田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『嵐を呼ぶ男』

2020-09-02 07:00:37 | ブラウン管の映画館
『嵐を呼ぶ男』(57)(1987.7.19.)
 
 
 熱血漢だが心は優しい国分正一(石原裕次郎)が、女性マネージャー(北原三枝)に才能を見いだされ、一流のジャズドラマーを目指す姿を描く。「俺らはドラマー やくざなドラマー」の歌も有名な、石原裕次郎の代表作。
 
 昭和30年代の映画全盛期、タフガイと呼ばれ、一世を風靡した石原裕次郎だが、それに間に合わなかった俺たちの世代にとっては、テレビの「太陽にほえろ」のボス役が最も印象深い。とはいえ、映画出演の初期は、この映画のように家族との関係に悩むナイーブな青年を、ジェームズ・ディーンを意識しながら演じていたようだ。
 
 この映画は、井上梅次監督が自身の小説を基に映画化したものだが、アイデアはジェームズ・キャグニー主演の『栄光の都』(40)から頂戴しているらしい。当時は著作権が今ほどうるさくなかったこともあるが、日活は他にも『赤い波止場』(58)『望郷』(37)から、『赤いハンカチ』(60)『第三の男』(49)から、『銀座の恋の物語』(62)『めぐり逢い』(57)から、『夜霧よ今夜も有難う』(67)『カサブランカ』(42)から、という具合に、欧米の映画からアイデアを頂戴しながら日本的な映画に仕立て上げるという、エネルギッシュなしたたかさを示している。裕次郎はそれを体現したスターだったとも言えるだろう。
 
 この映画も『狂った果実』(56)同様、脇役の岡田真澄が光る。エッセイストの冨田均が名付けた、五反田の助川ダンス横の“裕次郎坂”がちらっと映る。
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高校の大先輩・梅野泰靖と脚本家の桂千穂

2020-09-01 22:03:13 | 映画いろいろ

 俳優の梅野泰靖(やすきよと読む)さんが亡くなった。劇団民藝の重鎮でテレビドラマにもたくさん出ている。映画では、『幕末太陽傳』(57)の放蕩息子・徳三郎、『男はつらいよ』シリーズの博(前田吟)の兄役のほか、刑事役や政治家役も多い。後年は三谷幸喜監督の『ラヂオの時間』(97・写真)『みんなのいえ』(01)『ザ・マジックアワー』(08)にも出ていた。

 インテリとコミカルな役、小市民と小悪党の両方ができる達者な名脇役。名前は分からないけど、見たことはあるという人も多いのではないか。その、やすきよさんは、何を隠そう、高校の大先輩なのだ。だから、全く面識はないのだが、勝手に親しみを感じていた。 

 うちの高校の卒業生の中には、やすきよさんのほかにも、個性的な芸能人がいる。例えば、「湯の町エレジー」が有名な歌手の近江俊郎、小朝の師匠・春風亭柳朝、声優の富山敬、現千葉県知事の森田健作、中退だけど美川憲一、ドラマ「アッちゃん」などで名子役として活躍した蔵忠芳、ラッツ&スターの桑野信義…。

 ところで、脚本家の桂千穂も亡くなった。男性であることはもちろん知っていたが、90歳だとは知らなかった。日活ロマンポルノや東映のアクション映画を書く一方で、大林宣彦監督の文学作、福永武彦原作の『廃市』(84)、赤川次郎原作の『ふたり』(91)『あした』(95)、檀一雄原作の『花筐/HANAGATAMI』(17)も書く、という多面性を示した。不思議な脚本家だった。

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『助太刀屋助六』

2020-09-01 07:08:01 | 映画いろいろ

『助太刀屋助六』(02)(2005.2.28.)


いい遺作だ

 岡本喜八追悼で、図らずも遺作となった『助太刀屋助六』がBSで放映された。実は岡本映画には結構思い入れがあったオレも、この映画は公開時には見なかった。前作『EAST MEETS WEST』(95)の出来があまりにも寂しかったもので、見るに忍びない気がしたのだ。

 ところが、今回追悼の意を込めて見てみたら、これが結構良かった。さすがに往年のカッティング・リズムは鈍っていたものの、彼が生涯追い求めた“和製西部劇”の小品の佳作といった感じがしたのだ。助六役の真田広之の身のこなしの良さも光った。

 また、これはこちらの思い入れ過多だとは思いつつも、新旧の岡本映画を支えた俳優たちが多数姿を見せ、まるで最後にみんなが明るく集ったような感じがしてグッときた。

 中でも、けんか別れが噂された、かつての名コンビ・佐藤允がチョイ役ながらも出てきた時はちょっとウルっときた。何故って、黒澤と三船、ジョン・スタージェスとスティーブ・マックィーン…、みんなこうは行かずに、仲違いしたまま亡くなっていったじゃないか。そういう意味でも、この映画は“いい遺作”だと言ってもいいと思うのだ。

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