硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語。89

2021-08-10 20:35:52 | 日記
「驚くよね。でも、だからといって僕は何も変わらない。でもね、社会は、僕たちの知らない所で、ひどく歪んでるんだ。例えば、就職先も、出生地が分かると敬遠されたりするようだし、結婚となると、僕の父さんと母さんは幼馴染だったから、問題はなかったけれど、地区の外の人と結婚しようとすると、相手の両親が猛反対して、諦めなきゃならないってケースも沢山あったんだよ。ただ、地区出身っていうだけでね。」

「ひどい! それって差別じゃない! SDGsの目標にも、人や国の不平等をなくそうってあるのに。私の父さんや母さんだってそう思うよ。」

「そうかも知れないね。でも、おじいちゃんやおばあちゃんの世代は、差別意識が根強く残っている世代だから、僕らが結婚ってなった時、きっと、反対すると思う。」

「そんな! そんなことない! そんなこと・・・・・・。」

その時、ようやく分かった。どうして私と距離を置いていたのかを・・・。彼の優しさは、鋭く尖った刃のようで、深く私の胸に突き刺さり、涙が溢れそうになった。

「ごめん。やっぱり話すべきではなかったかな。」

「ううん。今、凄く心が痛いけど、加持君の思い悩んでた理由が聞けてよかった・・・。」

でも、想いは複雑。彼の出生地がどうであろうと、私には関係ないはずで、誰が悪いわけでもない。でも、実体のないモノには、話し合うことも、怒ることも、ぶつけるところもない。

「ありがとう。でもね、令和になっても差別意識がなくなっていないという事は、これから先も、どこかであり続けるってことだし、その理不尽さは、地区出身者である僕にも降りかかってくるかもしれない。だから、しっかり勉強して、学歴を得る事で相殺しようと考えてるんだ。」

「そうだったんだ・・・・・・・。」

その事実を知らされた時、私はなんて子供なんだろうと思った。ただ好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたいと願っていた事が、ままごとのように感じた。

「・・・その差別って、いつ頃からあるの? 」

「僕自身もよくわからなかったから色々調べたんだけど・・・・・・。聞いてくれるかな? 」

「うん。聞きたい! 」

逃げてはいけない。真正面から向き合って、いっしょに考えてゆかなければ、先には進めないと思った。