田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

バリー・ボンズのこと。そして「61*」

2021-01-24 23:05:37 | 映画いろいろ

 ハンク・アーロンの訃報に接して、このドラマのことを思い出した

バリー・ボンズのこと。そして、「61*」(01)(2006.5.3.)

 サンフランシスコ・ジャイアンツのバリー・ボンズが、ベーブ・ルースの通算本塁打記録714本に並ぼうとしているのに、アメリカでは驚くほど無関心な感じがする。もちろん、ボンズ本人の性格の悪さや薬物疑惑のせいもあるのだろうが、そこに人種差別のにおいがするのがやるせない。

 あのハンク・アーロンが、ルースの記録を破った1974年も、白人のルースの記録を黒人のアーロンが破るのは許せないとして、あからさまな差別が示されたが、あれから30年余りがたった今も、あまり変わっていないということなのか。

 思えば、マーク・マグワイアがロジャー・マリスの年間本塁打を破った時の大騒ぎは、彼が白人だったからなのかもしれない。もし、あの時、共に争ったドミニカンのサミー・ソーサの方が記録を破っていたとしたらと考え、あるいは、その後にさらに記録を塗り替えたボンズに対する冷淡さを思うと、残念ながらそんな思いを抱かされてしまう。

 で、前から気になっていたビリー・クリスタル監督作「61*」(01)を見た。ニューヨーク・ヤンキースのロジャー・マリスが、同じくベーブ・ルースの年間本塁打記録を破る61ホーマーを放った1961年のシーズンを追ったドキュメンタリータッチのテレビムービーだ。

 MM砲と呼ばれたマリスとミッキー・マントルだが、伝説のルースの記録を破るのは、移籍してきたマリスではなく、生え抜きのスターのマントルでなければならないと考える残酷なファン心理、ルースの記録を守ろうとするコミッショナーやマスコミの差別などが赤裸々に描かれる。人は人種に限らず、いろいろな理由で差別をするのだと思わされる。

 タイトルにある*=アスタリスクは、マリスの記録達成が、ルースが記録した時よりも、ゲーム数が多かったために無理やり付けられた注釈のこと。加えて、マリスもマントルもトラウマを抱えていて、結果的に酒やたばこで命を縮めたという事実が悲しく映った。

 そういえば、イチローがジョージ・シスラーの年間最多安打を破った時にも、試合数の違いが騒がれたが、ルースとシスラーの存在感の違い、あるいは記録自体が地味だったために小火で済んだと思っていた。ところが、このドラマを見て、実はこのマリスに対する不当な扱いを、ファンも機構もマスコミも、多少は反省した結果だったのかもしれないと思った。

 マリス役のバリー・ペッパー、マントル役のトーマス・ジェーンとも、驚くほど本人に似ているし、ゲームシーンもリアルだ。変な話、日本のON砲を扱った映画ができたとしても、果たして誰が王さんや長嶋さんを演るのか。第一、こんなにリアルなゲームシーンはできんでしょ。
 

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万能選手ハンク・アーロン

2021-01-23 15:14:51 | 名画と野球のコラボ

 メジャーリーグ歴代2位の通算755本の本塁打を記録したハンク・アーロンが亡くなった。

 アトランタ・ブレーブス、ミルウォーキー・ブルワーズという比較的地味なチームでプレーしていたからか、彼の存在を意識し始めたのは、ベーブ・ルースの714本に迫った1973年あたりからか。そして翌年ルースを抜き、シーズンオフの日米野球でニューヨーク・メッツとともに来日。王さんと本塁打競争を行った(結果は10対9でアーロンの勝利)。このとんでもない企画の仕掛人は一体誰だったのだろう。

 アーロンは本塁打記録ばかりが強調されるが、通算2297打点は歴代1位、通算打率も305で、俊足、強肩を誇る万能選手。人格者としても知られ、王さんと一緒に世界少年野球大会にも尽力していた。

 2007年に、バリー・ボンズがアーロンの記録を抜いたが、薬物疑惑が浮上。アーロンは「私は長年野球をしてきたから、シーズン70本以上の本塁打を打つのは無理だということが分かっている」とし、薬物疑惑のある選手の記録には脚注を付けるべきだとしている。その言葉にアーロンの誇りがにじむ。

大谷翔平とベーブ・ルース、そして映画
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/1ba43b752319e46cb2dc1588df7e0de4

『MacMillan The Baseball Encyclopedia』と『フィールド・オブ・ドリームス』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/151dc06d69746634b1ec9cb8575efc40

「映画で見る野球 その4」 番外編
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/76d2b2c85a951d4ccf9946f06dc51c85

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『ムーンウォーカー』

2021-01-23 07:31:29 | 映画いろいろ

『ムーンウォーカー』(88)(2009.11.9.MOVIX亀有)

 88年の公開当時から珍品の呼び声が高かったこの映画が急きょ公開された。恐らく『THIS IS IT』の予想以上の大ヒットにあやかったのだろうが、こちらもその余波に乗ってしまった。とは言え、もともと映画としての面白さは期待しておらず、マイケルのビデオクリップでも見るつもりで出掛けたので思いのほか楽しめた。

 前半の逃げ回るマイケル(足速えー)は、『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』(64)を意識しているのだろうし、ショーン・レノンが出てきたり、ラストにカム・トゥゲザー/Come Togethe」を持ってきたのもビートルズフリークのマイケルならではだと感じた。またスムース・クリミナル/Smooth Criminal」では、フレッド・アステアの影響が垣間見えた。

 歌やダンスはもちろん、子どもたち、猿のバブルス、過去の映画、特撮、ロボット、ビートルズ、エリザベス・テイラーなど、マイケルの好みがてんこ盛りにされたプライベート映画の趣。あのネバーランドも、この映画のような世界にしたかったのだろうか。敵役のジョー・ペシが、1人で頑張って、浮いていたのが笑えた。

後日、MTVでマイケル・ジャクソンのビデオクリップ特集を見る。

 「今夜はドント・ストップ/Don't Stop 'Til You Get Enough」「オフ・ザ・ウォール/Off the Wall 」(79)から「ワン・モア・チャンス/One More Chance」(03)まで、まさにミュージックビデオの申し子とも言える圧巻のダンスシーンの数々を堪能した。

 マーロン・ブランド、クリス・タッカー、マイケル・マドセン、ビリー・ドラゴが出ている「ユー・ロック・マイ・ワールド/You Rock My World」(91)や、エディ・マーフィ共演の「リメンバー・ザ・タイム/Remember the Time」(92)などを見ていると映画、映像フリークとしてのマイケルの姿が浮かび上がってくる。

 その白眉が、ジョン・ランディス監督、リック・ベイカーの特殊メーク、音楽エルマー・バーンスタイン、そしてビンセント・プライスの語りが入る「スリラー/Thriller」(83)だ。

「スムース・クリミナル/Smooth Criminal」
https://www.youtube.com/watch?v=h_D3VFfhvs4

「リメンバー・ザ・タイム/Remember the Time」
https://www.youtube.com/watch?v=LeiFF0gvqcc

「スリラー/Thriller」
https://www.youtube.com/watch?v=sOnqjkJTMaA

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憧れの年上女性ナタリー・ドロン

2021-01-22 13:36:56 | 映画いろいろ

 思春期の頃、映画の中で憧れの年上女性の一人だったナタリー・ドロンが亡くなった。

 

 代表作は、ルノー・ベルレーを相手役に年上の女を演じた『個人教授』(68)だが、妹役のスーザン・ストラスバーグと同性愛関係にある『姉妹』(69)でのヌードシーンの方にドキドキさせられた。ナタリーは、とにかく顔がセクシーで、危ない雰囲気を漂わせていた。

 デビュー作『サムライ』(67)で共演した元夫のアラン・ドロン共々、日本では特別に人気があった。ちょっと調べてみたら、映画雑誌『スクリーン』の「読者が選んだ人気スター・ベスト20」には、1970年の20位から顔を出し、出演映画の公開はほとんどないのに、75年には4位にまで上り詰めた。また、『ロードショー』の付録の「スター名鑑1975年版」では、アランと共に表紙を飾っている。

 これは、テレビ放映された『個人教授』や『姉妹』、『八点鐘が鳴るとき』(71)、あるいは映画雑誌のグラビア(時にはヌードも)のイメージの蓄積故だろうか。動画過多の今の時代からは考えられないことだが…。

 初めてナタリーと映画館で対面したのは『新・個人教授』(73)だった。予想通り、どうということもない映画だったが、ナタリーのセクシーな年上女ぶりと、ヌードが拝めただけで満足した。そして、『危険な関係』(76)は、『エマニエル夫人』(74)のシルビア・クリステルではなく、ナタリー目当てで見た覚えがある。

 『青い体験』(73)のラウラ・アントネッリも先年亡くなった。『課外授業』(75)のキャロル・ベイカーは健在か…。年を取ると、こういう寂しい出来事がどんどん増えてくる。

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『あの頃。』

2021-01-22 07:37:18 | 新作映画を見てみた

おもろうてやがてちょっと切なくなる

 原作は劔樹人のコミックエッセー。大阪を舞台に、「ハロー!プロジェクト」(ハロプロ)に夢中になる、アイドル・オタクたち(松坂桃李、仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人、コカドケンタロー)の青春を描いた群像劇。

 基本的には、しょうもない奴らのばかばかしい日常や姿を描いたコメディなのだが、見ながら、無性に切なくなったり、彼らがいとおしく感じられたりもする。それは、今泉力哉監督と脚本の冨永昌敬の、彼らを描くまなざしがとても優しいからだ。おもろうてやがてちょっと切なくなる展開に、笑いながらついほろりとさせられた。

 『アイネクライネナハトムジーク』(19)もそうだったが、今泉監督は、登場人物の一人一人がきちんと浮き立つような演出をする。つまり群像劇に冴えを見せるのだ。

 今回は主人公がミュージシャン志望であり、アイドルにまつわる音楽も重要な役割を果たす。そういえば今泉監督のデビュー作は『たまの映画』という音楽ドキュメンタリーだった。

 その『たまの映画』が、和歌山県の「田辺映画祭2010」に出品された際に審査員を務め、審査の席でこれを推した覚えがある。あれから約10年がたち、今は随分立派な監督になったと思うと感慨深いものがある。

2010「第4回田辺・弁慶映画祭」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f65fde8b607b8a85229362cc977171fd

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「BSシネマ」『ギターを持った渡り鳥』

2021-01-21 07:14:58 | ブラウン管の映画館

『ギターを持った渡り鳥』(59)

「思い出すというのは忘れているからさ。俺は忘れてはいないから、思い出すということもない」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/11fe57325e9b31b0c8ab0f115a013464

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【ほぼ週刊映画コラム】『どん底作家の人生に幸あれ!』

2021-01-21 06:25:46 | ほぼ週刊映画コラム

共同通信エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は
ディケンズの古典を今風に映画化した
『どん底作家の人生に幸あれ!』

詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1258145

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「午後のロードショー」『コラテラル』

2021-01-20 07:29:42 | ブラウン管の映画館

『コラテラル』(04)(2006.3.13.)

 コラテラルとは"巻き添えを食う"という意味らしい。つまりジェイミー・フォックス扮するタクシードライバー(こちらが主役みたいだ)が、トム・クルーズ扮する殺し屋(あまり似合わない)の仕事に巻き込まれていく話でアイデアはなかなか面白そうだと思った。

 ところが、ロサンゼルスの夜景など雰囲気は悪くはないのだが、語り口が冗漫で緊張感に欠け、結局は、またも消化不良のマイケル・マン映画という印象を抱かされた。たとえばこの題材を1時間半ぐらいに絞り込んで描いたらもっと面白くなったはずだと思うのだが…。

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【インタビュー】「もぐもぐ」「トッカイ~不良債権特別回収部~」広末涼子

2021-01-19 22:50:06 | もぐもぐ HABATAKE

今回は役作りのプランを変えなければと思いました。
https://bentounohi.jp/mogumagazine_16/

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『ゆるゆる映画劇場』(みうらじゅん)

2021-01-19 20:15:32 | ブックレビュー

 雑誌『映画秘宝』の連載をまとめて文庫化したもの。映画の感想に、筆者の青春の思い出や妄想を絡めながら下世話なエロ話を繰り広げる。本職のイラスト付き。

 筆者は自分と年が近いので、映画体験には通じるところが多いのだが、どんな真面目な映画についても茶化して書いてしまう独特のスタイルはとてもまねができない。それが嫌味にならないのは、この人も映画狂だということが文章の端々から感じられるからだろう。

 映画について、真面目に、高尚に書くのも難しいが、あえて不真面目に、下世話に書くのもまた難しい。ここまでくればもう立派なレトリックだ。

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