田中雄二の「映画の王様」

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『ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません!』

2021-08-28 10:22:36 | 新作映画を見てみた

『ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません!』(2021.8.27.オンライン試写)

 1930年代、ベストセラー作家のチャールズ(ダン・スティーブンス)は、スランプの真っただ中。というのも、彼の小説は事故死した最初の妻エルヴィラ(レスリー・マン)が語ったアイデアをまとめたものだったからだ。

 そんな中、面白半分に行った降霊会で、霊媒師のマダム・アルカティ(ジュディ・デンチ)がエルヴィラの霊を呼び戻し、チャールズとエルヴィラ、そして新しい妻のルース(アイラ・フィッシャー)を交えた奇妙な三角関係の生活が始まる。だから副題が「夫をシェアしたくはありません!」なのだが、これはちょっと余計だと思う。

 ノエル・カワードの原作戯曲は、デビッド・リーンが監督し、ロナルド・ニームが撮影した『陽気な幽霊』(45)をはじめ、何度か映画化されているが、今回は、テレビシリーズ「ダウントン・アビー」の監督の1人であるエドワード・ホールが監督して映画化した。

 もちろん、今の時代に昔の舞台劇をそのまま映画化するのでは能がないので、現代風のアレンジを施しながら、アールデコ調の大邸宅を舞台に、古典的な艶笑喜劇の再現を試みているのだが、残念ながらこの題材を消化し切れてはいない。何より粋なコメディになっていないのが最大の弱点だ。映像的には今の方が優れているのは明らかなのに、この違いはどこから生じるのだろう。これを舞台で見たら違和感はないのだろうか。

 『陽気な幽霊』は、昔テレビで見たが、後に『戦場にかける橋』(57)『アラビアのロレンス』(62)『ドクトル・ジバゴ』(65)など、スペクタクル映画の巨匠として君臨したリーンが、若かりし頃にはこんな小粋な映画を撮っていたのかと驚いた覚えがあるし、チャールズ役のレックス・ハリスンの芸達者ぶりにも目を見張るものがあった。

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「BSシネマ」『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』

2021-08-28 07:15:25 | ブラウン管の映画館

『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』(09)(2009.11.5.シネマサンシャイン松戸)

 この映画を見るまでは、まさかマイケルが、ここまで踊っているとは、歌っているとは思いもしなかった。晩年はスキャンダルにまみれ、過去の人の感が強かったマイケル。その全盛期をリアルタイムで知る者にとっては、何とも淋しい限りだった。だから、今回のコンサート復帰会見を見ても、正直なところ、おいおい大丈夫なのか、本当にできるのか、という気持ちの方が強かった。そして突然の訃報に、やはり…という感じがした。醜態をさらさずに済んで良かったなどと勝手に思ったりもした。

 ところが、この映画を見ると、希代のアーティスト、マイケル・ジャクソンはその死の直前まで健在だったことが分かって愕然とさせられた。さすがに全盛期と比べれば、踊りにも歌にも切れはない。だがそれを補って余りある存在感と鬼気迫る緊張感がここにはあった。

 見ているうちに、何だか切なくなってきた。これだけの才能を持ちながら、何故彼はスキャンダルにまみれなければならなかったのか、何故カムバック直前で早世しなければならなかったのかと。まさに天才の孤独。白くなったマイケルが、悲しみをたたえたピエロのようにも見えてしまう。

 そしてこの映画は、監督のケニー・オルテガをはじめ、マイケルと最後の熱いひと時を共にした仲間たちが、悔しさや惜別の思いを込めて贈った鎮魂歌だという気がする。「皆忘れていただろ、知らなかっただろ。マイケルは最後まで現役バリバリだったんだぜ」とでも言うように。

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