弱みを見せるヴァンダムが見もの
近未来を舞台に、タイムトラベルの技術を悪用して過去に戻り世界を支配しようとする集団と、彼らを取り締まる“タイムコップ”との戦いを描きます。オープニングは南北戦争。株価暴落直後のウォール街など、さまざまな時代が見られる楽しみもあります。
監督は『カプリコン・1』(77)や『アウトランド』(81)といったアイデアの豊かさで勝負するSF映画を手掛けてきたピーター・ハイアムズですから、この手の映画はお手の物です。
ジャン・クロード・ヴァンダムがタイムコップに扮し、妻(ミア・サラ)を殺された過去を変えるために何度も過去と現在とを行き来します。映画の“テイク~(撮り直し)”の手法を利用して、同じシチュエーションの細部を変えることで幾通りかの違った結果が出る面白さが楽しめます。得意のアクションに加えて、珍しく弱みを見せて悩むヴァンダムの姿が見ものです。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズと、『ターミネーター』シリーズを足して2で割ったような、なかなか出来のいいB級SF映画です。
ハリウッド映画にはない“避暑地物”
世界的な音楽家フレッド・バリンジャー(マイケル・ケイン)。80歳を越えた今は引退し、ハリウッドスターや、(マラドーナのような)元サッカー選手ら、セレブが宿泊するアルプスの高級ホテルで優雅なバカンスを楽しんでいる。
親友の映画監督ミック(ハーベー・カイテル)も一緒だが、現役にこだわるミックは若いスタッフと共に新作の構想に没頭している。そんな中、フレッドに英国女王からの演奏会出演依頼が舞い込むが…。
イタリア人監督パオロ・ソレンティーノ作品。ハリウッド映画にはない“避暑地物”の一種で、シニカルでシュールな群像劇だ。片や無感動、片や情熱的という、コインの裏表のようなフレッドとミック。ケインとカイテルが、年輪を感じさせる見事な演技を見せ、老いについて考えさせる。
ニックの過去の作品に出演した女優たちが次々と現れる幻想的なシーンなど、フェリーニを思わせるようなところもある。ジェーン・フォンダがセルフパロディ的な女優役で登場するのもご愛嬌。万人向きの映画ではないが、こういうタイプの映画が好きな人もいるわけで…。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
映画の持つ力や良心を信じてみたくなる
『スポットライト 世紀のスクープ』
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http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1045787
恐竜という“未知との遭遇”映画
この映画の主役は、遺伝子操作=バイオテクノロジーでよみがえらせた恐竜たち。よみがえった彼らを集めてテーマパークを作るが…というのが大筋です。こんなとんでもないことを考えたのは映画監督としても知られたマイケル・クライトン。これは夢の実現かそれとも自然界への冒涜か、と随分話題になりました。
その原作を基に、CG(コンピューター・グラフィックス)を使って映画の中に恐竜たちをよみがえらせたのは、SF映画を得意とするスティーブン・スピルバーグでした。首長竜ブラキオサウルスが初めて画面に現れた時の驚きを忘れることはできません。そして、ティラノザウルス、ヴェロキラプトルなど大小取り混ぜた個性的な恐竜たちを見せながら、観客にテーマパーク体験をさせていきます。
スリルの盛り上げ方は『激突!』(71)や『ジョーズ』(75)をほうふつとさせるもので、怖がらせ屋でいたずらっ子のようなスピルバーグの真骨頂とも言えるものです。また、この映画とシリアスな『シンドラーのリスト』(93)を並行して撮影していたというのですから驚きます。彼は本当に映画を撮ることが好きでたまらないのでしょう。そんなこの映画は、永遠の映画青年スピルバーグによる、恐竜という“未知との遭遇”映画なのです
弱小チームのファンの夢から生まれた映画
右腕のけががもとで剛速球が投げられるようになった12歳の少年ヘンリーが、弱いけれど人気だけはある老舗球団のシカゴ・カブスに入団するというお話。
いわば、大学教授が偶然木材に反発する薬を発明し、それを使って投手としてメジャーリーグにデビューするという野球映画の名作『春の珍事』(49)の“少年版”です。
初めは、信じられない状況に有頂天になるヘンリーですが、やがて不自然な生活から生じる屈折やジレンマに悩むようになります。
俳優でもあるダニエル・スターン監督は、『ホーム・アローン』(90)で共演した天才子役マコーレー・カルキンの姿を参考にしたのでしょうか。
そして最後は、体だけが大人になった『ビッグ』(88)の主人公ジョシュと同様に、ヘンリーをちゃんと元に戻してあげるところが粋です。
カブスの本拠地リグレー・フィールドの試合前の支度風景、球場内の雰囲気、専属アナ(ジョン・キャンディ)の存在など、野球愛に満ちたディテールの描写が素晴らしい。
弱いチームのファンは、せめて映画の中だけでも強くなってほしいと願うもの。そうしたファンの夢から生まれた映画です。
人生のほろ苦さを感じさせる秀作野球映画
この映画は、1950年代末のマイナーリーグを舞台にした、渋さが光る野球映画です。主人公は41歳のベテランピッチャー、ロイ・ディーン(ウィリアム・ラス)。彼はメジャーリーグにたった3週間だけ在籍し、スタン・ミュージアルにホームランを打たれたことを誇りにしているとても気のいい男ですが、もはや引退の時が迫っています。
ある日、黒人の新人ピッチャー、タイロン(グレン・プラマー)がチームに入団してきます。引退間際のロイと黒人のタイロン。チームメートから差別を受ける2人が心を通わせていきます。そしてロイは自分が果たせなかった夢をタイロンに託し、変化球ブリーム・ドリームを伝授します。この映画は、マイナーリーグのうらぶれた雰囲気の描写が出色で、野球しか生きる術を知らないロイの悲しさがにじみ出てくるような佳作になっています。
ちなみにタイトルは、コーヒー一杯を飲む間(つまりあっという間)しかメジャーリーグにいられなかった選手を表すスラングです。実はこの映画には「パスタイム=娯楽」という別のタイトルも付けられています。この二つのタイトルを見るだけでも、アメリカ人にとっての野球の価値や、マイナーリーグの悲哀の上にメジャーリーグの栄光が成り立っていることをうかがい知ることができます。
“コーヒー”だけに、最後に人生のほろ苦さを感じさせる映画ですが、見た者には忘れ難い印象を残します。それを証明するかのように、サンダンス・フィルム・フェスティバルでは観客賞を受賞しました。
今回も“沖田ワールド”は健在なり カープの菊池も協力?
瀬戸内の島を舞台にした沖田修一監督のオリジナル脚本作。東京でデスメタルバンドのボーカルをしている永吉(松田龍平)は、同居している恋人(前田敦子)が妊娠したため、7年ぶりに里帰り。ところが、父(柄本明)が末期がんに侵されていることを知り、しばらく島に残ることになる。
沖田監督は『南極料理人』(09・南極観測隊)、『キツツキと雨』(12・へき地の村での映画撮影)、『滝を見に行く』(14・山中で迷子になったおばちゃんたち)と特殊な状況下でのコミカルな群像劇を描いてきた。今回も離島での群像劇として成立させているが、“おかしな家族もの”としてはデビュー作の『このすばらしきせかい』(06)の味わいに近い気もする。
“沖田ワールド”とも呼ぶべき独特の間や緩いテンポは今回も健在。俺自身はその間が好きで、矢沢永吉や広島カープのネタも面白く見たが、こうしたテンポやネタは万人受けするものではないのが気になる。同じく瀬戸内の島がサブ舞台だった山田洋次の『東京家族』(13)的な題材を、若い監督が撮るとこういう感じになるのかなとも思わされた。
暗く重苦しいが、何故か後を引く
メキシコの麻薬カルテルを壊滅させるべく、特殊部隊に入ったFBI捜査官のケイト(エミリー・ブラント)。特別捜査官(ジョシュ・ブローリン)や謎のコロンビア人(ベネチオ・デル・トロ)らと共に極秘ミッションに就くが…。
メキシコの無法地帯で繰り広げられる攻防を背景に、善悪の境界(ボーダーライン)やグレーゾーンを描く。監督のドウニ・ヴィルヌーブは「“世界の警察”を自負するアメリカが、他国の問題に対処する際の、理想と現実の衝突と、アメリカは暴力をはらむ問題を、即座に効率的に解決するはずという幻想を描いた」語っている。
『ゼロ・ダーク・サーティ』(12)のジェシカ・チャスティンにも似た役柄を体当たりで演じたブラント、原題であるメキシコ語のシカリオ(ヒットマン)を体現したデル・トロの怪演が目を引く。
ロジャー・ディーキンスの暗闇での撮影、伊福部昭の『ゴジラ』(54)を思わせるようなヨハン・ヨハンソンの不気味な音楽も印象に残る。暗く重苦しいが、何故か後を引く映画だ。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
母子役の演技のキャッチボールが素晴らしい
『ルーム』
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