田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『慕情』

2020-10-21 06:19:56 | 1950年代小型パンフレット

『慕情』(55)(1981.11.12.)

 朝鮮戦争時の香港を舞台に、英国と中国の血を引く女医(ジェニファー・ジョーンズ)と新聞記者(ウィリアム・ホールデン)の悲恋を描く。

 前に見たのは中学生の頃だったから、当然、愛の深さについてなど分かるはずもない。だから、当時の自分の目には、ただの、涙、涙のメロドラマの一つとしか映らなかったのだが、今回は、自分も多少は成長したし、ホールデンの死に際して見たという感慨もあり、なかなかの映画であると感じた。

 朝鮮戦争、混血児、移民といった問題が描き込まれ、その中で、いかにもヤンキー気質にあふれたホールデンと、エキゾチックな成熟した女の魅力を発散するジョーンズの悲恋が語られる。ラストは、ちょっと『風と共に去りぬ』(39)風だし、蝶を使ったシーンは『西部戦線異状なし』(30)をほうふつとさせる。

 また、サミー・フェイン作曲のテーマ曲も、いかにもメロドラマとマッチした名曲だと改めて感じた。何しろこの曲が流れると、映画が非常に盛り上がる。映像と音楽の相関関係の大切さを思い知らされた。

【今の一言】この映画は香港ロケが大きな効果を発揮しているが、これは、1950年代半ばに流行した「ランナウェイ方式」と呼ばれる、外国の収益金を求めて、外国で製作されたハリウッド映画の中の一本に属する。

ウィリアム・ホールデンのプロフィール↓


ジェニファー・ジョーンズのプロフィール↓


パンフレット(55・外国映画社)の主な内容
解説/梗概/監督ヘンリー・キング/この映画の製作者バディ・アドラー/主題歌「恋はうつくしきもの」/スタア・メモ ウィリアム・ホールデン、ジェニファー・ジョーンズ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『フレンチ・コネクション2』

2020-10-20 06:50:18 | All About おすすめ映画

『フレンチ・コネクション2』(75)
執念の鬼となるポパイ



 ハードなアクションが評判となった『フレンチ・コネクション』(71)の続編です。ジーン・ハックマン演じるポパイ刑事とフェルナンド・レイ演じる麻薬組織のボスのシャルニエという配役は同じですが、監督はウィリアム・フリードキンからジョン・フランケンハイマーに代わりました。

 今回は、ポパイがシャルニエを追って単身、仏マルセイユへ乗り込みます。前半は、ポパイと地元刑事(ベルナール・フレッソン)とのカルチャーギャップによる珍妙なやりとりがユーモラスに描かれます。ところが中盤、ポパイは敵の手に落ちて監禁され麻薬中毒にさせられます。ここは普段はハードなポパイが情けない姿になって苦しむギャップの大きさで見せます。

 そして終盤は、立ち直ったポパイが執念の鬼となってシャルニエを追い詰めていきます。前作はカーチェイスが見ものでしたが、今回はポパイの激走がハイライトになります。ハックマンがさまざまな顔を見せながら大活躍します。

 パート2ものは失敗するのが常ですが、この映画は『ゴッドファーザーPARTⅡ』(74)と並んで、珍しくオリジナルを超えた作品として記憶に残ります。2本続けて見ると、フリードキンとフランケンハイマーの演出法やキャラクターの捉え方の違いが分かって面白いですよ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ビデオ通話で西部劇談議『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』とコメディ西部劇

2020-10-19 21:14:27 | 駅馬車の会 西部劇Zoomミーティング

 今回は『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』(90)を中心に、コメディ西部劇について語り合った。まずは覚書から。

・スピルバーグとゼメキスが「たとえ、変則的であっても、西部劇を作りたい」と考えて、西部の街並みをセットで再現した。

『荒野の決闘』(メアリー・スティンバーゲン演じる女教師クララのモデルはクレメンタイン。特にダンスシーン)、『荒野の用心棒』(マーティはこの時代ではクリント・イーストウッドを名乗る。ラストの対決)など、西部劇のパロディが満載。

・西部劇にしては、誰も死なない。実はビフが保安官を射殺するシーンがあったが、カットした。

・酒場のバーテンはマット・クラーク、客にハリー・ケリーJr.やダブ・テイラーの姿も。

事前にコメディ西部劇の一覧表を作ってみた。

『マルクスの二挺拳銃』(40)マルクス兄弟、監督エドワード・バゼル

『腰抜け二挺拳銃』(48)ボブ・ホープ、ジェーン・ラッセル、監督ノーマン・Z・マクロード、【備考】主題歌「ボタンとリボン」

『彼女は二挺拳銃』(50)ダン・デイリー、アン・バクスター、監督リチャード・セイル、【備考】端役マリリン・モンロー

『腰抜け二挺拳銃の息子』(52)ボブ・ホープ、ジェーン・ラッセル  監督フランク・タシュリン

『底抜け西部へ行く』(56)ジェリー・ルイス、ディーン・マーティン、監督ノウマン・タウログ、【備考】端役クリント・イーストウッド

『縄張り』(58)グレン・フォード、シャーリー・マクレーン、監督ジョージ・マーシャル、【備考】シープマン

『アラスカ魂』(60)ジョン・ウェイン、スチュアート・グレンジャー、監督ヘンリー・ハサウェイ 

『マクリントック』(63)ジョン・ウェイン、モーリン・オハラ、監督アンドリュー・V・マクラグレン、【備考】「じゃじゃ馬ならし」

『キャット・バルー』(65)ジェーン・フォンダ、リー・マービン、監督エリオット・シルバースタィン、【備考】マービン一人二役

『テキサスの五人の仲間』(65)ヘンリー・フォンダ、ジョアン・ウッドワード、監督フィルダー・クック、【備考】ポーカー

『ビッグトレイル』(65)バート・ランカスター、リー・レミック、監督ジョン・スタージェス、【備考】禁酒

『テキサス』(66)アラン・ドロン、ディーン・マーティン、監督マイケル・ゴードン、【備考】油田

『夕陽に立つ保安官』(68)ジェームズ・ガーナー、ウォルター・ブレナン、監督バート・ケネディ、【備考】保安官

『荒野の大活劇』(69)ジュリアーノジェンマ、シドニー・ローム、監督ドゥッチョ・テッサリ、【備考】遺産相続

『テキサス魂』(70)ジェームズ・スチュワート、ヘンリー・フォンダ、監督ジーン・ケリー、【備考】娼館

『真昼の死闘』(70)クリント・イーストウッド、シャーリー・マクレーン、監督ドン・シーゲル、【備考】メキシコ革命

『地平線から来た男』(71)ジェームズ・ガーナー、ジャック・イーラム、監督バート・ケネディ、【備考】炭鉱

『ミスター・ノーボディ』(73)ヘンリー・フォンダ、テレンス・ヒル、監督トニーノ・バレリ、【備考】原案セルジオ・レオーネ

『ブレージングサドル』(74) ジーン・ワイルダー、クリーボン・リトル、監督メル・ブルックス、【備考】主題歌・フランキー・レイン

『サボテンジャック』(79)カーク・ダグラス、アーノルド・シュワルツェネッガー、監督ハル・ニーダム

『サボテン・ブラザース』(86)スティーブ・マーティン、チェビー・チェイス、監督ジョン・ランディス、【備考】無声映画

『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、監督ロバート・ゼメキス、【備考】タイムトラベル

『マーヴェリック』(94)メル・ギブソン、ジョディ・フォスター、監督リチャード・ドナー、【備考】ゲスト・ジェームズ・ガーナー

『荒野はつらいよ』(14)セス・マクファーレン、リーアム・ニーソン、監督セス・マクファーレン、【備考】ゲスト・クリストファー・ロイド

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『クリムゾン・タイド』

2020-10-19 08:10:07 | ブラウン管の映画館
『クリムゾン・タイド』(95)(1995.7.31.ブエナビスタ試写室)
 
   
 
 原子力潜水艦を舞台に、核ミサイルの発射ボタンをめぐる艦長(ジーン・ハックマン)と副官(デンゼル・ワシントン)の対立を描く。
 
 この映画の宣伝文句は「冷戦は終わっていない」。事実、ソ連崩壊後の政情不安、ロシアからの核物質の流失などもあり、そうした意味では、現実的な側面も持ち合わせているとも言える。
 
 ところが、ワシントンとハックマンは頑張ってはいるのだが、トニー・スコットの監督術がまたしてもいま一つで、一触即発状態という緊迫感が画面から伝わってこない。これを見ると、同じく潜水艦内を描いた『Uボート』(81)のウォルフガング・ペーターゼンはすごかったといまさらながら思わされる。
 
 もっとも、この対立する艦長と副官という構図はエドワード・ドミトリク監督の『ケイン号の叛乱』(54)の現代版であり、軍隊の曖昧さという点では最近のロブ・ライナー監督の『ア・フュー・グッドメン』(92)にも似たところがあった。つまりは、アメリカ映画の常套手段に、今の政情を巧みに取り入れたとも言えるのだ。
 
 ところで、ハックマンといえば、冷戦終結間際に作られた、締まらない米ソのスパイ合戦を描いた『ロシアン・ルーレット』(91)に主演していた。あの映画のあまりの緊張感のなさを見て、「あー本当に冷戦は終わったんだなあ」と実感させられた覚えがある。
 
 その後も、ハリソン・フォード主演の「ジャック・ライアン」シリーズなどでの描かれ方の変化を見るにつけ、冷戦はますます遠くに去った感があったのだが、新たにこの映画が出てくるということは、冷戦終結は表向きであって、表に表れない分、実はさらに恐ろしい事態になっているのでは…という心配も浮かんでくる。
 
 とはいえ、少々うがった見方をすれば、ソ連という仮想敵国を失ったアメリカが、薄くなった軍隊の存在をアピールしたいから、こういう映画が出てくる、とも言えるのかもしれない。いずれにしても、ボタン一つで核戦争が起きる状況に何ら変わりはないということだ。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ボディガード』

2020-10-19 07:10:13 | ブラウン管の映画館

『ボディガード』(92)(1993.5.4.渋谷東急3)

 抜群の歌唱力を誇る歌姫レイチェル(ホイットニー・ヒューストン)に脅迫状が届き、ボディガードのフランク(ケビン・コスナー)が彼女の警護を担当することになる。2人は、始めは対立するが、次第に互いに引かれ合うようになる。ヒューストンが歌う主題歌「オールウェイズ・ラブ・ユー」が大ヒットした。

 遅ればせながら、今年(93年)の正月映画の目玉をやっと見た。そして、予告編を目にした時から思ったのだが、この映画のコスナーは、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(90)にも増して、スティーブ・マックィーンに似ている。

 いや、もともとこの映画はローレンス・カスダンが、マックィーンとダイアナ・ロスを念頭に置いてシナリオを書いたのが発端とのことなので、コスナーがマックィーンのイメージを踏襲したということになるのかもしれない。

 だから、マックィーンのファンの一人としては、「もしこの映画がマックィーンの主演で撮られていたら、晩年が不遇だった彼の代表作の一本として残ったかもしれない」という思いが、見ている間中ちらついて、しかも、ここもマックィーンが…と思わせるシーンが多いものだから、集中して見るのが難しかった。似ている、というのも、こういう場合は罪だなあ。

 もちろん、この映画のヒューストンやマイケル・ジャクソンといった黒人のスーパースターが認知された今だからこそ、こうして映画化できたのであろうし、その意味では、間違いなく“今の映画”ではあるのだが、もう一つ締まらない、と感じたのは、こちらがマックィーンの幻影をイメージし過ぎたからか、はたまたカスダンが、自分で監督をやらずに、イギリス出身のミック・ジャクソンなる新人監督に撮らせたためか。

 それにしても、ケビン・コスナー。『再会の時』(83)では出演シーンをカットされた俳優が、よくぞここまで、いい役ばかりを演じる俳優になったものだ。まさしく、アメリカンドリームの体現者の一人ということになるだろう。

【今の一言】この時点では、ヒューストンの不幸な死やコスナーの凋落は、誰も予測できなかったはずだ。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【インタビュー】『彼女は夢で踊る』加藤雅也

2020-10-19 06:10:39 | インタビュー

 10月23日から新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。ストリップ劇場の社長を演じた加藤雅也に、映画への思いや、役作り、広島の印象などを聞いた。

「低予算の地方の映画に出るときは、普段とは違うキャラクターが演じられることに意義がある」
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1246100

『彼女は夢で踊る』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/19c110b5bb6c7f2c650ade49d03574d6

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

井上ひさしの芝居4「黙阿弥オペラ」「連鎖街の人々」「天保十二年のシェイクスピア」

2020-10-18 16:01:54 | ブックレビュー

「黙阿弥オペラ」(95)

 河竹新七(辻萬長)、五郎蔵(角野卓造)、おみつ(島田歌穂)、とら(梅沢昌代)、及川考之進(松熊信義)

 時は幕末、傷心の河竹新七と偶然出会い、意気投合した4人の男たちが、捨て子のおせんを育てるために株仲間を始める。やがて明治となり、株仲間は国立銀行に、おせん改めおみつはオペラ歌手に、新七は新作狂言で一世を風靡するが…。

 時代に翻弄される歌舞伎狂言作者・河竹新七(後の黙阿彌)と仲間たちを描きながら、見事な人間賛歌を構築している。ビゼーのオペラ「カルメン」と歌舞伎の「三人吉三」の掛け合わせの場面が抜群に面白い。


「連鎖街の人々」(00)

 辻萬長、木場勝己、中村繁之、藤木孝、松熊信義、石田圭祐、朴勝哲、順みつき

 終戦直後、大連の繁華街「連鎖街」のホテルに閉じ込められた劇作家たちを描く。


「天保十二年のシェイクスピア」(2005.12.28.)

 演出・蜷川幸雄、音楽・宇崎竜童 佐渡の三世次(唐沢寿明)、きじるしの王次(藤原竜也)、お光/おさち(篠原涼子)お里(夏木マリ)、お文(高橋惠子)、尾瀬の幕兵衛(勝村政信)、隊長(木場勝己)、鰤の十兵衛・飯岡の助五郎(吉田鋼太郎)、西岡徳馬
 
 いかにも、井上ひさし作らしく、パロディ(シェークスピアの芝居と「天保水滸伝」などの講談の掛け合わせ)や、語呂合わせ、そしてミュージカルっぽい仕掛けが随所になされているのだが、果たして演出・蜷川幸雄、音楽・宇崎竜童がそれをちゃんと生かせたのかどうかは疑問がのこる。音楽は井上芝居の常連、宇野誠一郎にやってほしかった。

 もっとも当方、シェークスピアの作の芝居を全て知っているわけではないので、あまり偉そうなことは言えないのだが…。語り部役の木場勝己がうまい!


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

井上ひさしの芝居3「表裏源内蛙合戦」「化粧」「紙屋町さくらホテル」

2020-10-18 11:13:07 | ブックレビュー

「表裏源内蛙合戦」(92)(1997.11.19.)

 演出・熊倉一雄、音楽・服部公一 安原義人、熊倉一雄、納谷悟朗、矢代駿

 江戸の一大奇人・平賀源内の夢と挫折の生涯を、色と欲が渦巻く風俗の中に浮かび上がらせる。

 今回のテアトル・エコーは、声優として有名な人たちが所属する劇団。普段はあまり顔を見ることはないが、この芝居で、彼らの俳優としての本来の姿が見られた。

 加えて、すでにこの初期のものから、井上芝居の特徴である、ミュージカル的な要素や、タイトル通りに文化人たちの裏表を描くことで、よりその人物を際立たせるという手法が確立されていたことをうかがい知ることができた。


「化粧」(82)(1997.11.20.)

 演出・木村光一 

 渡辺美佐子による一人芝居。旅一座の座長をバリバリの新劇の女優が演じる面白さがある。一種の母ものとしての芝居そのものと、劇中劇が二重構造となることによって生じる切なさが見どころ。


「紙屋町さくらホテル」(97)(1997.12.30.)

 演出・渡辺浩子、音楽・宇野誠一郎 神宮淳子(森光子)、長谷川清(大滝秀治)、園井恵子(三田和代)、大島輝彦(井川比佐志)、針生武夫(小野武彦)、熊田正子(梅沢昌代)、丸山定夫(辻萬長)

 新国立劇場のこけら落とし公演。広島の原爆で散った、さくら隊という実在の即席一座に、軍人を紛れ込ませるという、井上芝居お得意の、相反する価値観を持つ者たちのちぐはぐなやり取りが展開する。それを半ばコミカルに見せながら、やがて事の核心へと迫っていく、という手法が、この芝居でも効果的に使われていた。

 そして、そこから戦争の罪、死んでいった者たちの無念、生きのこった者の苦悩、あるいは芝居の素晴らしさ、といったテーマが浮き彫りになる。今回もお見事な作品でありました。


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

井上ひさしの芝居2「たいこどんどん」「父と暮せば」「きらめく星座 昭和オデオン堂物語」

2020-10-17 08:46:14 | ブックレビュー

「たいこどんどん」(95)(1996.10.13.)

 演出・木村光一、音楽・宇野誠一郎 幇間・桃八(佐藤B作)、若旦那・清之助(岡野進一郎)、女郎・袖ヶ浦(順みつき)、沖恂一郎

 井上ひさしお得意の、自らの故郷・東北と東京とを巧みに交差させた幕末もので、心情とは裏腹に、どんどん江戸から遠ざからざるを得なくなる太鼓持ちと若旦那コンビの旅が、時にはおかしく、またある時には悲しく綴られる。

 かなりシビアな場面もあり、いささか長過ぎる気もしたが、同じ役者が一人で何役もこなすことによって生じる妙なおかしさや、ラストの「江戸が東京に変わったって人間は何も変わりゃしねえ」という、太鼓持ちの啖呵に救われる。沖恂一郎という中年のいい役者を発見した。


「父と暮せば」(95)(1997.5.3.)

 演出・鵜山仁、音楽・宇野誠一郎 福吉美津江(梅沢昌代)、福吉竹造(すまけい)

 自分がこれまで見てきた井上ひさしの芝居は、そのほとんどが半分ミュージカルコメディのようなものだった。ところが、この芝居では、心に傷を持った娘と、幽霊となった父親との会話の中から、原爆や被爆者に関する問題を明らかにしていく、という特異な手法が取られている。

 これまた秀逸な手法なのだが、今回は正直なところ、見ていてつらくなった。あまりにも扱っている問題がシビアで、時折吐かれる井上お得意の言葉遊びも、心底からは楽しめなかった。

 もちろん、井上が、黒澤明との対談で、「お客が見終わった後に生きる勇気が湧いてくるような芝居作りを心掛けている」と語ったように、この芝居も、ラストはきっちりと救いがあるのだが、そこまでの展開があまりにも厳し過ぎるのだ。

 と、まあ、ストーリー的には苦さが残るものの、すまけいと梅沢昌代の二人芝居は見事だった。


「きらめく星座 昭和オデオン堂物語」(85)(1997.11.18.)

 作・演出・井上ひさし、音楽・宇野誠一郎 小笠原信吉(犬塚弘)、小笠原ふじ(夏木マリ)、小笠原正一(橋本功)、小笠原みさを(斉藤とも子)、源次郎(名古屋章)、権藤三郎(藤木孝)、竹田慶介(すまけい)

 今回は、戦争前夜のレコード店を舞台に、脱走兵の長男がいるリベラルな一家のもとに、憲兵や傷痍軍人が現れて…という設定で、相反する価値観を持つ人物を、ユーモアを交えて対照的に描きながら、やがて戦前の日本が抱えていた矛盾をあぶり出していく。

 また、井上芝居はミュージカル仕立てのものが多いのだが、今回も、当時の流行歌を巧みに盛り込むことで、音楽が持つ力や切なさも描き込んでいる。役者たちも、犬塚弘、橋本功、名古屋章、藤木孝、すまけいら、一癖ある豪華な顔ぶれがそろっていた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『がんばれ!ベアーズ』

2020-10-17 07:40:22 | ブラウン管の映画館
『がんばれ!ベアーズ』(76)(1977.8.27.銀座文化)
 
 
 元野球選手のバターメーカー(ウォルター・マッソー)は、ひょんなことから問題児ばかりの少年野球チーム・ベアーズのコーチを任される。このままでは勝てないと考えた彼は、元恋人の娘で快速球を投げるアマンダ(テイタム・オニール)や、不良少年だが優れたバッターのケリー(ジャッキー・アール・ヘイリー)をスカウトし、チームの立て直しを図る。
 
 思わず時間がたつのを忘れてしまうほど楽しめた。チームの少年たちの個々の性格がとてもよく描かれていた。特に、黒人の少年と気の弱い少年のラスト近くの大活躍には思わず拍手。マッソーが子役たちに食われずに、ちゃんと目立っていたところはさすが。ビック・モローの敵方の監督=悪役というキャスティングも面白かった。
 
 それぞれが問題を抱えるチームメートの生活と野球にのめりこんでいく様子を交差させて描く再生物語は、先に見た『ロッキー』(76)もそうだが、「結果よりも努力の過程が大事なのだ」という“敗北の中の栄光”がテーマとなる。監督マイケル・リッチー、脚本ビル・ランカスター(バートの息子)、撮影ジョン・A・アロンゾ。音楽はジェリー・フィールディングが担当し、ビゼーの「カルメン」を効果的に使っている。
 
【今の一言】続編として『がんばれ!ベアーズ 特訓中』(77)『がんばれ!ベアーズ大旋風 -日本遠征-』(78)が作られた。ヘイリーは紆余曲折を経て、くせ者の脇役として現役を続けている。
 
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする