
ふたつの観光スポットをつなぐ道そばに私たちは立っている。
この季節、前の道は上り下りとも沢山の行楽の車が行きかいとても賑やか、いや騒々しいなと思うことが多い。時には、ひやりとするすれ違い、最近は多くなった。この付近、民家も消え歩く人のいないのが幸いだ。
時おり私たちの側に車が止まる。それは家族連れや親しい仲間のようだ。
「すごい」「秋たけなわ」と私たちの感想を話してくれる。頭をなぜ、柔らかくて気持ちいいと言いながら抜き取り、頬をなぜ、気持ちよさそうにしている。若い人に抜き取られた仲間は嬉しそうだ。必ず「撮って」と私たちの前でポーズを取りカシャッと音を残して、挨拶なしに去って行く。
今、私たちが立っているのは誰も世話してくれなくなった休耕田。こんなになって何年になるだろう。こんなになる前のこの季節は、収穫の終わった田が一休みしていた。私たちが訪れるすきなどなかった。
いつのころだったか、風に吹かれてこの田に住むようになった。仲間はどんどん増えた。近所の田も次々長期休暇に入り、近隣といえるほどの域が仲間の住みかになった。
本当はここに住みたくない。田は田として活かして欲しかった。蘇らせるならいつでも私たちは去っていく。と向かいの彼岸花さんと毎秋話している。彼岸花さんも真っ赤な顔で頷いてくれる。
「お月見にピッタリ」の声と共に鋭いハサミの音がした。この時期になるとこうして仲間が少しだけ切り取られていく。ススキの冥利と残った仲間は見送る。秋もあと少し、冷たい風に見送られながら私たちの季節はまもなく消えていく。
(写真:美しく見えるが悩んでいるススキ)