TENZANBOKKA78

アウトドアライフを中心に近況や、時には「天山歩荷」の頃の懐かしい思い出を、写真とともに気ままに綴っています。

追想 「初めての大崩山」(2012年8月)

2015年11月17日 | 山(県外)
大崩山に初めて登ったのは今から3年前、2012年8月24日のことでした。前日23日に、大崩山の登山基地になる祝子川温泉・美人の湯に来ていたのですが、その日が木曜日だったことが不運でした。というのは、美人の湯が定休日でお休みだったからです。もし、営業日であったなら、支配人さんからあの日の登山は中止するようにアドバイスをもらっていたと思います。ああ運命の悪戯か、ある意味北アルプスの大キレットより恐怖を感じた雨の大崩登山はこうして始まったのです。


この日の祝子川温泉・美人の湯(定休日)には、暗い雲が低く垂れこめていました。


登山者のために解放されている美人の湯の第2駐車場には、水洗トイレや簡単な流しがあり自炊もできます。平日ということもあって、この日は私一人で貸し切り状態でした。


愛車アトレーにて初めての車中泊。折りたたんだ後部座席のわずかな段差が気になって、夜中に何度も目が覚めました。(登山後、ここがフラットになるように改造 → 「究極の軽キャンピング」)


大崩山荘


登山口から30分の大崩山荘までの間に狸、そして猿の群れに遭遇しました。とにかく祝子川を流れる川の音がものすごくて、私の足音をかき消していたのでしょう。狸はすぐそばに近づくまで私に気づきませんでした。猿はほぼ出会い頭で、お互いに目が合ってびっくり。猿は「キッキー、キッキー」と甲高い鳴き声を発しました。すると、河原に群れていた猿軍団が一斉に私の方を向くのでした。「襲われる!」一瞬緊張が走りましたが、じわりと猿が向きを変え去り、道を譲ってくれました。そういえばここは「九州一の原生林」と言われていますから、野生の動物がいてあたりまえです。ふだんは人の足音が聞こえるので、動物の方が姿を隠しているだけなのでしょう。

そして祝子川の徒渉。あそこに見えている鉄の橋まで行くのが大変でした。激しく流れる水の音は今までに聞いたことのないような轟音で、それだけで足がすくみました。




岩壁やわく塚の岩峰群を見ながら少しずつ高度を上げていきました。午前中は何とか天気はもっていました。






ガスの切れ間からフーッと顔をのぞかせる岩峰は、巨大な要塞を思わせます。





昼を過ぎた頃から小雨に変わりました。大崩の岩は凹凸が少なく、濡れたらよく滑ります。



ゾウ岩のトラバース。岩に渡してあるワイヤーロープにつかまって慎重に渡っていきます。ここを過ぎると嫌になるほどの梯子とロープの連続。裏を返せば危険な道が延々と続くということです。





雨は小雨でたいしたことなかったのですが、濡れた岩は登山靴のグリップが利かないので、何でもない所でよく足を取られました。(詳しくは → 「大崩山 危険箇所」をご覧ください)

ゾウ岩から後は写真を撮る余裕など全くありませんでした。そういえばこの日は、山の中で誰とも会っていません。こんな天気の日に登る人などいないということです。いや、下山後に美人の湯の支配人にがおっしゃるには、こんな日は大崩に登ってはいけないとのことでした。

濡れた坊主尾根ルートのあまりの苛酷さに、「遭難」の2文字が頭をよぎりました。もし遭難で新聞に載るようなことがあれば、元ワンダラーとして面目が立たない。真っ先に浮かんだのが、現役時代、ことあるごとに「山をなめるなよ」と言っては部員の遭対に対する意識を高めてくださっていたO先輩の顔です。元ワンダラーの誇りにかけ、何が何でも無事に下りなければと心に決め、細心の注意を払って歩いていきました。

イヤと言うほどの梯子を下りて林道との分岐地点にたどり着きました。


本来ならば指導標の「上祝子登山口」、つまり行きに通ってきた大崩山荘を目指して下りるべきなのですが、祝子川のさらなる増水が心配されたので林道にエスケープすることにしました。(この判断は、下山後の美人の湯で、「よくルートを勉強されていましたね」と、支配人さんに褒めてもらいました)
ところが、林道に行くためには小さな川を越えなければなりません。ふだんは屁でもない川なのですが、この川も増水で肥えていて、膝下近くまで水に浸かって越えなければなりませんでした。ただ、距離が2mほどでしたので何とかことなきをえました。

そして林道。私が思っていた「林道」とまったくイメージが違う林道でした。正確には旧林道で、今では荒廃した道で崩落もひどいものでした。この林道で、思わぬ失敗をしでかしてしまいました。坊主尾根の緊張から解放され油断したせいか、こともあろうに道を間違ってしまったのです。「ウソだろう、あそこは一本道で迷うような所はない」と言われそうですが、間違ってしまったのです。歩けど歩けど山を下りているという感じがしなかったのです。実際、高度は増していました。
怪しいなと思いながらもしばらく歩きましたが、谷がどんどん小さくなっていくのを見て「やってしまった…」と間違いを確信しました。夕闇が近づいていたので、今日中に帰り着くいことができるのかと、あらたな不安が襲ってきました。
何となればビバークでもかまわなかったのですが、登る前に出した入山届に「日帰り」と書いていたからです。雨交じりの天気、入山届の下山日、そして登山口に駐車してある長崎ナンバーのアトレーを見て、地元の人たちが、この長崎の人は遭難したのではないかと心配し大事になるのではないかという不安でした。
とにかく林道分岐までは間違いなかったのだからそこまで戻ろうと小走りで急ぎました。しかし、またもや歩けど歩けど分岐地点に着きません。ここで完全にパニックに陥りました。来た道を戻っていたつもりがいつの間にか見覚えのない景色に変わっていたからです。何がどうなっているのか分からず、万事休すと思った頃に我が愛車アトレーが視界に飛び込んできたのです。何ということでしょう、自分でも何が起きたのか分かりませんでしたが、結果として何とか無事に下山ができたわけです。
行きに狸と出会い、帰りは狐に化かされた気分でした。

なぜ道を間違えたのか。地図で調べたら次のようなことでした。道の途中に180度近く大きく曲がる所がありますが、そこに気づかず道なりに①の方向に行ったわけです。地図で示されているほど道幅の差はなかったと思います。今度はあわてて林道分岐に引き返す所を無意識に②の方向に行ったということでした。からくりが分かれば納得です。林道にエスケープしたという安心感からの気の緩みと、間違ってしまったというパニックからの見落としという二重のミスで結果的に正しい道に戻ったということでした。ああ釈迦の掌…。



命からがら山を下り、濡れた雨具の処置をしてから美人湯に向かいました。
美人の湯の駐車場は、その日も私一人だったので、水場の流しに干させてもらいました。混んでいたらこんなことはできません。10月に行ったときには土曜日ということもあり、オートキャンプ場さながらの混みようでした。



美人の湯の露天風呂(「祝子川温泉・美人の湯のパンフレット」より)


混浴ではありません。詳しくは下のパンフレットを。




美人の湯には、福岡から来たというの常連さんが一人湯に浸かっていました(残念ながら男の人です)。その人は、天気が悪かったので、今日はここでゆっくりしていたとのことでした。私が登ってきたと言うと、「大崩山を知っている人はこんな天気の日には登らないよ」とあきれていました。

手足を伸ばして、ゆったりと露天の湯に浸かっていたら、少しずつ精神の緊張がほぐれてきました。からだと心が癒やされてくるにつれ、「今度は天気のいい日にまた…」という思いがムクムクと頭をもたげてくるのでした。(2か月後に登った「再チャレンジ編」に続く)


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