田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『プラトーン』

2019-10-09 10:32:46 | 映画いろいろ
『プラトーン』(86)(1987.5.22.松竹セントラル)
 
 
 アメリカ映画が、それをどれほど忠実に描こうが、残念ながらわれわれ日本人にベトナム戦争の真実や本質は決して分かりはしない。だから、数多く作られてきた戦地物、あるいは帰還兵の心の病を描いた映画を見ても、その中のどれが、最もベトナム戦争の本質や残した傷の深さを的確に捉えていたのかも、本当のところは分からないだろう。
 
 ただ、アメリカ映画の優れたところは、良かれ悪しかれ、一つの視点や思想から描くのではなく、様々な角度や、それぞれの監督の視点や思想から描く幅の広さである。その点、この映画は『地獄の黙示録』(79)の哲学的な難解さや、『ディア・ハンター』(78)のベトコンの描き方のまずさ、といった弱点がなく、最前線の兵士たちの姿のみが記憶に残るように作られているのだ。
 
 ジャングルで生死の境をさまよい、人間性を失った兵士たちが、たとえ生きて故郷に帰っても、普通の暮らしに戻れるはずもなく、『タクシードライバー』(76)のトラビスや『ランボー』(82)の主人公のような悲劇が起こるのも当たり前、という気がしてくるほど、兵士たちの描き方にはすさまじいものがあった。その点では、他のベトナム戦争物とは一線を画す。これは、自身も従軍経験があるというオリバー・ストーンが正直な思いを反映させた結果だろう。
 
 ただ、こうした映画を見て、一瞬は考えさせられても、所詮ベトナム戦争の本質が分からない日本人はあくまでも第三者である。従って、アメリカ本国で帰還兵たちから圧倒的な支持を得たというこの映画を、その尻馬に乗って、分かったような顔をして絶賛している者たちは、実は疑わしい者とすべきなのではないかと思う。

 

 

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『獄門島』

2019-10-09 08:45:06 | 映画いろいろ
『獄門島』(77)(1979.8.3.ゴールデン洋画劇場)


(1988.7.30.)
 横溝正史原作、市川崑監督、石坂浩二主演の金田一耕助シリーズの第3作。金田一は、友人から託された鬼頭千万太の遺書を携えて彼の故郷である瀬戸内海の獄門島を訪れる。だが、千万太の「俺が生きて帰らなければ、3人の妹たちが殺される」という言葉通りに、古い因習の残るこの島で、鬼頭家の娘たちが次々に奇妙な死体となって発見される。ここでも金田一は一つも殺人を阻止できない“傍観者”として描かれている。
 
 原作は、俳句を用いた見立て殺人が趣向の一つだが、市川崑は脚本家・久里子亭として犯人を原作とは別の人物に変更するとともに、鬼頭早苗(大原麗子)と金田一の淡い恋を、原作以上に深く描いている。故に、ラストで島を去る金田一に向かって、万感の思いで鐘をつく早苗の姿が胸に迫るのだ。これは前作『悪魔の手毬唄』(77)のヒロイン・リカ(岸惠子)と磯川(若山富三郎)のパターンを踏襲している。
 
 ただ、この時期の市川崑は、金田一シリーズを撮り続け、一見ワンパターンの映画を作っているように見せながら、実はその中でさまざまな実験を行い、それを後年の多彩な作品に生かしていったとも言えるだろう。音楽はシリーズ後半の3作を手掛けた田辺信一。ジャズやボサノバやスキャットを巧みに取り入れた、ユニークかつ情感のある音楽として印象に残る。
 
【今の一言】先日、しまなみ海道を目指して船に乗った際、点々とある小島を見ながらこの映画のことを思い出した。獄門島のモデルは岡山県の六島で、港のシーンはそこでロケされたのだという。
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「ミスタージャイアンツ」貯金箱 日米野球切手

2019-10-08 11:14:22 | 名画と野球のコラボ
金田さんで思い出した、家にあるあの頃のもの。
 
後楽園みやげの「ミスタージャイアンツ」貯金箱。
まゆ毛は長嶋茂雄、目は王貞治、腹は川上哲治監督だそうだ。
 
アラブ首長国連邦のラアス・アル=ハイマが発行した日米野球切手。
ベーブ・ルース/王貞治
ジョー・ディマジオ/長嶋茂雄
金田正一/スタン・ミュージアル
テッド・ウィリアムズ/村山実
ウィリー・メイズ/中西太
ロイ・キャンパネラ/野村克也
タイ・カッブ/川上哲治
ルー・ゲーリッグ/沢村栄治
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【ほぼ週刊映画コラム】『ジョーカー』

2019-10-07 16:38:13 | ほぼ週刊映画コラム

エンタメOVOに連載中の

『ほぼ週刊映画コラム』

今週は
負のパワーに引き付けられ、圧倒される
『ジョーカー』

詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1202313

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黄金の左腕・金田正一逝く

2019-10-07 11:04:58 | 名画と野球のコラボ
  
 
 通算400勝など、不滅の記録を残した大投手・金田正一が亡くなった。現役の姿は晩年の巨人時代しか見ていないのに、強く印象に残っているのは、多分漫画やアニメの『巨人の星』のおかげだろう。
 
 主人公の星飛雄馬と同じ左腕投手の大先輩として、飛雄馬にプロの厳しさを教え、大リーグボールのヒントを与えてその名付親となり、飛雄馬の最後の登板試合では解説者としてその投球を見守るなど、ONと共に、重要なキャラクターとしてしばしば登場したからだ。
 
 また、個人的にはこんな思い出もある。小学生の頃、後楽園球場での試合前の練習中に、王さんが打った打球が弟の頭に当たり、医務室に運ばれた。その際、何人かの選手がマッサージに訪れたのだが、「坊や、どうした。大丈夫か」と優しく声を掛けてくれたのは金田さんだけだった。そして、その時、見舞いにもらったONのサインボールはわが家宝となったのだった。
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『遥かなる大地へ』

2019-10-07 09:07:09 | 映画いろいろ
『遥かなる大地へ』(92)(1992.9.4.スカラ座)

   
 

 19世紀末、アイルランドの農家の青年ジョセフ(トム・クルーズ)は、地主の美しい娘シャノン(ニコール・キッドマン)と恋に落ち、新天地アメリカへ渡って夢をかなえようとするが…。
 
 公称では『アラビアのロレンス』(62)以来の本格的な70ミリ映画で、映画史上初となるパナビジョン・スーパー70ミリ方式で撮影されたとのこと。また、クルーズとキッドマンの夫婦共演で、アフター・スピルバーグの旗手として期待されるロン・ハワードの監督作という点に興味が湧いた。
 
 前半はジョン・フォードをほうふつとさせるアイリッシュ魂の話から移民の話になり、次はストリート・ファイトの話になり、ここでちょっと悲恋ムードを漂わせ、クライマックスは『シマロン』(31・60)のような土地獲得競争(ランドレース)が展開し、最後はフランク・キャプラのような奇跡のハッピーエンドと、よく言えば波瀾万丈でサービス満点だが、まとまりに欠けるところが惜しい。また、70ミリが生かされたのは、最初の海とラストの荒野の風景だけだったという気もした。
 
 少々意地悪な見方をすれば、夫婦共演という点が、結局は仲のいいところを見せることに付き合わされただけか、と感じさせ、素直に映画に入る込めない雰囲気を作っていたことも否めない。となると、フォードやキャプラへの愛着を示しながら、今一つに終わったハワードに同情してしまうところもある。
 
【今の一言】クルーズとキッドマンはこの後『アイズ ワイド シャット』(99)でも共演し、過激なラブシーンが話題になったが、結局離婚し、今は別々の道を歩んでいる。夫婦共演の映画は珍しくないが、一体どんな気持ちで演じているのだろうと毎度思わされる。ロン・ハワードには『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(18)公開の際に、インタビューをする機会に恵まれたが、あまりの好人物ぶりに驚かされた。
 
【インタビュー】『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』ロン・ハワード監督
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/034b9b32ed126b9e8c531d8a4ab698f0
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1960年代洋画ベストテン2『アパートの鍵貸します』『荒野の七人』『スパルタカス』『ポケット一杯の幸福』『アラバマ物語』

2019-10-06 13:06:41 | 俺の映画友だち
『アラビアのロレンス』のほかに自分が挙げたのは
 
 
 
『アパートの鍵貸します』(60)(1975.2.5.水曜ロードショー)
『名画投球術』No.13 いい女シリーズ3「いい女を観てみたい」シャーリー・マクレーン
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/761dd43fae724252b8d00b08cd7af6b8
『アパートの鍵貸します』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/85ac058fd0ca614eebf3d77ef397c9f3
 
『荒野の七人』(60)(1974.2.2・9.土曜洋画劇場)
名画投球術 No4.「男もほれるカッコいい男が観たい」スティーブ・マックィーン
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/c2d19a8408e75870e3711cd9305ab295
ウエスタン・ユニオン・特急便 第4号 『荒野の七人』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/7afe87fbf4ebcab2aac7bc6ac20e715b
ロバート・ボーンと『荒野の七人』そして『マグニフィセント・セブン』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/d79de621b6cf13f750259e78e6ebfa87
『荒野の七人』ミリッシュ・カンパニー
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a728ce84e41c33880e0d9a24953de1ab
 
『スパルタカス』(60)(1977.3.4・11.ゴールデン洋画劇場)
『スパルタカス』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/49c7a16b3c2ee91137162fc74804055b
 
『ポケット一杯の幸福』(61)(1976.10.5.)
名画投球術No.1「たまには幸せになれる映画が観たい」フランク・キャプラ
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/9e99f5d4aed0879a4acec261f63f830c
All About おすすめ映画『ポケット一杯の幸福』(61)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/1c3156811cfee161832ad7a1aeb7fca6
 
『アラバマ物語』(62)(1982.6.28.)
All About おすすめ映画『アラバマ物語』(62)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ca47e84c8e5335db987ee7f9ce3abda0
『アラバマ物語』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/c8e08b805f4c5ee0f364912507d73b1a
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『真実』のジュリエット・ビノシュにインタビュー

2019-10-06 07:05:41 | 仕事いろいろ
 
 是枝裕和監督の『真実』に出演したジュリエット・ビノシュにインタビュー。
 
 映画では少しやつれて見えたが、実際は、貫禄十分で、いかにも“女優”を感じさせる多弁な人だった。母親役のカトリーヌ・ドヌーブと近しい関係を築くには、なかなか苦労したという。
 
 詳細は後ほど。
 
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『男はつらいよ 寅次郎紙風船』

2019-10-05 08:00:43 | 男はつらいよ
『男はつらいよ 寅次郎紙風船』(81)(1981.1.24.渋谷松竹)


 伊藤蘭がマドンナを演じた『~かもめ歌』では、寅さんが保護者のように映り、落胆したのだが、前作『~浪花の恋の寅次郎』の松坂慶子も、今回の音無美紀子もなかなかいい感じだったので、少しほっとした。そして、本命のマドンナと若いサブキャラクター(岸本加世子)を絡めて描く今回のようなパターンが、今後増えるかもしれないと感じた。
 
 ストーリーは毎回お決まりのパターン、レギュラーメンバーもほとんど変化なし、となると、新作の目玉はどうしてもマドンナの存在になる。そのキャラクターと演じる女優の魅力が、新作の出来を大きく左右するし、ここまでシリーズが続いてきたのは、毎回変わるマドンナ見たさというところもあるだろう。この映画でも、おばちゃん(三崎千恵子)が「寅ちゃんのおかげで随分ときれいな人にも会えました」と語る場面があったが、それはわれわれ観客も同じである。
 
 そして、毎回実らぬ恋に終わることは分かっている。寅さんのドジに笑いながら、自分を見るような感じがしたこともある。寅さんに歯がゆさを感じたこともある。また、寅屋一家に自分の家族を重ねて見ることもある。
 
 ところが、最近の寅さんには空しさややるせなさを感じさせられてしまい、心の底からは笑えなくなってきた。もちろん、ただ笑いながら見ていた子供の頃の自分と、今の自分とでは感じ方も違うだろうし、10年以上の間に寅さんのキャラクターも変化してきている。ただ、寅さんが欠陥人間から人生の卓越者になってしまったようで、違和感を覚えることも少なくないのだ。
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『男はつらいよ 噂の寅次郎』

2019-10-04 13:33:39 | 男はつらいよ

『男はつらいよ 噂の寅次郎』(78)(1984.10.10.水曜ロードショー)

 サブストーリーの、寅さんと博(前田吟)の父・諏訪飈一郎(志村喬)との信州での再会が味わい深い一編。マドンナは寅屋で働く早苗(大原麗子)。寅さんの恋敵役に室田日出男。

 「分かるだろ。惚れてんだよ。不器用だから言えないんだ。行ってやんな」寅が早苗に言ういいセリフ。

(2009.12.31.)
 まさにマドンナを演じた大原麗子の全盛期。きれいだけど、かわいくておしゃれ。そして色っぽい。でも、彼女が亡くなった今となっては、志村喬扮する博の父が語る「今昔物語」の一説がなおさら心にしみた。

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