刺激された映画会社が、最初から企画も監督も決めていた。でも、ワイズが監督したおかげでなんとかまとまった」(ミスター・スポック=レナード・ニモイ)
ワイズは「作品は選ぶようにしている。どんなに頼まれても好きになれないものは断るよ」と。ワイズの証言に寄れば、「『セルピコ』(73)は囮捜査の話なんてありきたりだ」、「『真夜中のカーボーイ』(69)はラストが悲惨すぎる」として断ったという。果たしてワイズが両作を撮っていたら…と思うとちょっと面白い。
さて、このインタビューを聞くと、ワイズ本人も証言者たちもたびたび“リアル”という言葉を使った。多ジャンルの作品を手掛け、「一貫性に欠ける」といわれたワイズだが、彼にとっての一貫性はジャンルではなく“いかにリアルに”という一点だったのかもしれない。まあ、そうでなければこれだけ雑多なジャンルで一級品は残せないよなあと思った。