硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語。99

2021-08-22 20:36:17 | 小説
(報告します。無事先輩に告白できました。でも、上手くいきませんでした。なぜなら、先輩はゲイな人だったからです。それを聞いた時、動揺しすぎて、パニックになりましたが、先輩の話を聞いているうちに、私の世界はとても狭かったんだなと感じました。そして、今のままではいけないんだなとも思いました。それで、きっぱりとあきらめが付いたかと言えば、そうでもないですけど、少しだけスッキリしました)

そうか。なるほど。先輩の背後に見えた色が、見たことのない色だったのは、そういう理由だったんだ。しかし、綾乃は本当に凄い人だ。もし私が、好きな人から、ゲイだって告白されたら、すごくショックだろうし、話しかけられても、耳に入ってこないような気がする。その点、綾乃は、変わりなく先輩と話し合えたというのだから、そのコミニュケーション力には感動してしまう。

(失ったものも大きいけれど、得るものが沢山あったみたいだね。綾乃の言葉に、勇気をもらえたよ)

(こちらこそ背中を押してくれてありがとう。けど、ヒドく傷ついてますwww)

こんな時、なんて言葉をかけてあげればいいんだろう。変な優しさは余計に傷つけてしまうだろう。賢者は思い悩む者に対して、なんて声をかけるだろう。その時、ハッと思い出す。迷わず画面に文字を打つ。

(ゲーテ曰く、泣いてパンを食べた者でなければ、人生の本当の味は分からない)

(??)

やっちゃった! 焦りに焦る。

(ごめん。つい)

(wwwwwww)

(ゲーテって言う人の言葉なんだけど、ふいに浮かんで)

(きらららしいねwww 何となく意味は分かるから大丈夫だよ)

(ごめん)

(たしかにいい経験だったよ。それからね、帰りの電車の中で、偶然にも先輩の彼女って言われてた人にも会って、話を聞くことが出来たんだ。だから、当時のもやもやした気持ちはなくなったし、考え方も少し変わった気がする)

心に余裕がないと、辛い出来事をよい経験に置き換えることは出来ない。綾乃は、急成長しかけている。

(すごいね綾乃! それに比べて、私は全然駄目だ)

送信と同時に、返信が来る。

(それから、もう一つ報告があります)

えっ。なに。なんだろう。鼓動が早くなる。思わず体を起こし、なぜか正座をしてしまった。