守田です(20190608 23:00)
前回に続いて倉林さんインタビュー記事をお届けします。今回は参議院での論戦をよりリアルに知っていただくために、精神保健福祉法「改正」をめぐる攻防をお伝えします。
倉林明子さん(HPより)
● 人権を守るために大奮闘
倉林
そういえば少し前に「精神保健福祉法」の改正法案というのがあって大揺れしたんですよ。(守田注:正式名称は「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」)
法案を審議するときには、普通、その主旨が説明されるわけですよ。「こういう目的で改正案を作りました」というのがあるわけ。それをね、審議中のあるとき官僚が書き換えて議員会館に持ってきた。
立法目的が途中で変わったんです。ちょっとにわかに信じがたいでしょう?
守田
審議している途中で目的が変わる?
倉林
そうそうそう。その信じがたいことが起こったのがこの事件だったのですよ。朝早く議員たちが来る前に部屋に投函してまわった。私は朝が早いから気が付いたのだけれどね。
でもどうするつもりだったんだと思うね。立法趣旨が途中で変わるなんてひどすぎる。「出し直せ」と言うことじゃないですか。
守田
途中で話が変わるということだものね。それが「これじゃあ通らないぞ」ということで。
倉林
審議の中で気が付いたのでしょう。「津久井やまゆり園」の事件があったでしょう?あれが立法の根拠だったのですよ。
守田
すごく大きな話ですね。
倉林
そう。しかも安倍さんの一言で。
守田
実質的にはどういうことだったの?
倉林
いまの精神保健福祉法で強制的に入院させることができるわけね。「措置入院」というわけだけれど、津久井やまゆり園の事件の犯人の植松氏は措置入院をしていた経験があったのですよ。その後に退院して事件を起こした。
そこに注目して「措置入院を一旦したものには警察が関わって監視ができるようにする」というものでね。
守田
わあ。考え方が最悪だね。障害者抹殺につながっていきかねない。
倉林
そうなんですよ。ぞーっとするでしょう。恐ろしい法律ですよ。
守田
ナチスがちらっと見える。
くらし・営業・福祉を守った国会レポート 2017年7月(HPより)
倉林
そうそう。ざっくりいうと「措置入院患者に警察が関与して悪いことをしないように退院しても監視できる法律を作れ」と言うことだったわけ。あの事件をきっかけに「精神保健福祉法」を見直せと言う指示がなされて出されてきたのですよ。
守田
なるほど。じゃあ障害者団体の方たちなどが注目していたわけだ。
倉林
それはもうすごく。これは大変なことになると。
守田
こんなことがまかり通れば障害者の人権が大きく切り縮められてしまう。
倉林
そうなの。そうなの。ただでさえ、精神科の入院施設の人権侵害が問題になっているわけじゃないですか。
守田
日本の医療の闇だものね。
倉林
それなのにさらによ。措置入院患者については退院後も監視の対象にすると。「犯罪をするかもしれない」ということで監視せよということなのね。
守田
そうなると退院してきた人たちはみんな犯罪者予備軍にされてしまう。
倉林
そうなの。これはもう二重三重に精神障害者の人権侵害にあたるわけで絶対に許してはあかんと思ったわけですよ。それで議論の中で「立法事実もおかしい」とやっていたら「いやいや」といって立法目的を差し替えて放り込んできたものだから。もうね、頭から火が出るかってぐらい怒ってね。
(守田注:「立法事実」とは、立法的判断の基礎となっている事実のこと。「法律を制定する場合の基礎を形成し、かつその合理性を支える一般的事実、すなわち社会的、経済的、政治的もしくは科学的事実」(芦部信喜、判例時報932号12頁))
守田
そりゃそうやねえ!
倉林
そりゃそうよ!本当にえげつない話やったんですよ。
守田
それはぜひ紹介しないと。その攻防って人権を守るためのリアルな攻防だものね。
倉林
そうでしょ。だから切れたのよ。頭が。
守田
わっはっは。
● 安倍政権の人権軽視は極めて危険
倉林
精神保健福祉法はたまたま先議になったんですよ。参議院で先に議論をしたわけ。
守田
それはなぜ?
倉林
参議院は衆議院が終わらないと法案がまわってこないじゃないですか。だから隙間ができるときに、じゃあこっちは先に参議院でやってくださいという話が成立したら参議院からやることもたまにあるんです。
守田
じゃあこの場合は参議院で話して世論が喚起されて・・・
倉林
それから衆議院にいくはずだったわけですよ。ところがもう審議中から世論がうわっとなって。それで結局、衆議院で審議に入れなくなってしまって最後は廃案になりました。
参院本会議で精神保健福祉法「改正」断固反対を訴える倉林さん 2017年5月17日(HPより)
守田
なるほど!そうかあ。審議に入れなくしてしまったんだ!
ちなみにさっきナチスがちらっと見えると言ったけど、少し前にBSの海外ドキュメンタリーで『それはホロコーストのリハーサルだった』という番組があってね。ナチスが使ったガス室は実はドイツの精神医学会が開発したことが明らかにされていて。
倉林
そこ、すごくくっついているのよね。精神医学と障害者の人権侵害と。
守田
ドイツの精神医学会が精神障害者をガス室で抹殺することを始めて、ナチスはそれを取り入れて対象をユダヤ人などに拡大したのね。
だからナチスという「極端な思想集団」が始めたことではなくて、近代の医学の考え方の中に、人間を「生産性」で測り、「劣ったものを社会的に養っていくのはマイナスだ」とかいうひどい考えがあったわけなんだよね。
倉林
いまそういう考えが本当に強められようとしていてね。安倍政権はナチスに通ずるところが見えていてすごく危険性を感じるのね。
守田
それこそ杉田水脈議員の「LGBTには生産性がない」なんて発言なんて典型だよね。LGBTの人々への侮辱でもあるけれども同時に人間を生産性で測るところが恐ろしい。
倉林
そうそうそう。そういう意味でね、あの事件をきっかけとして、安倍さんの命令一下でこんな危険な法律案が出されたことに危険性をリアルに実感したよね。こんなことをしようとするのかと。
立法事実は国民の中にないわけよ。精神障害者にももちろんない。安倍さんの考え方でしかないものだった。それに対して厚労大臣が命令一下のもとに短期間に作り上げたものだったわけ。
守田
でもだからこそ人権の観点からまっこうから突っ込まれたら耐えられないものだった。
倉林
だって辻褄が合わないですよ。「精神保健福祉」として積み上げてきたものがあるわけだから。
守田
なるほど。もともともっと人権に配慮した法だったわけだ。
倉林
精神保健福祉だからね。そこで議論と改正を積み上げてきているわけですよ。やはり入院ではなくて地域で暮らしていけるように包括的な福祉に進んでいかなくてはならないと。
守田
犯罪者のように扱ってはならないと。
倉林
それよ!いまは精神病院に入ったら何十年も拘束したりしている。そうなったら出てきても受け皿もないし。結局、障害者の監獄が、自宅軟禁から精神病院に移ったという構図でね。
本当にこの国の精神医療は遅れている。そのことに対する問題意識を私は持っていたから。
守田
さらに酷さを促進すると。
倉林
だって犯罪者扱いでしょう?もう逆行以外のなにものでもないわけですよ。
● 立法主旨の書き換えのその日に委員会で追究
守田
その立法主旨を差し替えたものがたまたま朝配られたわけだ。
倉林
そう。本質は障害者に対する差別と偏見を助長するような人権侵害法律を安倍さんの主導で作ろうとしたということだったわけです。
守田
それですぐに追及をして、その意味では倉林さんも食い止めたわけね。すごいじゃん。すごく大きいことだな。
倉林
と言っても参議院ではいったんは通ってしまったんですよ。でもあまりにも問題が紛糾したので、衆議院では審議に入れなくなってしまって。
それでそのときの193国会から法案として次の国会、その次と継続審議扱いになっていたのだけれど、結局できないままに衆議院が解散したので廃案になったわけ。
守田
これは分かりやすい攻防だね
倉林
安倍さんの本質が出ているでしょう。おんなじようなことその後もやっていて。
守田
杉田水脈議員の暴言はある意味で安倍さんを代弁するものであったわけだけれど、この法案は安倍さん自身が指令を出したわけだし。
倉林
(その時の資料を見せながら)これこれ。これをもって来られて頭に来てそのまま質問に立って追究したんですよ。原稿もなしにその日のうちに。ひどすぎると思って。
赤字で示されていたもともとの立方主旨が消されてしまった(倉林さん提供)
守田
へええ。それで阻止した!
倉林
阻止した!ホームページに動画があるんだけど「がーっ」って怒ってやってる(笑)
守田
見たい!ぜひ見なくちゃ。(笑)
倉林
当時は「ヒスだ」とかいろいろネットで書きこまれたのね。でもそれも含めてけっこう見られていたんだと思う。
当日、厚生労働委員会ですぐに質問に立った倉林さん。塩崎大臣を追及 2017年4月13日( HPより)
守田
これすごく重要なことだものね。植松氏という一個人が犯した罪を同じような病を持っている人がみんな犯しうるかのようなことを言っている。
でも実際には精神障害者よりも「健常者」の方が圧倒的にたくさんの深刻な犯罪を起こしているんだよね。
倉林
そう。精神障害者は犯罪率はずっと低いのよ。それなのに。
守田
そういうことだったのか。なるほど。このケースはまさに倉林さんが人権を守った具体的例だよね。1人の参議院議員が怒ることでこうして悪法が世に出ることを止めることもできる。だから倉林さんの議席が重要。
倉林 そうなんですよ!
守田注:以下は当日の委員会(2017年4月13日)での質疑と、参議院本会議(2017年5月17日)での反対表明。問題点については後者がまとまっている。必見!
精神保健福祉法改定案の趣旨説明「相模原事件」を厚労省削除 「立法事実に関わる」倉林氏 2017年4月13日 厚生労働委員会 倉林明子ホームページより
http://kurabayashi-akiko.jp/report/20170413kourou/
共産党倉林明子さん精神保健福祉法改正に断固反対 参議院本会議 2017年5月17日 https://www.youtube.com/watch?v=kPAg_uWoOAY
続く
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