守田です。(20110616 23:30)
6月10日に行われた原子力資料情報室の会見で、沼津工業高等専門学校
特任教授の渡辺敦雄さんが、講演をされました。この方は、後藤政志さんの
東芝時代の先輩で、原子炉格納容器の設計士だった方です。
この日、行われた会見では、主に圧力抑制プールの問題が語られました。
圧力抑制プールとは、福島第一原発で使われているマーク1型原子炉の、
フラスコ型になっている格納容器をドーナツの用に取り囲んでいる装置で、
原子炉格納容器の圧力が上がった時に、それを「抑制」することを主な
役目としているものです。
これは原子炉内で深刻な事故が起こり、圧力容器の中で高圧の水蒸気が
発生すると、蒸気は弁が開放されて、格納容器の中に入ってくるのですが、
そのままでは、今度は格納容器の圧力があがってしまうために、この圧力を
減らすために設けられたものです。
どうするのかというと、蒸気を配管などによって、この圧力抑制室まで直接導き、
プール=水の中に直接に噴出させます。そうすると蒸気が水の中で、急激に
冷やされて気体から液体に戻り、体積が一気に縮小することにより、圧力が
減るわけです。それが圧力抑制プールの基本的な原理です。
この内容は図を見ながらでないと分かりにくいと思いますので、同じマーク1型
原子炉を使っている浜岡原発での説明のPDFを参照してください。
http://www.chuden.co.jp/torikumi/atom/hamaoka/detail/160/data/unten170420.pdf
さて問題はここがどのようなことが起こったことが考えられるかです。
圧力抑制プールへの蒸気の導入は「ダウンカマ」と言われる配管が、水の中に
直接に蒸気を吹くことで行われるのですが、このダウンカマが、何かの要因で
水面から上に出てしまっていると、蒸気は水の中に吹き込まれず、圧力抑制室の
空気の中に噴き出してしまうことになる。
ではそうしたことは起こりうるのかと言うと、一番、考えられるのは地震で、プール
の中の水が大きく揺れて、水面が一時的に下がってしまうときに起こりえる。
この現象はスロッシングと呼ばれます。揺れが水に伝わり、「揺動」が起こり、
水がチャポン、チャポンと左右に跳ね上がる。ことのき水面も上下するわけです。
このとき圧力抑制のために、原子炉圧力容器から格納容器へと放出された
蒸気がダウンカマを通じて、圧力抑制プールへと導入されようとする。しかし
スロッシングによって、蒸気はプールの水の中に導入されず、圧力抑制室の
空気中に吹いてしまう。
そうなると当然、圧力抑制室の気圧が上がってしまいます。このために圧力抑制
に失敗してしまい、それがさまざまな事故につながっていったのではないか
というのが、渡辺さんが行っている推論ですが、この際、重要なのは、こうした
圧力抑制の失敗が、地震によって起こった可能性が高いと考えられることです。
すでに後藤政志さんが、前回の原子力資料情報室での会見で、東電や保安院が、
事故解析の中で、原因を津波に限定しようとしていることを批判し、津波の
前の地震で、冷却材喪失事故などが起こっていた可能性があることを指摘
していることを紹介しましたが、今回の渡辺さんの会見でも、やはり津波ではなく
地震によって事故が深刻化した可能性が示唆されたと言えます。
なお渡辺さん自身、「余談」と述べられていますが、渡辺さんが原子炉格納容器を
設計したときに、「ベント」はつけられてなかったそうです。今回の事故までその
存在を知らなかったとか。
これは後藤さんが常々、「放射能を閉じ込めるのが任務の格納容器に、本来、
ベントなどというものがあってはならず、これは設計思想の破産を物語るものだ。
そのため設計士はこれを、格納容器の自殺と呼んでいる。これを開いたという
こと自身がとんでもないことだ」と怒りを込めて語られてきたことと強くマッチング
するものです。
最近の報道で、ベントをするのが遅れたから事故が深刻化したという指摘が
安易になされていますが、ベントがもともとある安全装置であるかのように
語られるこうした指摘は、そもそも絶対に放射能漏れが起きないことを前提に
認められてきた原子力発電の存立そのものを問うのがベントであることを
見過ごしたものでしかありません。この点を付記しておきたいと思います。
いずれにせよ、事故原因の解析、とくに地震と事故の連関性の問題について
継続的なウォッチと考察を重ねていきたいと思います。
以下、渡辺さんの会見をノートテークしたので紹介します。ただ内容がかなり
専門的ですので、語られているタームなどをあるいは間違って紹介してしまって
いるかもしれません。いずれにせよ、転載などされるときは、あくまでも
守田による聞き取りであることを明記されてください。
************************
マーク1型格納容器問題について
沼津工業高等専門学校特任教授
渡辺敦雄さん
http://www.ustream.tv/recorded/15284821
渡辺です。
私は1971年に東芝に入社し、格納容器を設計した。福島第一号機は
入社したときにはできていたが福島3号機、5号機、女川1号機、浜岡
1,2,3号機というマーク1型に関わる格納容器の設計に関わった。
後藤さんからその辺の話をしてほしいとのことで今日はうかがった。
原子炉格納容器は通常は機能は発揮していない。唯一発揮しているのは、
中に中性子を外に出さないものが入っていて、それが機能しているぐらいで、
事故時にならないと問題にならない装置だ。
原発では、「最大想定事故」というものを考える。配管破断による冷却材喪失
事故も考える。そのときに中に入っている放射能を、フラスコ型の容器に
閉じ込めてしまうというのが特徴だ。5重の壁のうちの4番目で、これが絶対
に破れてはいけないということになっている。
余談だが、1980年代の後半にこの格納容器にベントをつけたという話を
私は今回の事故までまったく知らなかった。
事故でベントを空けて放射能を出したという話を聞いて正直なところ、
愕然とした。え、そんな装置があったのと思った。
私が設計したときには、そのような装置はまったくなかった。現在では
シビアアクシデントの場合、格納容器が爆発することをふせぐために、ベントを
開放することになっていると認識している。私はそれがいいことだったかどうか
分からない。あまりよくないことだと思うのだが。
今日の話は圧力抑制プールについてだ。どうしてここにこのような名前が
ついているかというと、格納容器の中に(圧力容器から)蒸気が漏れてくると、
猛烈な勢い、音波を越えた勢いで出てくる。
格納容器の中には窒素が入っているが、これが蒸気によって急激に圧縮される。
これがベント管を通じて圧力抑制プールに入ってくる。正確に言うと、ベント管を
通じて、ぐるっとまわっているヘッダーというのを通じて、そのヘッダーにミノムシ
の足のようについているダウンカマーというものから蒸気は水の中に入って
圧縮される。
もっとも理想どおりにいくと、まず窒素が水の中に噴き出して、続いて蒸気が
水の中に噴き出して、圧力が正常状態に戻る。圧力容器からいったん漏れたもの
は正常状態には戻らないが、圧力そのものは下げることができる。このためここが
圧力抑制プールと呼ばれている。
今回、私が話そうとしているのは、この圧力抑制装置がもし何らかの要因で
損傷したり、(ダウンカマが)プールの水面の上に出てしまったりしたらどうなるか
ということだ。
これはありうることだ。現在の格納容器の設計では、そうしたことは起こらないと
いうことになっているが、今回、私がびっくりしたのは、格納容器の圧力が、0.8メガ
パスカルになったということだ。圧力抑制プールで、蒸気などの凝縮をして
いればそうしたことは起こらない。凝縮がなされなかったことと考えるのが
格納容器設計者の常識だ。
凝縮しなかったとなると、ダウンカマが故障するなど何らかの要因で、圧力抑制
プールの中に出てくるはずの蒸気が、水面の上から、抑制ブールを覆っている
圧力抑制室の中に漏れ出してしまったことが考えられる。
この空間に漏れると、圧力抑制室の圧力が高くなり、ここに入ってきているベント
管の側の圧力が低くなるので、ここにザックス=押し付け力が生じるので、
それを避けるために真空破壊弁という圧力を均等にする装置がある。
どうやらこの装置も働いたようで、格納容器の圧力が0.8メガパスカルで、圧力
抑制室の圧力も均衡して0・8メガパスカルになったと私は推定している。
それではここでそのような異常な事態がどうして起こったのか。
もともと今の設計基準では、確率論的に設計されている。どういうことかと言うと、
蒸気破断が起こるということについては、原子炉設計者は必ず考えている。
これは10の-3乗ぐらいの確率でおきるだろう。これが地震でおきる、別の故障
で破断する、そういうことを全部内包して、1000年に1回ぐらいは起きるだろうと
考えられている。
そのときに、緊急炉心冷却系といって、蒸気を凝縮するだけではなくて、炉心の
中で、炉心溶融が起きないように水を送り込んでくる装置だ。これが完全に
動かなくなることも考えている。これも10の-3乗と考えている。
この両方がいっぺんに起きることも考えいるがその場合は、10の-3乗×
10の-3乗で、10の-6乗になる。
ただしおきてももう一つの系統が働くと考えられていて、炉心は緊急には冷却
されると考えられている。
それも壊れるとなると、さらに10の-3乗をかけるので、10の-9乗になる。
そういうことは設計条件として考えないというのが設計基準になっている。
そうだったら、正常にとまったはずなのに、どうして今回のような事故になったのか。
この10の-3乗で考えられる系統が、それぞれ独立していて、例えば東京と大阪に
あれば、こんなことにはならない。ところがほぼ同じ建屋の中にあったため、共通
故障モードと言って、同時に故障してしまった。
これを単一故障モードで考えるか、共通故障モードで考えるか、とても難しいこと
なのだが、考えないとしてしまった。だから今回のことは考えなかったことが
起こっといえると思う。
もう一つ、問題は、圧力抑制プールの中に蒸気が入ってきたときに、必ず蒸気が
圧縮されるということが前提になっている。まず猛烈に圧縮窒素が入ってくる。
続いて蒸気が入ってくる。これは圧縮されたものが開放されるので、猛烈に
大きくなって気泡が生じることがある。
プールスエリングといって、盛り上がって、この状態でもダウンカマがむき出しに
なることもある。かりにこれでも大丈夫だったとして、蒸気が圧縮されて安定
するのが理想的な状態だが、ちょっと考えてみて欲しい。この段階になったときに
余震があったらどうなるか。
このときスロッシング、地震揺動ということが起こる。水がパチャパチャ跳ねる。
このとき、液面がさがって、ダウンカマが水面から露出し、蒸気がそこに噴き出す
ことがあり得る。
私は今回、多分、その現象が起こったのではないかと予測している。
それならばこうした状態に備えておくべきだとなると思うが、ここで重要なのが先程
の確率論だ。もともと蒸気が噴出して、緊急炉心冷却系が喪失するということで、
確率では10の-6乗を使い果たしている。
したがってそれ以上に、もういっぱつ地震がくるとすると、これが10の-3乗ぐらいの
確率だとすると、それをかけると10の-9乗になるということで、結局考えないと
いうことになる。
今回のように余震が何度もくる、とくに大きな余震がくるということは考えに入って
いない。そういうものがくるということを設計条件に入れてないので、今回、ダウン
カマが露出してしまったということが大いにあると私は推測している。
そして圧力抑制室の圧力が非常に高まり、中でドライウェルの中で圧力が弱
まっても、真空破壊弁が働いてベント管の中と、圧力抑制室の圧力を一緒に
しようとするので、この繰り返しで、ここが高圧になったのではないかと見ている。
もちろんこんなものは短時間でおこる。スロッシングが余震の時に起こって、凄い
勢いで蒸気が出ているからそれで圧力室がすぐにいっぱいになった。
その点で、今回の事故は地震が要因の一つになっていると考えざるをえないと思う。
6月10日に行われた原子力資料情報室の会見で、沼津工業高等専門学校
特任教授の渡辺敦雄さんが、講演をされました。この方は、後藤政志さんの
東芝時代の先輩で、原子炉格納容器の設計士だった方です。
この日、行われた会見では、主に圧力抑制プールの問題が語られました。
圧力抑制プールとは、福島第一原発で使われているマーク1型原子炉の、
フラスコ型になっている格納容器をドーナツの用に取り囲んでいる装置で、
原子炉格納容器の圧力が上がった時に、それを「抑制」することを主な
役目としているものです。
これは原子炉内で深刻な事故が起こり、圧力容器の中で高圧の水蒸気が
発生すると、蒸気は弁が開放されて、格納容器の中に入ってくるのですが、
そのままでは、今度は格納容器の圧力があがってしまうために、この圧力を
減らすために設けられたものです。
どうするのかというと、蒸気を配管などによって、この圧力抑制室まで直接導き、
プール=水の中に直接に噴出させます。そうすると蒸気が水の中で、急激に
冷やされて気体から液体に戻り、体積が一気に縮小することにより、圧力が
減るわけです。それが圧力抑制プールの基本的な原理です。
この内容は図を見ながらでないと分かりにくいと思いますので、同じマーク1型
原子炉を使っている浜岡原発での説明のPDFを参照してください。
http://www.chuden.co.jp/torikumi/atom/hamaoka/detail/160/data/unten170420.pdf
さて問題はここがどのようなことが起こったことが考えられるかです。
圧力抑制プールへの蒸気の導入は「ダウンカマ」と言われる配管が、水の中に
直接に蒸気を吹くことで行われるのですが、このダウンカマが、何かの要因で
水面から上に出てしまっていると、蒸気は水の中に吹き込まれず、圧力抑制室の
空気の中に噴き出してしまうことになる。
ではそうしたことは起こりうるのかと言うと、一番、考えられるのは地震で、プール
の中の水が大きく揺れて、水面が一時的に下がってしまうときに起こりえる。
この現象はスロッシングと呼ばれます。揺れが水に伝わり、「揺動」が起こり、
水がチャポン、チャポンと左右に跳ね上がる。ことのき水面も上下するわけです。
このとき圧力抑制のために、原子炉圧力容器から格納容器へと放出された
蒸気がダウンカマを通じて、圧力抑制プールへと導入されようとする。しかし
スロッシングによって、蒸気はプールの水の中に導入されず、圧力抑制室の
空気中に吹いてしまう。
そうなると当然、圧力抑制室の気圧が上がってしまいます。このために圧力抑制
に失敗してしまい、それがさまざまな事故につながっていったのではないか
というのが、渡辺さんが行っている推論ですが、この際、重要なのは、こうした
圧力抑制の失敗が、地震によって起こった可能性が高いと考えられることです。
すでに後藤政志さんが、前回の原子力資料情報室での会見で、東電や保安院が、
事故解析の中で、原因を津波に限定しようとしていることを批判し、津波の
前の地震で、冷却材喪失事故などが起こっていた可能性があることを指摘
していることを紹介しましたが、今回の渡辺さんの会見でも、やはり津波ではなく
地震によって事故が深刻化した可能性が示唆されたと言えます。
なお渡辺さん自身、「余談」と述べられていますが、渡辺さんが原子炉格納容器を
設計したときに、「ベント」はつけられてなかったそうです。今回の事故までその
存在を知らなかったとか。
これは後藤さんが常々、「放射能を閉じ込めるのが任務の格納容器に、本来、
ベントなどというものがあってはならず、これは設計思想の破産を物語るものだ。
そのため設計士はこれを、格納容器の自殺と呼んでいる。これを開いたという
こと自身がとんでもないことだ」と怒りを込めて語られてきたことと強くマッチング
するものです。
最近の報道で、ベントをするのが遅れたから事故が深刻化したという指摘が
安易になされていますが、ベントがもともとある安全装置であるかのように
語られるこうした指摘は、そもそも絶対に放射能漏れが起きないことを前提に
認められてきた原子力発電の存立そのものを問うのがベントであることを
見過ごしたものでしかありません。この点を付記しておきたいと思います。
いずれにせよ、事故原因の解析、とくに地震と事故の連関性の問題について
継続的なウォッチと考察を重ねていきたいと思います。
以下、渡辺さんの会見をノートテークしたので紹介します。ただ内容がかなり
専門的ですので、語られているタームなどをあるいは間違って紹介してしまって
いるかもしれません。いずれにせよ、転載などされるときは、あくまでも
守田による聞き取りであることを明記されてください。
************************
マーク1型格納容器問題について
沼津工業高等専門学校特任教授
渡辺敦雄さん
http://www.ustream.tv/recorded/15284821
渡辺です。
私は1971年に東芝に入社し、格納容器を設計した。福島第一号機は
入社したときにはできていたが福島3号機、5号機、女川1号機、浜岡
1,2,3号機というマーク1型に関わる格納容器の設計に関わった。
後藤さんからその辺の話をしてほしいとのことで今日はうかがった。
原子炉格納容器は通常は機能は発揮していない。唯一発揮しているのは、
中に中性子を外に出さないものが入っていて、それが機能しているぐらいで、
事故時にならないと問題にならない装置だ。
原発では、「最大想定事故」というものを考える。配管破断による冷却材喪失
事故も考える。そのときに中に入っている放射能を、フラスコ型の容器に
閉じ込めてしまうというのが特徴だ。5重の壁のうちの4番目で、これが絶対
に破れてはいけないということになっている。
余談だが、1980年代の後半にこの格納容器にベントをつけたという話を
私は今回の事故までまったく知らなかった。
事故でベントを空けて放射能を出したという話を聞いて正直なところ、
愕然とした。え、そんな装置があったのと思った。
私が設計したときには、そのような装置はまったくなかった。現在では
シビアアクシデントの場合、格納容器が爆発することをふせぐために、ベントを
開放することになっていると認識している。私はそれがいいことだったかどうか
分からない。あまりよくないことだと思うのだが。
今日の話は圧力抑制プールについてだ。どうしてここにこのような名前が
ついているかというと、格納容器の中に(圧力容器から)蒸気が漏れてくると、
猛烈な勢い、音波を越えた勢いで出てくる。
格納容器の中には窒素が入っているが、これが蒸気によって急激に圧縮される。
これがベント管を通じて圧力抑制プールに入ってくる。正確に言うと、ベント管を
通じて、ぐるっとまわっているヘッダーというのを通じて、そのヘッダーにミノムシ
の足のようについているダウンカマーというものから蒸気は水の中に入って
圧縮される。
もっとも理想どおりにいくと、まず窒素が水の中に噴き出して、続いて蒸気が
水の中に噴き出して、圧力が正常状態に戻る。圧力容器からいったん漏れたもの
は正常状態には戻らないが、圧力そのものは下げることができる。このためここが
圧力抑制プールと呼ばれている。
今回、私が話そうとしているのは、この圧力抑制装置がもし何らかの要因で
損傷したり、(ダウンカマが)プールの水面の上に出てしまったりしたらどうなるか
ということだ。
これはありうることだ。現在の格納容器の設計では、そうしたことは起こらないと
いうことになっているが、今回、私がびっくりしたのは、格納容器の圧力が、0.8メガ
パスカルになったということだ。圧力抑制プールで、蒸気などの凝縮をして
いればそうしたことは起こらない。凝縮がなされなかったことと考えるのが
格納容器設計者の常識だ。
凝縮しなかったとなると、ダウンカマが故障するなど何らかの要因で、圧力抑制
プールの中に出てくるはずの蒸気が、水面の上から、抑制ブールを覆っている
圧力抑制室の中に漏れ出してしまったことが考えられる。
この空間に漏れると、圧力抑制室の圧力が高くなり、ここに入ってきているベント
管の側の圧力が低くなるので、ここにザックス=押し付け力が生じるので、
それを避けるために真空破壊弁という圧力を均等にする装置がある。
どうやらこの装置も働いたようで、格納容器の圧力が0.8メガパスカルで、圧力
抑制室の圧力も均衡して0・8メガパスカルになったと私は推定している。
それではここでそのような異常な事態がどうして起こったのか。
もともと今の設計基準では、確率論的に設計されている。どういうことかと言うと、
蒸気破断が起こるということについては、原子炉設計者は必ず考えている。
これは10の-3乗ぐらいの確率でおきるだろう。これが地震でおきる、別の故障
で破断する、そういうことを全部内包して、1000年に1回ぐらいは起きるだろうと
考えられている。
そのときに、緊急炉心冷却系といって、蒸気を凝縮するだけではなくて、炉心の
中で、炉心溶融が起きないように水を送り込んでくる装置だ。これが完全に
動かなくなることも考えている。これも10の-3乗と考えている。
この両方がいっぺんに起きることも考えいるがその場合は、10の-3乗×
10の-3乗で、10の-6乗になる。
ただしおきてももう一つの系統が働くと考えられていて、炉心は緊急には冷却
されると考えられている。
それも壊れるとなると、さらに10の-3乗をかけるので、10の-9乗になる。
そういうことは設計条件として考えないというのが設計基準になっている。
そうだったら、正常にとまったはずなのに、どうして今回のような事故になったのか。
この10の-3乗で考えられる系統が、それぞれ独立していて、例えば東京と大阪に
あれば、こんなことにはならない。ところがほぼ同じ建屋の中にあったため、共通
故障モードと言って、同時に故障してしまった。
これを単一故障モードで考えるか、共通故障モードで考えるか、とても難しいこと
なのだが、考えないとしてしまった。だから今回のことは考えなかったことが
起こっといえると思う。
もう一つ、問題は、圧力抑制プールの中に蒸気が入ってきたときに、必ず蒸気が
圧縮されるということが前提になっている。まず猛烈に圧縮窒素が入ってくる。
続いて蒸気が入ってくる。これは圧縮されたものが開放されるので、猛烈に
大きくなって気泡が生じることがある。
プールスエリングといって、盛り上がって、この状態でもダウンカマがむき出しに
なることもある。かりにこれでも大丈夫だったとして、蒸気が圧縮されて安定
するのが理想的な状態だが、ちょっと考えてみて欲しい。この段階になったときに
余震があったらどうなるか。
このときスロッシング、地震揺動ということが起こる。水がパチャパチャ跳ねる。
このとき、液面がさがって、ダウンカマが水面から露出し、蒸気がそこに噴き出す
ことがあり得る。
私は今回、多分、その現象が起こったのではないかと予測している。
それならばこうした状態に備えておくべきだとなると思うが、ここで重要なのが先程
の確率論だ。もともと蒸気が噴出して、緊急炉心冷却系が喪失するということで、
確率では10の-6乗を使い果たしている。
したがってそれ以上に、もういっぱつ地震がくるとすると、これが10の-3乗ぐらいの
確率だとすると、それをかけると10の-9乗になるということで、結局考えないと
いうことになる。
今回のように余震が何度もくる、とくに大きな余震がくるということは考えに入って
いない。そういうものがくるということを設計条件に入れてないので、今回、ダウン
カマが露出してしまったということが大いにあると私は推測している。
そして圧力抑制室の圧力が非常に高まり、中でドライウェルの中で圧力が弱
まっても、真空破壊弁が働いてベント管の中と、圧力抑制室の圧力を一緒に
しようとするので、この繰り返しで、ここが高圧になったのではないかと見ている。
もちろんこんなものは短時間でおこる。スロッシングが余震の時に起こって、凄い
勢いで蒸気が出ているからそれで圧力室がすぐにいっぱいになった。
その点で、今回の事故は地震が要因の一つになっていると考えざるをえないと思う。