明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(496)ECRR会長、ドイツ放射線防護協会会長と広島へ!

2012年06月26日 08時00分00秒 | 明日に向けて(401)~(500)


守田です。(20120626 08:00)

写真説明
1、広島平和記念資料館で、自らの被爆箇所をドイツのお二人に示す沢田昭二さん
2、慰霊碑を前に、右からドイツ放射線防護協会会長セバスチャン・プフルークバイル
さん、ヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)会長インゲ・シュミッツ
-フォイエルハーケさん、市民と科学者の内部被曝問題研究会理事長、沢田昭二さん、
および守田。遠くに原爆ドームが見える。


広島のホテルからです。・・・時間に追われながら書いています。
24日四日市市を車で往復して来ました。会場には100人以上の方が参加
されていたでしょうか。主催のhahaプロジェクトのみなさんの温かさが
多くの方に伝わって、参加していただけたのだと思います。ここでも
素敵な会が行われました。四日市のみなさま、ありがとうございました。

さて、昨日僕は、午後に京都駅より新幹線に乗って広島をめざし、広島
駅で、ヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)会長のインゲ・
シュミッツ-フォイエルハーケさんと、ドイツ放射線防護協会会長の
セバスチャン・プフルークバイルさんとお会いすることができました。

列車には福島・猪苗代で行われていた市民科学者国際会議の会場から
わが「市民と科学者の内部被曝問題研究会」理事長の沢田昭二さんが
同行し、広島駅で、副理事長で広島平和研究所研究員の高橋博子さんが
出迎えてくださいました。宿泊先には、私たちの会の国際・広報委員会
委員長の、吉木健さんもかけつけてくださいました。
ちなみに僕自身も、同会の常任理事の一人を務めています。広報委員会
委員長と、総務・企画委員会委員を兼任しています。

しばしホテルで休んでいただいたのち、すぐ目の前にある平和記念公園
に歩いていって、みんなで平和資料館を見学しました。僕にとっては
数度目の訪問。インゲさんは、1970年代に一度来たことがあるのだとか。

館内では被爆者であり、被団協代表なども務めてきた沢田昭二さんが
いろいろと説明してくれました。沢田さんが被爆したのは爆心地から
1.4キロにあった自宅でのこと。家の中にいたために熱線を浴びる
ことは避けられましたが、爆風で家がつぶれ、やがて火がつきました。

その中には家の下敷きになったお母さんが。沢田さんも下敷きになり
ながら這い出すことができたのですが、動けないお母さんを前に
何とか助けなければと必死になっていました。するとお母さんがすごく
強い声で、「逃げなさい。今すぐ、逃げなさい」と叫んだそうです。

その声に背中をおされて「お母さん、ごめんなさい」と家を離れた
沢田さん。振り返ると家は火に包まれていたそうです。その後、沢田
さんは近くの川に飛び込んで対岸におよぎつき、市外にむかって逃げて
いって、やがて高台にあるお寺に辿り着き、そこから燃える市内を
見ていたそうです。

資料館の中には当時の市内の写真と、原爆投下後の同じ地域の写真が
大きく貼り出してあるところがあるのですが、そこで自らの家の場所と
泳いでわたった川を沢田さんが示してくれました。ドイツのお二人は
じっと沢田さんの指す地点に見入っていました。

1時間あまりの見学を終え、近くのイタリアンレストランに入り、食事会
を行いました。ここに高橋さんの広島平和研究所の同僚たちがかけつけ
てきました。ドイツ人女性が2人、アメリカ人男性が1人。9人での食事
です。ドイツ語、英語、日本語が入り混じっていろいろな会話が飛び交い
ましたが、僕は運よくドイツ人で日本語の上手な高橋さんの同僚と
プフルークバイルさんのそばに座れたため、いろいろなお話をうかがうこと
ができました。(彼女が通訳してくれました)

僕はまず広島平和資料館を訪れた感想を、プフルークバイルさんに尋ねま
した。すると彼はちょっと考えてから、「あまり居心地がよくなかった」
とおっしゃいました。理由を尋ねると「ここには大事なものが欠けている。
現実につながるものがない」とそう言われるのです。

続いてプフルークバイルさんは、自分のこれまでの活動について話され
始めました。彼は東ドイツの出身です。社会主義体制下の東ドイツでは
なんと広島・長崎のことは伏せられ、ほとんど伝えられてこなかったのだ
そうです。理由は「ソ連の核ミサイルがすぐそばにあるから」とのことで
した。これへの批判が起こることが懸念されていたのです。

その状態の中で、プフルークバイルさんは、自ら広島・長崎の写真集を
手に入れ、それをさらに写真にとって拡大し、独自に説明を書いて、展覧会
などを行ってきたそうです。

「弾圧はされなかったのですか?」と聞くと、展覧会を主に教会で行った
と話してくださいました。東ドイツ社会の中では、唯一、教会がそれなりに
自由な発言ができる位置にあったといいます。政府は教会でやることを
弾圧できなかったのです。

「どうしてそういう活動をされたのですか?」。それへのプルフークバイル
さんの答えは、一つには「物理学者としての良心から」というものでした。
物理に携わるものとしてとても無視することができなかったというのです。
ただしそのために東ドイツ社会においては、ついに博士号がとれなかった
そうです。

またもう一つに、東ドイツの中で行われたウラン採掘により、大量の死者が
出たことが原因でした。なんと4万人が亡くなったのだそうです。広島と
変わらない悲劇があったとプフルークバイルさん。それでこの問題に一貫して
取り組んでこられたのでした。

僕はこれまで東ドイツ政権下における良心の声について、本でいろいろと
読んできましたが、肉声でその実態を聞いたのは初めてだったので、とても
感銘しました。その上で、最初の質問に戻りました。どうして彼にとって
平和資料館は居心地の悪い場所だったのでしょう。

彼は言いました。「あそこに展示してあるものはみんな過去の扱いになって
いる。今の展示がない。とくに重要なのはこれほどの悲劇があった日本で、
なぜなおプルトニウムが作られているかということだ。そのことが展示され
なくてはいけない」

「その点で、この展示館はベルリンにあるホロコースト記念館と似ている。
過去にあったユダヤ人虐殺のことが展示されているだけで、イスラエルなどを
めぐる現代の問題に何も触れられていない。問題を過去のことにしてしまって
いる」

「どうしてそういう展示しかできないのか。展示館自身が己を振り返り、その
ことをも展示すべきだ。そうして今を問うべきだ。今を問えば、展示しなけれ
ばならないものがたくさん欠けていることが見えてくるはずだ」
・・・プフルークバイルさんの発言に大きくうなづくばかりでした。

僕自身も今回の訪問で、あらためて展示物の中に、放射線被害をあつかったもの
が少なく、しかも内部被曝、とくに低線量内部被曝の影響を説いたものが皆無で
ある点が非常に気になりましたが、しかしここに現代日本のプルトニウム製造の
問題や原発の問題が説かれていないのが限界だという点に頭が回りませんでした。
というか、あらかじめそれがないのは仕方がないという頭になっていたように
思います。ああ、それではいけないなと強く思うと同時に、プフルークバイル
さんが長きにわたって現実を問い、なおかつ己を問うてきた姿を垣間見たような
気がして、感動しました。こんな会話ができて、なんだかすごい役得だなと
思いました。

さて、今日は午前中に、このお二人と広島放射線影響研究所を訪問します。
この研究所は、もともとはアメリカ軍が設置した原爆傷害調査委員会(ABCC)
を前身としています。1975年にベトナム戦争で戦費を使いすぎたアメリカ
が同委員会を維持できなくなったことを受けて、米日共同組織としてこの
研究所が立ち上がったのです。

ABCCと同研究所は、原爆被害の調査を「独占」してきました。そして
アメリカにとって都合の良い形でしか、蓄積した資料を公開してきませんで
した。端的には内部被曝の影響を完全に隠してしまい、原爆の放射線による
被害を小さく描くことばかりを行ってきました。

この放射線影響研究所から発表された被曝に関するデータは、世界で唯一の
大量被曝のデータとして重用され、世界のおける放射線学のベースになって
います。放射線がどのように人体に影響するのかがそこに書き込まれている
わけですが、それは非常に過小評価され、歪められたこの研究所のデータが
ベースになって作られてきたものでした。

インゲ・シュミッツ-フォイエルハーケさんは、この広島放射線影響研究所の
研究に対して、世界ではじめて学術的な批判を行った方です。その論文は
なかなか科学界で認められませんでしたが、長い努力の末に、今日では一部では
あるものの高い評価が集まっています。

その彼女を中心とする一行の放影研訪問に対して、広島のメディアも、「ついに
敵の本丸に殴りこみですね」などと興奮していて、同行取材をされる社も幾つか
あるようです。僕もこの場に立ち合わせていただけることを感謝しつつ、身体
全体をアンテナにして、大事な訪問に同行してきます。

今日はその後、午後4時から、私たち内部被曝問題研究会主催の記者会見が
行われます。午後6時半からは、お二人の講演会を市内で行います。双方の
企画で僕が司会を務めます。

記者会見は実況中継が行われます。以下から見れます。
1.配信日時 6月26日午後4時から5時半の記者会見(講演部分の配信は行いません)
2.配信チャンネル http://www.ustream.tv/user/NUKESTORIA
3.番組試聴URL http://www.ustream.tv/channel/ingesebastian-pressconference

また講演会の案内のURLは以下の通りです。お近くの方、どうかご参加
ください。
http://acsir.org/0626.pdf


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