明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(951)岡山県で3日連続講演します。ポーランドの国際会議の詳細、その他をお知らせします

2014年10月12日 07時00分00秒 | 講演予定一覧

守田です。(20141012 07:30)

台風19号が接近してきていますが、今日の午前中に岡山に向かい、本日12日吉備中央町、13日瀬戸内市長船福岡住宅町内会、14日瀬戸内市中央公民館でお話してきます。

本日の吉備中央町でのお話は、福島原発事故の今をとらえ、子どもたちや命を守るためにできること、食べ物のことなどをお伝えします。
13日、14日は災害対策についてお話します。ちょうど台風18号に続いて19号が接近中です。岡山には13日夜から14日未明にかけて最接近する予報です。
講演会が13日午前中、14日午前中に設定されているのでその間に一番風雨の激しい時期が過ぎてくれれば良いのですが。もちろん危険な時は主催者の方と相談して中止することもあると思います。
とくに14日の開催を慎重に判断したいと思います。

17日に京都市内で海外への訪問の報告を行います。
「ドイツ・ベラルーシ・トルコを訪れて~チェルノブイリに学び、福島を伝える~」というタイトルです。
午後1時から中京区の相国寺近くでお話します。
会場が個人宅をお借りするため、口コミでの案内となっていますがオープンな企画ですので、ご興味のある方は僕に直接ご連絡ください。

さて22日にポーランドに向けて出国し、23日から26日まで国際会議に参加してきます。
この会議の意義、開催経緯についてはすでに「明日に向けて(944)」でお伝えしていますが、会議の細かい内容が分かりましたのでお伝えしておきます。

会議のタイトルは”Partnership conference in Krzyzowa”です。
ポーランド・ブロツワフという都市の近郊のKrzyzowaというところで行われます。ヨーロッパや各国の反核運動や教育運動の成果や経験を持ち寄り、チェルノブイリと福島の後の未来に向けて話し合います。

22日 関空より出国です。韓国、ドイツをトランジットしてポーランドのブロツワフへ。そこから車で目的地へ向かう長旅です。現地時間の夜11時ごろに開催地に着きます。
日本とポーランドの時差は7時間。日本を9時半に飛び立ち、日本時間で翌朝6時に到着する計算です。
23日 朝からさまざまな打ち合わせ会議などがあり参加します。夕刻よりオープニングセッションにて、3月の「ヨーロッパ・アクション・ウィーク」におけるトルコへの訪問、8月のトルコ・ゲゼルへの訪問の経験を報告します。
トルコから参加するプナールさんと一緒に発表します。英語でのプレゼンです。
24日 Krzyzowa近郊を周りながらいろいろなワークショップに参加します。夜にはポーランドとベラルーシの教育大臣も参加してくださるそうです。

25日 ヨーロッパ、ポーランド、カザフスタン、日本でいかに反核行動を広げるかを考えるワークショップに参加し日本での経験を報告します。プロモーターは核戦争防止反核医師の会(IPPNW)ドイツ支部長のアンゲリカ・クラウセンさん。
僕はBlogger und Aktivist, Japanと紹介されています。日本の脱原発運動、例えば首相官邸前行動や各地の電力会社の前での行動が世界には十分に伝わってないので積極的に紹介してきます。また僕が各地の講演などをまわってみてきた人を集めるための工夫を紹介してきます。キーワードは「楽しい」「美味しい」です!
26日 2015年、2016年のヨーロッパ・アクション・ウィークをいかに展開するかの会議に参加します。
全日を通してこの他にもたくさんの会議、レクチャーがあるので、出来る限り参加してきます。ポーランドはベラルーシ・ウクライナの隣国ですので、チェルノブイリ原発事故の影響もさまざまにありました。できるだけその詳細も取材してきたいです。散会は26日午後です。

27~28日 会議後、ブロツワフ、クラクフとポーランドの都市を観光してきます。これまで講演会に向かう時、僕は時間のある限り、その地域を象徴するところに立ち寄ることにしてきました。可能なら講演の前に。無理なら帰り道に。
単純に好奇心が強いためではありますが、こうした訪問は、その地域におられる方たちと心を通わす上で大切な要素が見出されるからでもあります。今回もできるだけたくさんのことを観てきたいと思います。
29日 クラクフ郊外にあるアウシュビッツ博物館を訪問してきます。日本人ガイドの中谷修さんと連絡が取れたので案内していただけることになりました。アウシュビッツでは何よりも犠牲者の方々を追悼し、そこであった惨劇とそれを捉え返してきた人々の軌跡に学んできます。
30日 出国です。同じようにブロツワフからフランクフルト、インチョンを経由して31日に関空に着きます。

なお今回は会議のための渡航費と滞在費をIBBが負担してくださいます。その点で基礎的なファンドは確保されていますが、やはり取材経費などがかかります。
僭越ですが可能な方にカンパを訴えたいと思います。以下に振込先を記しておきますので、お気持ちだけでもお願いできればありがたいです。
8月に続いて今度も、けが、病気をしないように、また現地の方にけして迷惑をかけないように、旅の前にしっかりと休みをとった上で、気をつけていってきます!

振込先 郵貯ぎんこう なまえ モリタトシヤ 記号14490 番号22666151
他の金融機関からのお振り込みの場合は
店名 四四八(ヨンヨンハチ) 店番448 預金種目 普通預金
口座番号 2266615


帰国後の予定ですが、11月8日に兵庫県三木市でお話します。
16日には京都市西京区でお話します。

以下、それぞれの企画の詳細をお知らせします。(ポーランドの詳細についてはすでに述べたので割愛します)

*****

10月12日 岡山県吉備中央町

3.11 原発事故をもう一度考える‥
守田敏也 講演会

原発は?福島は今、どうなってるの?
子どもたちを守るため、できることは?
福島・東京・東日本の現状、これからの健康被害と対応、食べ物のことなど─

10月12日(日)
開演16:00~18:00(開場15:30)
吉川公民館(ホール)
〒716-1241 吉備中央町吉川3930-8 TEL.0866-56-7020 
参加費 500円

***

10月13日 岡山県瀬戸内市

いつ起きるかわからない南海トラフの地震や、台風による災害など、私たちの身の回りには多くの災害の可能性が潜んでいます。
今回の会では、兵庫県篠山市の防災計画に関わっている守田敏也さん(フリージャーナリスト)と、
東日本大震災で被災し、瀬戸内市に子どもと移住してきた渡辺由紀子さんをゲストに迎え、
実際の災害時の状況とその時に私たちがとるべき行動、そして子ども連れでの避難生活などをテーマに防災講義を行います。

≪時間≫  10月13日(月・祝)10時~12時
≪場所≫  ふれあいプラザ
≪参加費≫ 無料
※参加者に防災グッズプレゼント

≪講演会の流れ≫
 9:45 会場
10:00 開演 
10:10 渡辺由紀子講演
10:30 守田敏也講演
11:30 質疑応答 
12:00 終了

≪講演者プロフィール≫
守田敏也
京都市在住兵庫県篠山市原子力災害対策検討委員会委員。同志社大学社会的共通資本研究センター客員フェローなどを経て、現在フリーライターとして活動中。
原子力政策に関して独自の研究・批判活動を続け被災地にも度々訪問。物理学者矢ヶ崎克馬氏との共著岩波ブックレットから『内部被曝』を上梓。
ブログ「明日に向けて」を通じて、連日、原発情報を発信中。
※会場で守田さんの本や講演会のDVDを販売しております。

渡辺由紀子
東京都出身。4姉妹の母。結婚後、宮城県南三陸町でカキ養殖と民宿を経営していたが、東日本大震災で津波被災。
南三陸町での再建を断念したが、素晴らしいご縁に恵まれ、瀬戸内市牛窓でカキ養殖業を再開する。
また、震災前より、誕生学アドバイザー・産後教室講師として、小学校や保育所や産後ママクラスなどでゲストティーチャーとして「いのちのお話」を届ける活動を続けている。

主催 福岡住宅町内会

***

10月14日 岡山県瀬戸内市

つむぐる&カンガルーポ合同企画
親子がそろって生き延びるための防災講座

もはや災害はヒコゴトじゃない!!
これからの防災をリアルに考える学習会

10月14日(火)10:00~12:00
瀬戸内市中央公民館 参加費200円
フリージャーナリスト守田敏也さんのお話&みんなでカフェ交流会

いつ起きるかわからない南海トラフの地震や、台風による災害など、身の回りで起きるかもしれない災害。そんな、もしもの為の防災講座を行います。実際の災害時はどんな感じなのか?
子どもを連れての避難生活は?その時、私たちはどう動くべきなのか?今回は、ゲストに守田敏也さん(フリージャーナリスト)をお迎えします。
守田さんは兵庫県篠山市の防災計画にも関わっていらっしゃいます。お話の後はカフェ形式で、先生を囲んでみんなで楽しくおしゃべりしましょう。
知らないより、知っていたほうが良い!備えあれば憂いなし!もしもの時の備えとして、ぜひご参加ください。定員30名くらいまで 

お申し込みは 文化☆体験ネット西大寺子ども劇場
●TEL&FAX 086-942-1544  
Email:info@npo.sakuraweb.com

主催:つむぐる
NPO法人文化☆体験ネット西大寺子ども劇場

***

10月17日 京都市中京区

守田敏也講演会

ドイツ・ベラルーシ・トルコを訪れて
~チェルノブイリに学び、福島を伝える~

中京区の個人宅が会場で口コミで宣伝しています。

主催 ゆうるりとの会

***

10月22日~31日 ポーランド国際会議参加など

***

11月8日 兵庫県三木市

子どもたちの明るい未来のために 私たちが知っておきたいこと
私たちの子どもの健康と安全対策
安心な食べ物の選び方、放射能からの身の守り方

守田 敏也 講演会
日時11月8日(土)13:30~15:30 (受付開始 13:15)
場所 三木市立教育センター4F 大研修室

放射能の影響はどうなっているの?どうやったら身体を守れるの?
福島は、日本は、世界はどうなっているの?どうなっていくの?
世界が激太りに向かっているって本当?何を食べたらいいの?

申込方法 末尾を参照
申込締日 11/7(金) *当日受付あり(定員内)

電 話 0794-82-8388 FAX:0794-82-8658
E メール rimpokanB@city.miki.lg.jp
資料代 500円 *大学生以下無料
定 員 100名

託児申込 10/23 締切(先着5名)
託児は三木託児ボランティア「カンガルー」の協力により実施されます。

主 催 三木市人権教育団体ELL みき
後 援 三 木 市

ELLみき とは
「一人ひとりが大切にされる社会の実現」と「子どもたちの笑顔」のため、三木市内の小中高生の子どもを持つ保護者と子ども、地域の人で地域の中で人々が、
Encounters(出会い)・Learn(学び)・Link(つながり)あっていきたいという思いから2006年3月に設立。現在14名で活動しています。

お申込み方法
以下の書式にFAX・電話・Eメールにてお名前・電話番号・託児の有無(お子さんのお名前・性別・月齢)を明記の上、隣保館までお申し込みください

------------
守田敏也講演会 参加申込用紙
2014年 月 日

お名前
連絡先TEL        FAX
      住所
------------
託児申込される方は以下も記入ください *託児は10/23締切
お子さんのお名前         年齢または月齢   
性別 男 女(○をつけて下さい)

***

11月16日 京都市西京区

西京原発ゼロネットのお招きで午後にお話します。
詳細未定です。

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明日に向けて(950)現代社会の矛盾と社会的共通資本・・・宇沢先生を偲びつつ(1)

2014年10月10日 23時30分00秒 | 明日に向けて(901)~(1000)

守田です。(20141010 23:30)

すでにお伝えしたように9月18日に宇沢弘文先生がお亡くなりになられてしまいました。今でもとても悲しく淋しいです。
宇沢先生は生涯にわたって、本当に豊かな社会はどうすれば作り出すことができるのかを考察され続けました。そのアイデアをまとめたのが「社会的共通資本」という考え方です。
僕自身、この社会的共通資本の考え方を推し進め、深めていく中にこそ、現代世界の混沌とした矛盾を解消し、未来を切り開く可能性があると思っています。
宇沢先生の最晩年に教えを受けた弟子の一人として、僕なりに宇沢先生のアイデアをいかに継承し発展させるべきか論じてみたいと思います。

またこれを契機に前から懸案としていた「社会主義の再検討」にチャレンジしていきたいと思います。
実はこの課題について僕は同志社大学社会的共通資本研究センターの客員フェローだった時に論文を書いたことがあります。その時、宇沢先生は丁寧に読んで下さり高く評価してくださいました。
そこでその論文を下敷きに「明日に向けて」でも連載を行っていこうと思ったのですが、前提として、社会主義を厳密に措定しようとして、定義があまりに広すぎて十分にまとめきれずにその時は頓挫してしまいました。
宇沢先生がお亡くなりになった中で、僕なりに先生に学んだことを温め、発展させて行くために、この課題をきちんとクリアしておくことが重要だと思い直しました。

そのためまずは社会的共通資本とは何か、社会的共通資本を守り、育んでいくためには何が必要なのか。僕なりの考えをここで示しつつ、その延長として「社会主義の再検討」に踏み込んでいきたいと思います。
なお前にこの課題に入ろうとしたときに書いた記事を紹介しておきます。

明日に向けて(658)社会主義再考・・・1 社会主義再考の執筆にあたって-2013年4月15日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/aa3bd724ff687fbf9f6cc3bcfb5c5db2

さて、社会的共通資本とは何かから検討していきたいと思います。定義をしっかりと行うために宇沢先生の著書から引用します。
「社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能とするような社会的装置です。
社会的共通資本は社会全体にとって大切な共通の財産であって、社会的な基準にしたがって慎重に、大事に管理、運営されるものです。
社会的共通資本の管理、運営は市場的基準、あるいは官僚的基準によって決められるべきものではなく、あくまでも、一人一人の市民の人間的尊厳を守り、魂の自立を保ち、市民的自由が最大限に確保できるような社会を形成するという視点にたっておこなわれるものです。」(『日本の教育を考える』岩波新書p155)

社会的共通資本は私たちの存在の大前提である大自然を含みます。また社会を成り立たしめるために必要なインフラストラクチャーなどもそうです。これらを市場競争や、官僚の恣意的な運営に任せず、社会的に共同で管理していこうと言うのです。
宇沢先生の発想のユニークな点は、こうしたわたしたちの存在を規定する共有財産に、さまざまな社会制度を組み入れたことです。とくに宇沢先生が重視したのは教育と医療と金融です。
医療が市場任せになったら命も問題がお金で売買されるようになってしまいます。命がお金儲けの道具になってしまう。一方で官僚の恣意性に任せていても、民衆の意志が尊重されず平等で平等な医療が実現されない。だから社会的共通資本として共同管理していこうというのです。
教育も同じです。けしてお金儲けの場にしてはならないし、他方で国家によって都合のよい国民、市民をつくるための道具にさせてもいけない。

金融にも同じことが言えます。例えばもともと銀行は個々人の資産では成し遂げることのできない社会的に必要な巨大事業を可能とするために、資金を集め、運用する必要性ができてくる中で生まれてきたものでした。それが社会的インフラストラクチャーの整備を可能にしてきした。
ところがそこに市場原理が入り込んだら、社会的資金の管理と運営がお金儲けの対象にされてしまいます。この結果、投機などが流行ることになり、バブルが作られてはじけるなど、経済の乱れが生まれ、人々の生活が根底から崩されてしまいます。だからこそ金融制度もまた社会的共通資本としてしっかりと管理されなければならないのです。
社会的共通資本の共同管理は、地方分権のもとで、それぞれの現場に深く関わっている市民や専門家の共同のもとに行われます。もちろんできるだけ開かれた民主的なあり方の採用は大前提です。
それぞれの管理者の構成や管理の仕方は、当該の社会的共通資本のあり方によって大きく異なってきますが、いずれにせよ市場原理に任せないこと、官僚など一部のものの恣意的な差配を許さないことが重要です。

こうした宇沢先生の考え方をよりリアルに捉えるためには、この発想がどこから生まれてきたのかを押さえることが大事だと思います。宇沢先生が社会的共通資本のアイデアを生み出された最も大きなきっかけは水俣病患者さんとの出会いでした。
というのは宇沢先生は若い時にアメリカに渡り、アメリカで経済学者となってスタンフォード大学やシカゴ大学などで教鞭をとっていました。しかしアメリカがベトナム戦争に突き進む中で、アメリカに加担するのは嫌だと感じ、ベトナム反戦運動が吹き荒れる激動の時代に日本に戻ってきて東京大学の教授になられました。
アメリカにいたとき、宇沢先生は日本を経済指標でしか見ておらず、高度経済成長の最中にあったので豊かさが拡大しつつあるように見え、喜んでおられたそうです。
しかし帰国してみると「成長」の裏腹に、各地に公害問題が作られていることが見えてきた。宇沢先生は人生観が変わるほどのショックを受けられたと言います。それで水俣をはじめ公害現場をまわられ始めました。阿賀野川、四日市、西淀川、大分、志布志、むつ・小川原、伊達、川崎、千葉などを先生は歩かれました。

水俣を訪れられたとき、宇沢先生を案内してくださったのは、熊本大学の助教授であった原田正純先生でした。胎児性水俣病患者を発見し、名著『水俣病』を執筆されるなど、患者さんたちの苦しみに、医師として最も深く寄り添って生き抜かれた方でした。
その原田さんに誘われて、宇沢先生は水俣病患者さんの家を一軒、一軒訪ねられました。自らの足で歩いて回って、水俣病の実情と対面されたのです。
原田先生がその時のことを後に僕にこう教えてくださいました。「宇沢先生は患者さんと話している僕の後ろに立ってね、何も言わずにただ目を真っ赤にされていたよ。東大の偉い先生なのになんて優しい方なんだって思ったよ」。
ただし宇沢先生は水俣病患者さんに同情されていたのではありませんでした。「ああ、これはわれわれ経済学者の作り出した罪だ」と自らを痛烈に責められていたのです。

宇沢先生は水俣病発生の責任が近代経済学にあると考えられました。もっとも問題だったのは、宇沢先生のかつての盟友でもあった経済学者サミュエルソンの唱えた自由財という発想でした。
自由財とは「誰の所有物でもないので誰もが好き勝手に使っていいもの」と規定され、近代経済学に取り入れられた考え方です。この考え方のもとに海は使いたい放題、汚したい放題の対象にされてしまったのでした。いや過去形ではありません。今も同じことが続いています。
これに対して宇沢先生は海を守る理論を作らなければならないと考えられました。いやより正確には太古より人々が大事なものとして共同管理し、今の私たちに伝えてきてくれた大事なものを守り、はぐくむ発想を、経済学の解体・再創造として作り出さなくてはならないと考えたのです。こうして到達されたのが社会的共通資本のアイデアでした。
そのため宇沢先生は「社会的共通資本を学ぶものにとって水俣は聖地なのだ」と繰り返し語られていました。水俣を訪ねたときに宇沢先生が感じられたたくさんの話を、何度も情感たっぷりに伝えて下さいました。

そんな宇沢先生の横顔を垣間見れる一つのエピソードをご紹介したいと思います。確か2006年ぐらいのことだったと思いますが、あるとき熊本日日新聞が、水俣病をめぐる専門家の誌上討論会を企画しました。
宇沢先生はこの座談会に呼ばれました。僕も宇沢先生にお誘いいただき、一緒についていって座談会を傍聴させていただきました。
座談会に呼ばれたのはほかに原田正純先生や弁護士さん、熊本県の職員さんなどでした。参加者の全部の構成は覚えていないのですが、それぞれに立派な肩書のついた方々でした。
冒頭にその面々を見回した宇沢先生、主催者の熊本日日新聞の編集長にこう言われた。「君ね、今日は専門家の座談会なんじゃないの。それならどうしてここに漁民の方がいないの。君ね、海を一番知っているのはなんと言っても魚を獲っている人たちだよ。その人たちがいなくてなんで専門家の集まりなの」

やや憤然としながら編集長に質問している宇沢先生の横顔が瞼に浮かびます。宇沢先生が社会的共通資本をどのようなものとしてイメージされていたのかをつかみとっていただけたらと思います。
ちなみにあの時、宇沢先生と僕は熊本空港のロビーで待ち合わせたのでした。宇沢先生は昔から使われていたエンジのザックを背負ってひょうひょうとしてあらわれ「実は羽田空港でやられちゃってね。いやあ、空港は厳しくなったね」と頭をかかれた。
なんのことかと思ったら、どうもペットボトルの中に小分けしてもたれていた焼酎が手荷物検査で発見され、不審がられて没収されてしまったようなのです。
お酒が大好きだった先生。いつどこでも飲めるように、一見、水を入れているように見えるボトルの中にいつもお酒を忍ばせておられた。それを嬉しそうにきゅっと飲まれていました・・・。

話をもとに戻しましょう。このように社会的共通資本の考え方は、水俣病を発生させてしまった日本のあり方とそれへの近代経済学の関与への痛烈な反省から生まれたものでした。
このため宇沢先生は、近代経済学の批判にも踏み込まれていきました。初めに批判を公にされたのは1971年1月4日に日本経済新聞に寄稿した「近代経済学の混迷」と題した一文であったそうです。宇沢先生の近代経済学批判はその後、『自動車の社会的費用』『近代経済学の再検討』(岩波新書)などにまとめられていきました。
宇沢先生のこの時期に行われた一連の提言は、1970年代の半ばにアメリカをはじめ、西側の大国が陥っていった近代経済学の影響下での発展の行き詰まりを捉え返し、「経済成長」の中身を問い直す画期的な内容に満ちたものでした。
いわゆる財政投資で経済をまわしていくケインズ主義のスペンディングポリシーが行き詰まり、何らかの転換が問われたあの時期に宇沢先生のアイデアが採用されていれば、世界は真の豊かさに向けた歩みを開始することができたでしょう。

しかし実際には世界は、社会的共通資本を守り、育み、発展させていく方向性とはまったく反対に走り出しました。その際、指導的な原理となったのはシカゴ大学のミルトン・フリードマンが提唱した市場原理主義=新自由主義でした。
フリードマンはこの時期の世界的な経済成長の行き詰まりの原因をすべて市場に政府が介入することにもとめ、自由放任の、粗野な競争に任される資本主義への転換を唱えました。
彼の理論は1929年の世界恐慌以前の資本主義へ帰れと言うもので、それまで誰もまともに相手にすることがなかったものでしたが、ケインズ主義的スペンディングポリシーの行き詰まりの中でだんだんにもてはやされるようになり、やがてアメリカのレーガン政権、イギリスのサッチャー政権、日本の中曽根政権が登場して国家政策に採用されることとなりました。
フリードマンは各国の福祉政策を自由競争を阻害するものとして激しく攻撃していました。人々をむき出しの競争に追い込んでこそ経済が発展すると主張したのです。実はこのフリードマンこそ、シカゴ大学での宇沢先生の主要な論敵であり、そればかりか宇沢先生の日本への帰還の直接のきっかけをつくった人物でもありました。

続く

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明日に向けて(949)集団的自衛権が行使されるとどういうことがおこるのか?(2)

2014年10月08日 01時30分00秒 | 明日に向けて(901)~(1000)

守田です。(20141008 01:30)

前回の続きを書きます。

核心問題は集団的自衛権の行使が目指すのは、このようにして世界で最もたくさんの無差別殺戮=戦争犯罪を繰り返し、アメリカが世界中で売りまくっている戦闘に自衛隊が参加することだということです。
このことで日本は重大なものを失います。イスラム圏の人々、とくにアラブの人々の日本への信義です。これは何重にも重ねられてきたものです。
第一に世界の多くの人々は、今のアメリカの無差別空襲に象徴される戦争犯罪が、アメリカによる広島・長崎への原爆投下から続く一連のものであることを知っています。例えばアフガニスタンは中央集権制が極めて薄い、谷ごとに区切られた部族社会ですが、その谷のどこにいっても広島・長崎を知らない人はいない。
日本はそれほどにひどいアメリカの攻撃を受けた。しかし戦後、見事なまでに復興を遂げて経済大国になった。しかも軍事大国にはならず、世界に暴力で自分の意図を押し通そうとすることがない。その姿勢が日本への信頼を作り出してきたのです。

とくにイスラム圏には日本は軍国主義の時代も含めて一度も攻め込んだことはありません。それどころか第二次世界大戦後に独立したイランが、初めてイギリスの手から油田を奪取して国有化し、イギリスによって海上封鎖されたときに、出光のタンカーがイギリスの意向を無視して買い付けに入ったことなどでさらに信頼を重ねてきたのでした。
総じてその後も日本は、生命線である石油を安定的に確保するためにも、官民がそろってアラブのどの国とも仲良くする外交を貫いてきました。その中にはイスラエルともパレスチナとも信義を作り出してきたことも含まれています。実際、日本はイスラエルがめちゃめちゃにしたパレスチナの復興にも何度も支援を行ってきたのです。
ただし日本はアジアに対してはそうではありませんでした。自らが徹底した空襲を受け、無差別殺戮を受けたのに、そのアメリカ軍に基地を提供し、朝鮮戦争やベトナム戦争でのアメリカの出撃を支えぬき、そればかりか軍事特需で大儲けして高度経済成長を達成したのでした。
そのためにアフガニスタンに医療援助を繰り返してきたペシャワール会の中村哲医師は、イスラム圏の人々の日本への深い信頼を「美しい誤解」と語っています。でも「瓢箪から駒」で、本物の信義に代えていこうではないかとも。

にもかかわらずアフガニスタン戦争、イラク戦争に日本が加担し、とくに米軍占領下のイラクに自衛隊を送りこんだことで、こうしたイスラム圏の人々の日本への信頼感は今、急速に失われつつあります。
かのオサマビン・ラディンは、すでにイラク戦争後の2004年に、アメリカへの戦争協力への代償として攻撃を受ける対象国として日本の名を挙げています。またこのころから日本人が誘拐されたり、殺害されることも少しずつ増えてきました。
さらに自衛隊が「アメリカとの集団的自衛権の行使」の名の下に、この理不尽なイスラム圏の人々への無差別殺戮に加わっていったらどうなるでしょうか。
日本への攻撃が「警告」「威嚇」のレベルを越えて、実行に移される可能性も高くあります。その場合、私たちが持つべき視点はイスラムの人々の側の視点です。たくさんの同胞が無残に殺されているのです。それに日本が味方しようとしているのです。

私たちが私たちの国を守り、住民を守ろうとするときに、何よりも考えるべきことは、こんなとんでもない戦争に絶対に手を突っ込んではいけないということです。
日本を守るどころか、まったく逆でたちまち在外日本人の安全性が失われてしまうし、私たちの国の内部でも自爆攻撃などが行われるようになるかもしれません。
その場合、私たちが知るべきことは、私たちの国はアメリカに比べて自爆攻撃に対しても格段に弱いということです。なぜか。戦後の多くの期間を軍事に頼らず、信義によって自らを守ろうとしてきたので、攻撃には脆い「和」の世界が私たちの社会には支配的だからです。
私たちの国は「おもてなし」だとか、人と仲よくなることにはまだまだ上手な力があり、だからこそ海外からの観光客に喜ばれたりしてきていますが、他者の憎しみにさらされる中で自らを軍事的に防衛していく訓練など社会的に積んでいません。

その上、狭い国土に密集してさまざまなものを建ててきてしまったので、事故が拡大しやすい。スイスのある調査機関は世界で最も災害に対して弱く危険な都市の第一位に東京・横浜圏をあげ、名古屋、大阪・神戸圏もワーストテンに入っていますが、このことは日本の都市がさまざまな弱点を持っていることを強く物語っています。
端的に言って利根川や淀川の連続堤防を狙われたら大変な災害が人為的に作られてしまいます。いやそもそも福島原発は瀕死の状態で、どんなダメージにも脆い状態にあります。さらに海岸線の僻地に無数の原発が建っている。いや石油コンビナートだとか、攻撃に弱い建物がひしめているのです。
さらに言えば、この国の民は概して他者に対する信頼度が高い。夜中でも若い女性が歩いていられるし、電車の中でうたた寝していても荷物をとられる心配もそれほどない。それやこれや私たちの社会が穏やかさを保っているそのあり方が、攻撃への不利さを形作ってしまうのです。
自爆攻撃のような形態の軍事戦闘に強い国を作るためには、社会の中にもっと強い猜疑心を作らなくてはなりません。そうして個人ももっと武装していく必要が生じます。

しかしそれでどうなるのか。もっとも強い国アメリカを見てみましょう。自爆攻撃に合わなくとも、社会の中で銃の乱射事件が絶え間なく起こっています。単純に銃が出回っているせいでもあります。銃で個人個人が身を守る発想が、社会に絶望した個人がその攻撃性を社会にむけうる可能性を作り出してしまっている。
さらにこれを加速しているのが、アメリカ社会の中に人殺しの占める割合が非常に高いということです。軍隊に入って各地で無差別殺戮に参加してしまっている人々がいるからです。そのことが命を尊ぶ心を磨滅させ、暴力礼賛のあり方を加速してしまう。
このためアメリカはOECD参加国の中で、町を歩いていて殺される可能性の一番高い国です。反対に最も少ないのは日本です。そのことに日本の軍隊が、まだ一度も、戦闘で人を殺したことがないこと。自衛官の中に殺人者がほとんどいないことが大きく寄与しています。
その意味で軍隊が戦闘に参加し、人殺しをして帰ってくることは、社会が内側に暴力性を孕んでいくこと、殺人肯定論を孕んでいくこととセットであることも私たちは見据えておかなくてはなりません。


ただしここで注意すべきなのは、当たり前のことですがイスラムの人々の間にも非常に多様な視点があるということであり、命や正義を尊ぶ姿勢は、けして世界中のどこの地域、どの宗教の人々とも変わらないほどあついということです。
そこで参考になるのは、上述の中村哲さんが語られたことです。中村さんはアフガン社会についてこう言いました。「アフガニスタンの田舎はどこも保守的なイスラム教が強いですが、しかし概して極端な思考は持ちません。極端な思考はむしろ西洋の洗礼を受けた都会から出てくるように思えます」。
これは重要なポイントです。オサマビン・ラディンらが、アメリカの支援を受けたアフガニスタンの軍事キャンプの中で武闘派として成長して行ったように、イスラム教というよりも、アメリカが戦後に体現してきた軍事思想こそが彼を育ててきたのです。
今、「イスラム国」はその残虐さばかりがハイライトされていますが、一方でFACEBOOKなどを通じて、各種の言語を操り、世界中から若者を戦乱の地に呼び寄せる洗練された力も示しています。アメリカを中心に生まれてきたテクノロジーを利用しているのです。そうした彼らがアメリカ軍の戦法を取り入れないはずがない。

アメリカが示してきたことは何でしょうか。力こそが正義だということです。力があればどんな不正義も正義と言い換えられる。自らの意志を押し通すことができる。そして実際に押し通し続けています。
恐ろしいことに、人間は自らが批判し嫌うものに、知らず知らず似通っていく性質を持っています。とくに軍事の世界では相手にやられたことをコピーし、やり返していくことが繰り返されてきました。そのため新たな攻撃方法を発案するとやがて同じことをやり返される羽目に陥ってしまう。
軍事の研究の古典である『戦争論』を遺したクラウゼヴィッツも、プロイセンの軍人として、自ら相対したナポレオン軍の圧倒的強さに心酔し、分析し、『戦争論』を編み上げたのでした。最大の敵だったナポレオンの戦法を継承し、体系化していったのです。
実際、「イスラム国」は自らの残虐性を非難されるとこう答えると言います。「アメリカの方が何百倍も残虐ではないか」と。実はそうやってアメリカの残虐な在り方をコピーする中で、アル・カイーダをしのぐといわれる残虐性を身に付けてしまっているのです。アメリカを批判しているようでアメリカに思想的に取り込まれているのです。

なのでこうした人々のあり方とイスラム教を峻別することが大事だと思います。古来からどの宗教に属する人々の中にも極端な人々がいました。しかしほとんどすべての場合に共通するのは、大多数の人々は、一時期はともあれ、そんな極端な発想に走り続けることはなく、穏やかなところに落ち着いてきたということです。
こうした点を無視し、「イスラム国」などをイスラム教そのものが生み出したと捉えるのはまったく正しくありません。むしろアメリカの軍事万能主義こそが、さらに言えば常にその後ろでほくそえんできた死の商人たちこそが、こうした武装グループを作り出しているのだということです。
私たちはその意味で、こうしたアメリカに象徴される軍事がすべて、強ければいい、巨大な武器で相手を徹底的に殲滅せよ・・・というようなあり方からの決別をめざすべきです。
そのためには日本の平和、安全を守ることをこえて、ぜひすべての戦争をやめ、極端な考えをいましめ、徹底した対話の中で問題解決を図っていく発想をこそ、私たちはめざし、発信していくべきだし、そのためにこそ今こそ憲法9条の本義に立ち戻り、不戦の誓いを打ち立てて行く必要があると思います。

以上、まだ少し内容を変えるかもしれませんが、基本的にこうした点を9日にお話ししようと思います。
お近くの方、ぜひご参加下さい!

*****

9日の企画案内を貼り付けておきます。

「安倍サンやめて!」懇談会 第2弾
「集団的自衛権は戦争への道」

日時  2014年10月9日(木) 午前10時~12時
場所  サン・ビレッジ近江八幡 ミーティングルームA・B
近江八幡駅南口出口から徒歩約9分 (男女共同参画センター北隣りです) 
お話  守田敏也さん(フリーライター)
参加費500円

今、日本は大国の中で唯一、第二次世界大戦後、軍隊が他国民を殺したことのない国として、アフガニスタンや中東、アラブでも良いイメージを持たれています。
しかし、集団的自衛権が行使されると、日本とは関係なくても自衛隊が海外で戦争し、人殺しをさせられるようになります。
自衛隊が参戦すると、日本の良いイメージが壊れるだけでなく、戦争の当事者として報復の対象にもなり、安全保障に逆行してしまいます。
自衛隊が戦争をしないように、人殺しをさせられないように、一緒に平和について考えましょう!

主催:平和をまもるために戦争許さない会
世話人代表:鈴木悛亮  世話人:真野生道、福井勝、峯本敦子、高谷順子
連絡先 070-6505-9741(高谷順子)

 

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明日に向けて(948)集団的自衛権が行使されるとどういうことがおこるのか?(1)

2014年10月07日 23時30分00秒 | 明日に向けて(901)~(1000)

守田です。(20141007 23:30)

明後日10月9日に近江八幡市で集団的自衛権についてお話します。そのために何をどうお話するのか、まとめておきたいと思います。長いので2回に分けます。
その際、主催者とのお話の中で集団的自衛権への反対をいかに訴えるのか、いろいろと考えさせらえることがありました。
端的に言って、今、集団的自衛権に反対している方の中には、個別的自衛権は良いけれども、集団的自衛権はおかしいと考えている方もおられます。
典型的には元自衛官の泥さんという方で、彼はヘイトクライムにも身体を張って立ち向かっており、多くの人の共感を集めてもいます。僕もヘイトクライムに立ち向かう泥さんを尊敬しています。

でも僕は一方であくまでも自衛隊そのものが憲法違反なのだから解体すべきだ、解体して災害救助隊に改編すべきだと思っています。そのことをここでも何回か書いてきています。
しかしそれをいきなり主張した場合、個別的自衛権にはそれほど反対ではないけれども集団的自衛権には反対という人を味方につけられないのではないかという声がありました。あるいはせめて集団的自衛権に反対する人を増やしたいので、そこをハイライトして欲しいとも。
確かに「うーん」とうなるところがあります。反対の声はできるだけ大きい方がいいし、そのためにはできるだけたくさんの方と合意できる訴え方をする必要があります。
また僕にそういう問いを投げかけてくれた方は、もともと戦争反対の意識を持っていなかった人にも一生懸命に訴えて日本を戦争の危機から守ろうと懸命に奮闘している方であり、だからその問いは強く胸に響いてくるものがあります。


そこでまず集団的自衛権を行使するとどうなるかをあらためて押さえておきたいと思います。そもそもなぜ日本が集団的自衛権を行使する必要があるのか。本年5月15日、安倍首相は記者会見で次のように説明しました。
「海外で突然発生した紛争から逃げようとする日本人を救助・輸送しているアメリカ船が、日本近海で攻撃を受けた場合でも自衛隊が武力行使えできない。これでは日本人を守れない。だから集団的自衛権が必要だ」と。
しかしそんなこと、実際にあるのか。民主党の辻元清美議員が6月11日に、米国は邦人輸送を想定しておらず、過去に邦人輸送の規定盛り込みを拒否していたことを国会で明らかにしましたが、政府もすんなりこの事実を認めました。
ところが安倍首相は集団的自衛権の行使の閣議決定後の記者会見で、5月に使ったフリップとまったく同じようにしてアメリカ側も日本政府も認めた「そんなことはありえない」という事実を無視し、同じ説明を繰り返した上に「批判を恐れずに行動に移した」と言い放ちました。
 
これは集団的自衛権に限ったことではなく、安倍首相の「答弁」での常套手段です。そもそもまともに答弁する気がない。初めに大きな嘘を言い、何度批判されても、同じ嘘を繰り返しつき続ける。
このように「大きな嘘を何度も繰り返せば人は信じるようになる」と語ったのはナチスドイツの高官たちです。宣伝相のゲッペルスなどが有名ですが、安倍首相はこれと同じことを平気で行う。それを安倍政権の広報新聞と揶揄されている産経新聞などが平気で書き続けています。
およそこのことだけでも安倍首相の説明がほんとうにひどい出鱈目であり、聴き手への誠意をまったく欠いた不誠実極まりないものであることは明らかですから、ここではこれ以上、首相発言の分析には踏み込みません。
いかに注釈をつけようとも、集団的自衛権とは日本の同盟国が攻撃された場合に、自らへの攻撃と捉えて反撃する「権利」のことで、他人が売られた喧嘩を自ら買うことに他ならないのです。そのためアメリカが行っている戦争に巻き込まれる・・・というより積極的にアメリカの戦争に日本が関与することになります。


この際、一番、重要なのはこの間、アメリカが繰り返してきた戦争はどのようなものかということです。第二次世界大戦における日本攻撃、沖縄戦や広島・長崎への原爆投下、主要都市への空襲は、すべて圧倒的多数の非戦闘員を殺害する無差別殺戮であり、戦争犯罪でした。ドイツに繰り返された大規模空襲も同じです。
これと同じことをアメリカは朝鮮戦争における北朝鮮への空襲で行い、ベトナム戦争における北爆でも行いました。さらに2000年代に入り、アフガニスタン、イラクなどでもこうした無差別殺戮が繰り返されてきました。一度も反省していないのです。
アメリカが行った戦争は他にもたくさんありますが、大事なことはこうした無差別殺戮でたくさんの同胞を殺害されたことに対して、日本政府はただの一度も批判することすらできないで来たということです。まさに自虐的です!それどころか同じようなベトナム空襲のための基地をアメリカに貸し続けた。
これに対して世界の多くの国々がアメリカによる度重なる無差別殺戮に対して批判の声を上げてきました。また民衆レベルでは日本人も含めて世界中で本当にたくさんの人々がアメリカの戦争を批判してきました。最近ではイラク戦争開始の前に世界中で1000万人以上が同じ日にデモを行い、アメリカのイラク侵略を止めようとしました。

しかしアメリカは止まりませんでした。アフガニスタンへの侵攻は、当時のタリバン政権が「オサマビン・ラディン」をかくまっているからという名目だけで行われました。タリバン政権は「彼が犯人だと言う証拠を見せて欲しい」と言っていただけだったにもかかわらず。
イラクに対しては「大量破壊兵器」を隠し持っているという名目で侵略戦争が行われました。しかしイラクはそんなものまったく持っていなかった。にもかかわらず全土を蹂躙してしまいました。その後も戦争目的がまったくの虚構だったことにも反省の一言も語っていません。
さらに重要なのは、もともとアメリカが打倒対象としたオサマビン・ラディンも、イラクのフセイン元大統領も、もともとはアメリカが育て、軍事力を持たせた人物であったということです。
オサマビン・ラディンや「アラブ義勇兵」が大きくなって言ったのは、旧ソ連に対するアフガニスタンでの軍事戦闘の中でのこと、イラクが軍事大国化したのは、イラン革命後のイランとイラクの間の戦争の中でのことでした。

とくに1990年代初頭にソ連邦が崩壊し、米ソ連戦構造が崩れるや、アメリカは軍事力の矛先を中東に向け始めました。そしてフセイン政権を挑発して湾岸戦争に持ち込み、膨大な軍事力でイラク軍への全面攻撃を行いました。
このことがイスラム圏の多くの人々の心を痛く傷つけました。イラクのクウェートへの侵攻という事態に対して、アラブ各国の側に巻き起こった自主解決の機運もまったく無視したからでした。この頃から対ソ戦闘の中で成長した「アラブ義勇兵」などを中心に、アメリカへの攻撃が高まり、2001年に911事件が起こりました。
その後、アメリカはアフガニスタン、イラクへと雪崩討つような攻撃を行ってきたわけですが、その際にも膨大な数の民間人の犠牲を伴いました。イスラムの側からはムスリムの同胞、しかも大量の非戦闘員、お年寄りや女性、子どもたちが殺され続けてきたのです。
さらに国連決議を無視して違法なパレスチナの占領を続けるイスラエルをアメリカが全面的に擁護し、イスラエルによるパレスチナへの度重なる戦争犯罪も容認し続けてきたことがますますイスラム圏の人々の怒りを書き立ててきました。

こうした中でイラクは戦乱の泥沼になってしまいました。アメリカはアフガニスタンでもイラクでも繰り返される抵抗に疲弊し、国内で反戦機運が高まることで、占領軍の撤退を開始し、自らが後押しする政権による統治に期待をかけました。
ところがこれが全然、うまくいかずに中東はどんどん不安定さを増してきました。しかもこうした中でイスラエルはガザを違法・不当に包囲し、戦争犯罪である空襲や軍事侵攻を繰り返してきました。
今日、こうした中でシリアとイラクをまたがる地帯に「イスラム国」なる武装集団が出現し、瞬く間に支配地域を拡大しています。しかも世界各国の若者にイスラム国への参加を訴え、多国籍の一大軍事グループに成長しつつあります。
アメリカはたまらずに空襲を開始しましたが、効果は限定的であると言われており、むしろたくさんの国から義勇兵が集う中で、これらの人々が自国に立ち戻った後で、軍事攻撃に出るのではないかと言う恐れすらが生まれています。

続く

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明日に向けて(947)台風18号接近中。最大限の注意を。危険を感じたら早目の避難を!

2014年10月05日 09時00分00秒 | 明日に向けて(901)~(1000)

守田です。(20141005 09:00)

大型の台風18号が接近しています。今回もかなりの暴風雨を伴うようです。再び土砂災害の発生の可能性があります。最大限の注意を払い、危険を感じたら早目の避難を行ってください。
気象庁発表の直近の台風情報を掲載しておきます。


 平成26年 台風第18号に関する情報 第50号 (位置)
 平成26年10月 5日07時45分 気象庁予報部発表
 http://www.jma.go.jp/jp/typh/D20141004224107739.html

 大型で非常に強い台風第18号は、5日7時には奄美大島の東約180キロの北緯28度35分、東経131度20分にあって、1時間におよそ15キロの速さで北へ進んでいます。
 中心の気圧は945ヘクトパスカル、中心付近の最大風速は45メートル、最大瞬間風速は60メートルで中心の北側220キロ以内と南側190キロ以内では風速25メートル以上の暴風となっています。
 また、中心の北側600キロ以内と南側440キロ以内では風速15メートル以上の強い風が吹いています。

 この台風は5日8時には、奄美大島の東約180キロの北緯28度50分、東経131度20分にあって、1時間におよそ15キロの速さで北へ進んでいるものと推定されます。(引用はここまで)


台風18号は本日5日は比較的ゆっくりと進んで15時に種子島南東約100キロに達し、その後、スピードを急速にあげて6日3時には潮岬南東約70キロに、その後、温帯低気圧に変わり、7日3時には日本の東に抜けて行くと予想されています。
http://typhoon.yahoo.co.jp/weather/jp/typhoon/

台風接近への備えについては本年7月の8号接近の時に書いた以下の記事を参照してください。 

 明日に向けて(887)台風8号接近中!最大の警戒心をもって対応を!-20140708
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/66f450fea4f4dacffa48f2b73a4e11a8

また新たに気象庁が台風12号接近時に発表した「推奨される対応 台風に備える」を貼り付けておきます。参考にされてください。


 推奨される対応 台風に備える
 全般台風情報 気象庁 台風12号接近時に発表
 http://www.google.org/publicalerts/alert?aid=21148aab5b9c769d&hl=ja&gl=JP&source=web

 屋根瓦やトタンを補強する
 風で屋根瓦が飛べば、けがでは済まされない事故になることもあり得ます。また、雨漏りの心配がないか、外壁のひび割れはないかなども確認しておきましょう。
 さらに、テレビのアンテナや倒れる可能性のある塀、自転車や鉢植えのように飛ばされる恐れのあるものは、ロープで固定したり屋内にしまったりといった対策をとりましょう。

 事前に排水設備の点検・掃除をしておく
 排水溝のつまりが原因で、道路や庭などに雨水が溜まると、地下室・駐車場などが被害を受けます。
 ベランダの排水溝や雨どいが、落ち葉やゴミなどで詰まっていると、2階以上への浸水や天井裏への浸水などが発生することがあります。雨水の排水設備関係の点検・掃除を心がけましょう。

 懐中電灯や食料などを用意する
 断水や停電となる可能性があります。懐中電灯や情報を収集するためのラジオ、買い物に行けないことも考えて数日分の飲料水や食料を用意しておくといいでしょう。

 家財道具を高い場所へ移す
 水に濡れると高価な家財道具も台なしです。浸水被害に遭うと困るものは上階など高い場所へ移しましょう。できれば浸水被害に対応する損害保険(火災保険の特約等)にも加入しておくとよいで しょう。

 低地の居住者は土のうなどを用意する
 低地や川沿いの住居には、浸水をせき止めたり浸水の時間を遅らせたりすることができる土のうの活用も有効です。
 土のうがないときは、ゴミ袋に水を入れて水のうをつくり、コンクリートブロックで固定するとか、水の入ったペットボトルをダンボールに詰め、簡易の堤防にするといった代替方法もあります。

 地下にいる場合は注意する
 地下鉄や地下街、地下駐車場などは浸水の恐れがあるので注意しましょう。 エレベータを使わない地下にある電気室や機械室などが浸水するとエレベータが停止する可能性があるため、エレベータの使用は控えましょう。

 通過中は外へ出ない
 台風の際は、建物内で通り過ぎるのを待つのが基本です。通過しているときは、外へ出ないようにし、河川や用水路の見回りは危険ですのでやめましょう。また、屋根の補修は台風が近づく前に済ませておきましょう。

 がけ崩れに注意する
 勾配が30度以上、高さが5m以上の急傾斜地は、一般的にがけ崩れの危険性が高いとされています。「急傾斜地崩壊危険箇所」と呼ばれ、自治体のホームページなどで確認できます。
 がけにひびが入ったり、小石が落ちてきたり水が噴き出したりしたら、がけ崩れの危険が高まっています。丈夫な建物の上階に避難しましょう。

 浸水の被害を想定する
 高潮、増水の恐れがある地区では気象情報や行政からの情報に特に注意を払い、すぐ避難できるように準備しておきましょう。
 避難準備情報が出された場合は、速やかに要援護者の避難を行政から避難準備情報が出たら行動能力の低い人々を優先に、自動車等を使って速やかに安全なところに移送しましょう。高齢者や障害者、乳幼児らを抱えた家族等が対象です。
 高台などの避難所 、親類縁者の家、福祉施設等を利用してください。

 行政から避難勧告が出た場合は、複数で行動する
 行政から避難勧告が出たら戸締まりをして、近所の人に声をかけ、一緒に徒歩で避難しましょう。運動靴やトレッキングシューズなら、冠水した道路も比較的歩きやすいでしょう。(引用はここまで)


さて、これらを押さえた上で、さらにこの夏から秋にかけての災害を振り返っておきたいと思います。
まず注目すべきは7月上旬の台風8号接近時に、長野県南木曽町で、台風そのものはまだかなり遠くにあるのに、発生した前線に雨雲が流れ込んで豪雨が発生し、読書地区の梨子沢に土石流が起こって1名が亡くなったことです。以下に詳細な分析があります。


 2014年7月台風8号による南木曽土石流災害
 (独)防災科学技術研究所 観測・予測研究領域 水・土砂防災研究ユニット 20140724
 http://mizu.bosai.go.jp/wiki/wiki.cgi?page=2014%C7%AF7%B7%EE%C2%E6%C9%F78%B9%E6%A4%CB%A4%E8%A4%EB%C6%EE%CC%DA%C1%BE%C5%DA%C0%D0%CE%AE%BA%D2%B3%B2


特徴的なことは、わずか2時間の豪雨で土石流が発生していることです。原因をさぐるとこの地域が花崗岩質で覆われていて、もともと地盤が弱かったことがあげられます。そのため過去にも災害が起こっています。
ここからすぐにも導き出せる結論は、同様の花崗岩質の斜面ではわずかな時間の豪雨で土石流が発生しうるということです。
斜面に近いところにお住いのある方は、そのあたり一体の地質が何であるかを把握し、かつまた過去に災害が発生していないかどうかを調べて下さい。これらに該当する場合は、ぜひ台風の間だけでも万が一の避難を行うことをお勧めします。

この際、注意を促したいのは地域の行政が出しているハザードマップの使い方です。地盤が弱いところ、土砂災害の発生しやすいところの把握には便利ですが、あくまでも人間の側の想定ですので、外れることもあります。
そのためハザードマップの危険地帯に記載されてないからと安心するのは危険です。危険地域外にお住まいが記載されていても、花崗岩質で過去に災害が発生している地域は念のための避難を考えた方が良いです。

この夏はもっとたくさんの方が犠牲になった激烈な土砂災害も発生しました。8月20日に発生した広島土砂災害です。
20日未明から早朝にかけて広島市内で急速に雨雲が発達。被害の発生した地区の一つの安佐(あさ)北区の降水量は、午前4時までの3時間に史上最多の217・5ミリとなり、平年の8月1カ月分を上回る雨量となりました。(広島地方気象台)被害は3時頃にはすでに発生しだしています。
この大災害の発生を受けて、同様の危険性が全国にあることを訴えた朝日新聞の記事をご紹介します。現場の空撮動画も見れます。


 土砂災害、全国で発生の危険 もろい地質と豪雨が引き金
 朝日新聞 2014年8月21日02時33分 佐藤建仁、野中良祐 合田禄、朴琴順
 http://www.asahi.com/articles/ASG8N5HK4G8NPLBJ009.html


広島土砂災害の場合も、南木曽町と同じく花崗岩が風化して砂のような地質となった「まさ土」の地域で激甚な被害が発生しました。降り始めからわずか数時間で土石流が発生したことも似ています。
これらに対して朝日新聞の記事の中で京都大防災研究所の釜井俊孝教授(応用地質学)が次のように語ったことが記されています。
「高度成長期以前には今回のような災害は少なく、都市化がもたらしたと言える。土地の性質をよく理解した上で住まいを決めることが重要だろう」。

端的に言って、かつては家が建っていないところが開発されて居住地になってしまっているということです。つまり過去を遡れば危険地帯であって、人が住んでいないところにたくさん家が建ってしまった。
だからこそ過去を調べていけば、実は似たような災害が発生していた記録が出てくるのです。現代の都市化がモラルを欠いて進められてきた現実がここに横たわっています。
大きくは私たちの社会の建設のあり方の歪みを変えていかなくてはなりませんが、さしあたっては危険地帯での対処が優先です。というよりも危険地帯の把握と、その地域・地点での念のための早目の避難の励行で凌いでいくことが必要です。

記事の中には以下のようにも書かれています。


 豪雨に弱い、もろい地質は、広島市に限った話ではない。「まさ土」は神戸市や岡山県などにも多い。雨の条件さえそろえば繰り返し崩壊するという。
 「花崗岩のほかに、火山に関連する地質ももろい。引き続き各所で警戒する必要がある」と下川悦郎・鹿児島大特任教授(砂防工学)は警鐘を鳴らす。火山由来の「シラス」や「ボラ」などと呼ばれる地質も災害が発生しやすい。
 これらを含む「特殊土壌地帯」は全国で約5万8千平方キロで、国土の約15・3%を占める。鹿児島、宮崎、高知、愛媛、島根の各県の全域のほか、静岡や兵庫、広島などの各県の一部に広がっている。(引用はここまで)


なおこの「特殊土壌地帯」を示す農林水産省のページも示しておきます。

 特殊土壌地帯対策
 http://www.maff.go.jp/j/nousin/tiiki/tokudo/

やっかいだなと思うのはこの中に長野県南木曾町は入っていないことです。ということはここに示された地域以外にも危険なところはたくさんあるはずだということです。
やはりそれぞれの地域で地質を確認するとともに、過去の災害について確認したください。

以上、この夏にあった土砂災害のうち、特徴的な二つの事例を紹介しました。それぞれの地域での安全確保にお役立ていただければ幸いです。
広島土砂災害に続いた御嶽山の噴火については別途論じます。
ともあれ今は台風18号に最大限の注意でもって向かい合い、それぞれの安全をお守りください。

 

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明日に向けて(946)「憲法9条持つ日本国民」がノーベル平和賞の最有力候補に!

2014年10月04日 23時00分00秒 | 明日に向けて(901)~(1000)

守田です。(20141004 23:00)

ノーベル賞の季節がやって来ました。10月10日にノーベル平和賞の発表がなされますが、予想を行っているノルウェーの「オスロ平和研究所」が「戦争の放棄などをうたった憲法9条を持ち続ける日本国民」を最有力候補に挙げました。
NHKが動画で報じているので紹介します。まずはニュースをご覧下さい。


 ノーベル平和賞に「憲法9条持つ日本国民」予想
 NHK 10月4日 6時13分
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141004/k10015113791000.html

 来週、ノーベル平和賞が発表されるのを前に、予想を行っているノルウェーの研究所は、ことしの受賞候補として戦争の放棄 などをうたった憲法9条を持ち続ける日本国民など5つの候補を挙げました。

 これは毎年、平和賞の予想を行っているノルウェーの「オスロ平和研究所」が3日、発表したもので、女性が教育を受ける権利などを訴えているマララ・ユスフザイさんや、政権に批判的なロシアのメディアなど5つの受賞候補を挙げました。
 このうち、戦争の放棄などをうたった憲法9条を持ち続ける日本国民をことしの最有力候補に選んだとしています。
 理由について、オスロ平和研究所のハルプビケン所長は、NHKの取材に対し「ウクライナや東アジアなど各地で緊張が高まっている今こそ、日本の憲法9条の価値が国際的に認識されるべきだ」と話していて、紛争の予防を目指すノーベル平和賞の趣旨に立ち返る意味でもふさわしいとしています。ただ、研究所は過去10年間で40余りの候補を挙げていますが、予想が的中したのは2007年だけでした。
 憲法9条を巡っては、神奈川県の主婦らの呼びかけで、ノーベル平和賞の受賞に向けた署名活動が去年から始まり、趣旨に賛同した国内の大学教授らが、「戦争放棄の憲法9条を保持している日本国民」をノーベル平和賞の選考委員会に推薦していました。
 平和賞は10日、ノルウェーの首都オスロで発表されます。


僕は素晴らしいことだと思います。平和賞を獲得にいたらずとも、最優良候補として世界に認知されたことだけでも十分に意義深い。

もちろんノーベル賞にはさまざまな問題があります。とくに平和賞はとても平和の担い手とは言えない人物にも授与されてきました。その一番の典型はアメリカのオバマ大統領です。
オバマ大統領は今、法的な正当性などないにも関わらず、シリア領内での「イスラム国」への空襲を行っています。またアメリカが支持する国、イスラエルのガザ空襲を何ら批判せず、戦争犯罪を容認し続けました。オバマ大統領はノーベル平和賞を返還すべきです。

一方、「日本国民」は確かに戦争の放棄をうたった憲法9条を持ち続けてきましたが、9条の精神を十分に生かし切れているとは言えません。
何より憲法9条はどう読んでみたってあらゆる軍隊の保持の放棄を宣言したものです。憲法9条には以下のように書いてあります。


 ■日本国憲法第9条
 ①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 ②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。


しかし日本は自衛隊を保持しており、「日本国民」の多くはこれを容認してしまっています。
今日、安倍内閣は恣意的な「解釈改憲」によって集団的自衛権を行使しようとしており、多くの人々がこれに反対していますが、しかしそもそも自衛隊の創設そのものが恣意的な憲法解釈に基づくものです。
ところが集団的自衛権行使に反対する人々の中にも、自衛隊の存在そのもの、自衛権の軍隊による行使は認めてしまっている人々もいます。
そうではない。国際的には認められている自衛権を、自ら放棄し、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とうたい、そのために「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とうたっているものこそ9条なのです。


この憲法の素晴らしさは何でしょうか。世界から戦争を無くしていく真の、そして唯一の方向性を示していることにあると僕は思います。
なぜか。戦争は常に当事国によって正当化されて始まるからです。その正当化の理由は「自衛」です。実際、「イスラム国」への空襲に踏み切っているアメリカは「自衛権」の行使を主張しています。「自衛」と名乗れば実際にはどんな戦争でも起こせてしまうのが現代社会なのです。
このためこれまで多くの国家が、世界だけでなく自国民をも騙して「自衛」と称した戦争を行ってきました。近代において、ただの一つの国も「これから侵略を行う」などと宣言して戦争を始めた国はありません。
およそ全ての国が、交戦相手の非道をなじり、自らの行為が止むにやまれぬ自衛であることを宣言して戦闘に踏み込んできたのです。

この自衛の名の下の戦争の発揚を封じ込める道は唯一、自衛の名の下に戦争を始める権利を放棄することです。もちろんその場合、今の世界では「正当」と考えられている自衛権そのものの放棄することになります。
「正当」なものも放棄しなければ、「自衛」の名の下に侵略が行われる可能性を無くすことはできないし、いわんや「自衛」の名の下に、国民が侵略戦争に駆り出される可能性も無くすことはできない。だから「正義の戦争」を行う権利、「自衛」の権利を積極的に捨てるのが憲法9条の歌う精神なのです。
この観点を持って今、行われいる国際紛争を見てみましょう。およそこの考え方こそが戦争を止める論理であることははっきりしています。
例えばウクライナはどうか。現政府側も新ロシア側も互いに正義を主張して引き下がりません。「国際社会」ではどちらが正義であるかの論争ばかりが続き、それ自身に決着がつく展望はありません。例え正義であっても戦争で解決するのは止めようという論理だけが、こうした戦争の発揚を未然に防ぐ道を切り開きます。

こうした論理を猛烈に批判する人々がいます。第一に各国の軍部です。第二に武器商人たちです。この二つは互いに連携しながら大きなシンジケートをなしています。軍産複合体となり膨大な利益をむさぼり続けています。
実は現代においてなかなか戦争が無くならないのは、こうした軍産複合体は世界に武器を供給し続けているからでもあります。さらに新たな武器を開発し続け、常にその実戦使用の場を求めているのが武器商人たちです。
その犠牲になってきた典型国の一つがイラクです。そもそもイラクは1980年代初頭に起こったイラン革命の中東への波及を恐れた欧米各国が、積極的に後押しする中で軍事大国化したのでした。かくしてフセイン体制のもとでの強大な軍隊が出来上がりました。死の商人たちのお得意先がイラクでした。
冷戦が突如終わり、このままでは軍産複合体の命運が危ういとなったときに、アメリカや各国の死の商人たちは、巨大化したイラクを利用しました。自ら育て上げた軍事独裁政権をヒトラーにみたてて湾岸戦争を行い、さらに2003年に再度の軍事侵攻を行って完全打倒したのでした。

しかも2003年の軍事侵攻は「大量破壊兵器」をイラクが隠し持っているからと言う名目で行われました。しかしイラクに米英軍が攻め込み、徹底的にかの地を蹂躙したのちにくまなく捜査をして分かったことは、イラク政府が繰り返し主張していたように大量破壊兵器などまったくなかったという事実でした。
にもかかわらずアメリカもイギリスも一切、謝罪などしていません。いわんやまったくの言いがかりでイラクに侵略した指導者たち、戦争犯罪人の誰一人も裁かれていません。
その結果、イラクで何が起こったのでしょうか。果てしない無秩序です。「軍事力をにぎるものこそが正義なのだ」という発想がはびこり、戦乱が続き、混迷の末に「イスラム国」が登場してきました。
「イスラム国」は残忍さが際立っています。しかし残忍さへの批判に対してこう言い返しています。「アメリカの方がはるかに残忍ではないか。一方的にたくさんのムスリムを殺してきたのではないか」と。

結局、大義なき戦争を繰り返してきたアメリカこそが、暴力を礼賛し、強ければそれでいいのだという考え方を世界に撒き散らしているのです。そのために戦乱が繰り返し起こっています。
私たちがしっかりと見据えなければならないのは、軍産複合体にとってこうして状態は好ましいのだということです。なぜか。戦争があってこそ武器が売れ続けるからです。戦争があってこそ新しい兵器が開発できるからです。
繰り返しますが、こうした状態から人類が脱して行くために必要なのは「正義の戦争」を肯定する考え方の放棄です。もちろん戦争に「正義」も「悪」もあります。2003年、アメリカの軍事侵攻という「悪」に立ち向かったイラクの側の戦争は、自衛権の行使だったと言えるでしょう。
しかしその正義をあえて行使しない。行使する権利を放棄する。そうしてもっぱら世界の人々への信義に訴えることでこそ自国を守ろうとする。そのために世界の人々と仲良くしていく。相手の立場にたって行動していく。その努力こそが結局自国を守ります。

イラクの場合はどうだったでしょうか。アメリカによってこそ中東の軍事大国となったイラクは、周辺国からの不審を買い続けてきました。それどころかクルドの人々に毒ガスを使うなどしたこともあり、多くの人々の怒りを買っていた。頼るべき信義を作ってこなかった。
そのために地域では軍事大国であっても、米英軍に侵攻されたらひとたまりもありませんでした。イラク軍はたちまち総崩れになってしまった。国際法上の「正当性」がイラクの側にあったことは明らかでしたが、それでは国を守ることも地域の人々を守ることもできなかった。
今、似たような立場にあるのがシリアのアサド政権です。この政権も反対派に対して毒ガスなどを使ってきた。しかしアメリカは、当面の敵である「イスラム国」を倒すために、今はシリア政権を利用しています。
これまでは反政府派を軍事援助してきたにもかかわらずです。それやこれや「イスラム国」が主張するものも含めて、シリアとイラクには、無数の自称「正義」がせめぎあいを続けている。その中の最も大きな自称正義はアメリカの「自衛権」です。

私たちは本当に、こんな混乱と決別していく必要がある。恒久的な平和に向けた世界史の新たな可能性を切り開いていく必要があります。
そのためには「戦争を起こすのが人間の本性だ」などというニヒリズムに陥るのは止めましょう。それこそが死の商人たち、軍産複合体にとって最も都合のいい理屈だからです。実際には武器商人たちが一斉に弾丸を作るのを止めれば戦争はどんどん減っていって、無くなるしかないのです。
その意味で現代世界は、常に戦争が続いていて欲しい人々と、恒久的な平和をのぞく人々の間での大きな「闘い」の中にあることを私たちは見ておく必要があります。
平和をのぞむ私たちは「平和を軍事によって守る」「平和を軍事によって作り出す」という発想とこそ闘わなければなりません。それでなければ死の商人たちに勝てないからです。だからこそ私たちは今こそ憲法9条の真の精神に立ち返り、戦争放棄、不戦の誓いを再度、この国の中に打ち立てて行く必要があります。僕はそのためには自衛隊を解体し災害救助隊に再編して世界の人々のために自然災害と立ち向かっていくことが急務だと思っています。

こうしたことを考えるときに、憲法9条に世界の光が当たり、その保持がノーベル平和賞の最有力候補となっていることはとても好ましいことです。僕はこのことをきっかけに他ならぬ日本国内で、もう一度「9条論議」を起こしていく必要があると思います。
そのために憲法9条をノーベル平和賞の対象にとかけまわってきた人々のこれまでの努力に感謝と共感の拍手を送りたいです。またさらなる署名が呼びかけられているのでぜひ多くの方にこれを広めていただくよう、呼びかけたいと思います。
この運動は神奈川県の鷹巣直美さんによって発案され、進められてきました。この点を伝えた朝日新聞の記事を末尾に貼り付けておきますが、彼女は2012年にEUが「欧州の平和と和解、民主主義と人権の向上に貢献した」としてノーベル平和賞を受賞した時に、次のように考えたそうです。
「EUには問題もあるが、ノーベル平和賞は、理想に向かって頑張っている人たちを応援する意味もあるんだ。日本も9条の理想を実現できているとは言えないが、9条は受賞する価値がある」・・・非常に共感できます。

ノーベル賞の獲得に向けたこの運動、もちろんこの10日の発表にも期待をかけていますが、例えそれがかなわなくとも実現するまで繰り返し挑戦していくそうです。そのためにもさらなる署名協力が訴えかけられています。
以下に署名サイトを示しておきますので、まだの方はぜひ署名にご協力ください。また積極的に周りの方にお伝えください。

 「憲法9条にノーベル平和賞を」実行委員会の署名サイト
 http://www.change.org/p/%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%90%84%E5%9B%BD%E3%81%AB%E5%B9%B3%E5%92%8C%E6%86%B2%E6%B3%95%E3%82%92%E5%BA%83%E3%82%81%E3%82%8B%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AB-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%B3%95-%E7%89%B9%E3%81%AB%E7%AC%AC9%E6%9D%A1-%E3%82%92%E4%BF%9D%E6%8C%81%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E6%B0%91%E3%81%AB%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E5%B9%B3%E5%92%8C%E8%B3%9E%E3%82%92%E6%8E%88%E4%B8%8E%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%81%A0%E3%81%95%E3%81%84-please-award-the-nobel-peace-prize-to-the-japanese-citizens-who-have-continued-maintaining-this-pacifist-constitution-article-9-in-particular-up-until-present?share_id=bXPPOVjonn&utm_campaign=friend_inviter_chat&utm_medium=facebook&utm_source=share_petition&utm_term=permissions_dialog_true

ただ一点だけ、この運動にこうして欲しいと言うお願いを付け加えたいと思います。「憲法9条を保持してきた日本国民」ではなく「憲法9条を保持してきた日本住民」へのノーベル賞の授与を訴えかけて欲しいということです。
私たちの国には「日本国籍」を持たないたくさんの人々が暮らしています。そしてその中にもたくさんの平和を愛する人々がいて、日本の中の反戦運動、平和運動の発展に多大な寄与をしてきてくれています。
僕の頭の中にも、戦争反対を訴えて、何度も街頭を一緒にデモして歩いた日本以外の国籍をもったこの国の住人の顔が幾つも浮かびます。
それこそ2003年のイラク戦争前夜、京都で行われた戦争反対デモにはそうした人々が呼び掛け合ってたくさん参加してくれました。「みなさんどこの国の方ですか?」と呼びかけたら、次々と立ち上がって国籍名を応えてくれました。感動しました。

その意味で僕は憲法9条を、なんとかぎりぎりの線で保持してきた力は日本国民のものだけではないことを声を大にしてアピールしたいと思います。
いや安倍首相のように日本国民の中に、憲法9条をなんとか解体しようと躍起になってきた人々がいる中で、世界の平和を守るために本当に一緒に頑張ってきている日本国籍を持たない「日本住民」がたくさんいるのです。
平和憲法を持ち、なんとか自国軍隊に他国民を殺させないできた日本をこよなく愛してくれている人々です。憲法9条を理由にノーベル平和賞が授与できるなら、この方たちと対等な権利のもとにそれを受け取りたいです。
このお願いを付け加えさせていただきつつ、この運動を支持したいと思います。「憲法9条」を私たちがもっともっと生かしていくためにも、ノーベル平和賞受賞をみんなで目指していきましょう!

*****

 憲法9条にノーベル賞を 主婦が思いつき、委員会へ推薦
 2014年4月2日18時43分 朝日新聞 柳沼広幸
 http://digital.asahi.com/articles/ASG422SDQG42UTIL008.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASG422SDQG42UTIL008
 
 戦争の放棄を定めた憲法9条にノーベル平和賞を――。神奈川県座間市の主婦鷹巣直美さん(37)が思いつきで始めた取り組みに共感の輪が広がり、ノルウェー・ノーベル委員会への推薦に至った。集団的自衛権の行使や改憲が議論される中、「今こそ平和憲法の大切さを世界に広めたい」と願う。

 鷹巣さんは20代のころにオーストラリアのタスマニア大学に留学。そこで出会ったスーダンの男性難民から、小学生の時に両親を殺され、正確な年齢も知らずに育ったと聞き、平和や9条の大切さを実感した。
 今は小学2年と1歳半の子育てに追われる日々。「子どもはかわいい。戦争になったら世界中の子どもが泣く」。家は空けられないので集会やデモには参加できない。自宅でできることを考えた。

 2012年の平和賞は231件の推薦の中から欧州連合(EU)が受賞した。「欧州の平和と和解、民主主義と人権の向上に貢献した」とされた。鷹巣さんは「EUには問題もあるが、ノーベル平和賞は、理想に向かって頑張っている人たちを応援する意味もあるんだ。日本も9条の理想を実現できているとは言えないが、9条は受賞する価値がある」と考えた。

 昨年1月、インターネットで見つけたノーベル委員会に、英文で「日本国憲法、特に第9条に平和賞を授与して下さい」とメールを送信。その後も計7回送ったが、返事はなかった。
 友人にやり方を教えてもらい、5月に署名サイトを立ち上げると、5日で約1500人の署名が集まった。ノーベル委員会に送信すると、すぐに返事があり、ノミネートの条件がわかった。推薦締め切りは毎年2月1日。国会議員や大学教授、平和研究所所長、過去の受賞者らが推薦できる。受賞者は人物か団体のみ。憲法は受賞できない。
 考えた末、鷹巣さんは受賞者を「日本国民」にした。「9条を保持し、70年近く戦争をしなかった日本国民の受賞に意味がある。みんなが候補として平和を考えるきっかけになれば」

 この取り組みを相模原市の市民団体「9条の会」などに報告すると、協力者が次々現れ、8月には「憲法9条にノーベル平和賞を」実行委員会が発足。実行委は今年2月1日までに大学教授や平和研究所長ら43人の推薦人を集めた。推薦状に2万4887人の署名も添えてノーベル委員会に送った。
 推薦人の一人で、非戦を主張する民間のエラスムス平和研究所(神戸市)の岩村義雄所長は「子育て中の主婦を応援しないわけにはいかない。9条は子々孫々に残すべきだ」と話す。
 今年10月発表の際の受賞を目指しているが、何度でも挑戦するため、実行委は署名サイト(http://chn.ge/1bNX7Hb)を続けている。鷹巣さんは今、「一人ひとりの声が集まれば、世の中は変わる」と感じている。(柳沼広幸)

 ◇

 ■日本国憲法第9条
 ①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 ②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 ◇

 ■ノーベル平和賞の受賞者の例(敬称略)
 1974年 佐藤栄作=非核三原則に基づく外交
   88年 国連平和維持軍=世界各地の地域紛争の収拾、平和維持に貢献
   89年 ダライ・ラマ14世=非暴力によるチベット問題の解決を呼びかける
   91年 アウンサンスーチー=非暴力に基づくミャンマーの民主化、人権向上をめざす
   93年 ネルソン・マンデラ=南アフリカの人種隔離政策を平和的に撤廃
   99年 国境なき医師団=先駆的な人道援助活動
 2009年 バラク・オバマ=「核なき世界」を目指す理念と行動
   13年 化学兵器禁止機関=化学兵器の廃棄や拡散防止への貢献

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明日に向けて(945)パレスチナからの声に耳を傾けよう!ラジ・スラー二さん講演会へ(東京・京都)

2014年10月03日 23時30分00秒 | 明日に向けて(901)~(1000)

守田です。(20141003 23:30)

表題に掲げたようにパレスチナからラジ・スラーニさんが来日され、東京大学と京都大学で講演されます。ぜひご参加下さい。
僕自身は残念ながらちょうど岡山での連続講演などがかぶっていてかけつけることができないのですが、広く参加を呼びかけたいです。

これまで何度も報じてきましたが、この夏、イスラエルはまたしてもガザに何の正当性もない空襲を繰り返し、子どもたちを含むたくさんの命を奪いました。完全なる戦争犯罪でした。
この連続攻撃そのものはいったん止まっていますが、イスラエルがガザを違法・不当に軍事包囲している状況は何ら変わっていません。たくさんの人の命を奪った戦争犯罪人も1人も裁かれていません。
その意味でイスラエルによる不当な暴力支配は依然継続中です。人殺しが今も構造化されているのです。

イスラエルの本当にひどい攻撃が続いているとき、友人の岡真理さんが、毎日、連続的にパレスチナからの声を翻訳して流してくれました。
岡さんはその中で、問題はイスラエルが長年にわたって構造化している暴力支配にこそあり、連続攻撃が一度止まってもこの暴力構造が無くならなければ事態は変わらない。
イスラエルにガザの封鎖を止めさせ、一切の暴力を止めさせなければならないと繰り返し鮮明に訴えてくれました。

僕もこの夏は、イスラエルの殺人攻撃に屈せずに、その違法性・不当性を訴えながら、パレスチナの声を紹介し続けましたが、その中で大きな感銘を受けたのが、今回、来日されるラジ・スラーニさんの声でした。
以下、ラジ・スラーニさんへのインタビューを紹介した記事を示しておきます。なおこの時のインタビューアーの土井敏邦さんも東京、京都と共に講演に立たれます。東京では土井さんの映画も連続上映され、ラジ・スラー二さんが解説されます。記事の中で土井敏邦さんのことも紹介してあるのでご参考ください。
8月にラジ・スラーニさんが「なぜ停戦だけでは不十分なのか」という声を上げられた時の岡真理さんの翻訳を転載した記事も示しておきます。

明日に向けて(892)この状況に前例はない―パレスチナ、ラジ・スラーニ氏インタビューから考える!(上)-20140717
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/ad5ee4456b339b60070ad39c5d319d91

明日に向けて(893)この状況に前例はない―パレスチナ、ラジ・スラーニ氏インタビューから考える!(下)-20140718
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/219a7d7732c87b53b81e5e942848b147

明日に向けて(909)なぜ停戦だけでは不十分なのか(ラジ・スラー二さん。岡真理さん翻訳)-20140804
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/4cf7cea78528bf0e50e6d6d72bb4be95

私たちはイスラエルによる構造的暴力支配をこそ止めさせなければなりません。そのために軍事侵攻が止まったことでガザへの関心を低めてはならない。それではまた数年後に同じようなイスラエルの攻撃が行われるだけです。
いや同じような・・・というのは正しくない。繰り返されるたびに、より暴力的でより多くの殺人を伴った攻撃が行われてきているのです。
あんなひどい虐殺が二度と起こらないために、現存する暴力構造を解体する必要がある。そのために私たちはパレスチナの今、ガザの今をしっかり知る必要があります。この夏、イスラエルが行った殺人戦闘をしっかりと記憶に刻み、私たちの周りに伝え続けていく必要があります。
ラジ・スラーニさんの講演、また戦火のガザにも赴いた土井さんの講演に耳を傾けるのはそのための絶好の機会です。ぜひそれぞれの会場にお越しください。

以下、岡さんの呼びかけを転載します。
東京のスケジュールも記しておきます。
またこの夏に僕が書いたガザ関連の記事の一覧も付記しておきます。

*****

京都の岡真理です。
10月にはいり、すっかり秋めいてきました。
歩いていると、金木犀が香ってきます。

さて、待望のラジ・スラーニさん京大講演会(10月13日)のお知らせです。
(ラジ・スラーニさん詳細については末尾をご覧ください。)

パレスチナ人権センターの代表であり、世界的にも著名な人権弁護士、ラジ・スラーニさんは当初、7月に来日予定でした。しかし、エジプト側国境が開かず、来日は10月に延期となりました。
その後、ご存じのとおりガザは51日間の大規模軍事攻撃に見舞われました。
ラジさんは、先週、ブリュッセルで開催された、イスラエルのガザ攻撃を裁くラッセル法廷(国際民衆法廷)で証言するはずでしたが、期日までにガザを出域することができず、参加できませんでした。
*ラッセル法廷についてはこちらを↓
www.russelltribunalonpalestine.com

今回の来日もぎりぎりまで危ぶまれましたが、9月末、出域が叶い、カイロでヴィザが発給され、予定どおり来日できることとなりました。
今次攻撃とはいかなるものであったのか、そして、停戦後も続く封鎖の暴力について、空爆下のガザを取材されたジャーナリストの土井敏邦さんと、ガザに生きる人権弁護士、ラジ・スラーニさんに語っていただきます。
ガザの声をお聞きください。みなさまのお越しをお待ちしております。

以下、13日の京大講演会の詳細です。

■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
公開講演会
ラジ・スラーニ「ガザに生きるーー尊厳と平等を求めて」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー■■
■日時:2014年10月13日(月・祝日) 
    13:30開演 18:00終了予定

■会場:京都大学吉田南キャンパス 人間・環境学研究科棟地下講義室
    www.h.kyoto-u.ac.jp

*東大路に面した西門、西南門から入ってすぐの建物です。
キャンパスマップで建物の位置を必ずご確認の上、お越しください。

■入場無料、申し込み不要。使用言語:英語(逐次通訳あり)。

*定員200名です。満席の場合は、ご入場できませんのでご了承ください。

■問合せ:PJ21kyoto@gmail.com

■プログラム
12:45 開場
13:15 映画「ラジ・スラーニの道」(12分)上映
13:30 開演
―――――――――――――――――
第1部
13:35 基調講演1 土井敏邦氏「ガザ攻撃・2014夏」(80分)
―――――――――――――――――
14:55 休憩(10分)
―――――――――――――――――
第2部
15:05 基調講演2 
 ラジ・スラーニ氏「ガザに生きる--尊厳と平等を求めて」(100分)
―――――――――――――――――
16:45 休憩(10分)
―――――――――――――――――
16:55 質疑応答(60分)
17:55 終了予定

*プログラム内容の変更
当初、第1部で土井敏邦監督の映画「ガザに生きる」5部作のうち「封鎖」の上映を予定し、チラシにもそのように記載いたしました。
しかし、今次ガザ攻撃という事態を受け、土井さんとも相談の結果、空爆下のガザで取材された土井さんに、今夏の攻撃についてご講演いただくことになりました。

*全体で4時間半の長丁場になります。水分補給等、お忘れなく。

*京都以外のラジさんの講演会については、土井敏邦さんのHPをご覧ください。
http://doi-toshikuni.net/j/info/201410raji.html

■ラジ・スラーニさんプロフィール ----------------------------------------
Raji al-Sourani
パレスチナを代表する人権活動家、オピニオン・リーダー。1953年生まれ。パレスチナ人権センター設立代表。
イスラエル占領下における人権擁護活動はたびたび弾圧され、5年近く逮捕、勾留され、厳しい拷問を受けた。
長年の人権擁護活動は国際的にも高く評価され、ロバート・ケネディ人権賞(1991年)、フランス人権賞(1996年)など、数々の国際的賞を受賞。
昨年12月には、「第二のノーベル平和賞」とも呼ばれるライト・ライブリフッド賞を受賞。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

主催:京都大学大学院人間・環境学研究科 岡真理研究室
共催:京都大学大学院人間・環境学研究科 学際教育研究部
   ラジ・スラーニ氏来日実行委員会
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

*****

「ガザの人権を考える」
ラジ・スラーニ氏講演とガザ映画上映会
2014年10月11日(土)14:00 - 19:30
2014年10月12日(日)13:00 - 20:30
東京大学(本郷キャンパス) 経済学研究科棟 第1教室
【資料代】1日ごと 1000円
上映作品『ガザに生きる』5部作:土井敏邦

10月11日(土)14:00 - 19:30
14:00 【映画】『ガザに生きる』第四章 封鎖
民衆のハマス支持への“集団懲罰”だったイスラエル“封鎖”政策。住民の生活窮乏の実態と、将来への希望を奪われた青年たちの絶望。(84分)

15:40 土井敏邦・緊急報告と『ガザ攻撃 2014年夏』上映ドキュメンタリー映像『ガザ攻撃 2014年夏』(60分)を初公開。

17:00 ラジ・スラーニ氏 講演「2014年ガザ攻撃で何が起こったのか」

18:30-19:30 質疑応答司会・長澤榮治氏(東京大学教授)

10月12日(日)13:00 - 20:30
13:00 【映画】『ガザに生きる』第二章 二つのインティファーダ
占領への怒りが爆発した第1次インティファーダ。その結末の「オスロ合意」が“占領の合法化”と知った民衆の失望と怒りが再び爆発する。(84分)
14:30 ラジ・スラーニ氏の解説

15:15 【映画】『ガザに生きる』第三章 ガザ撤退とハマス
ガザ撤退したイスラエルの真の狙い。慈善組織と武装組織の2つの顔を持つハマスが、ガザで勢力拡大した背景とその影を描く。(67分)
16:30 ラジ・スラーニ氏の解説

17:15 【映画】『ガザに生きる』第五章 ガザ攻撃
数千人の死傷者を出したガザ攻撃は、ガザの産業基盤も破壊した。パレスチナ側、イスラエル側双方の証言を元にガザ攻撃の実態と背景、その狙いを暴く。(87分)
18:50 ラジ・スラーニ氏の解説

19:30 - 20:30 【対談】ラジ・スラーニ氏と臼杵陽氏臼杵陽(うすき あきら、日本女子大教授)

アクセス
◾東京大学(本郷キャンパス)
◾経済学研究科棟

主催・連絡先
【主催】土井敏邦 パレスチナ・記録の会
【共催】科学研究費基盤研究(A)アラブ革命と中東政治構造変容に関する基礎研究/NIHUイスラーム地域研究東京大学拠点パレスチナ研究班
【連絡先】doitoshikuni@mail.goo.ne.jp

*****

明日に向けて(888)ガザ・繰り返されるジェノサイドー私たちの応答責任(緊急集会in京都)-20140711
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/e4b8f881a68583b973e05130cf72a8ef

明日に向けて(892)この状況に前例はない―パレスチナ、ラジ・スラーニ氏インタビューから考える!(上)-20140717
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/ad5ee4456b339b60070ad39c5d319d91

明日に向けて(893)この状況に前例はない―パレスチナ、ラジ・スラーニ氏インタビューから考える!(下)-20140718
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/219a7d7732c87b53b81e5e942848b147

For Tomorrow(894)Israel, Stop indiscriminate killings!-20140718
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/044732b9f971afcd62e4d865f2fd059c

明日に向けて(895)良心的兵役拒否をつらぬくイスラエルの若者たちの思いをシェアしよう!-20140718
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/f593e5324ccff3d236f9e80dadf57ea2

明日に向けて(897)ガザ侵攻の背後にあるイスラエルの構造的暴力支配をこそやめさせなければ-20140724
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/0ab4839ba2c604268df668ca52213826

明日に向けて(898)戦争の責任は全面的にイスラエルにある。ハマースは真の休戦(封鎖解除)を求めている-20140725
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/f60427de5d98c8749891c8d6595a5056

明日に向けて(899)ガザの痛みを共にし真の平和を求めて行動しよう!(ネナ・ニュース7月20日より)-20140725
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/1dc6135f3430a1821effa9e7494ca468

明日に向けて(900)ガザの痛みを共にし真の平和を求めて行動しよう!(ネナ・ニュース7月21日より)-20140725
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/e5390042768c84bb363d3f803e07d58a

明日に向けて(902)ガザの痛みを共にし真の平和を求めて行動しよう!(ネナ・ニュース7月22日より)-20140726
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/7c3ab1486b1036cc7a227e1877660f0a

明日に向けて(903)ガザの痛みを共にし真の平和を求めて行動しよう!(ネナ・ニュース7月23日より)-20140726
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/b783ad883ee92a52354511fb742e076c

明日に向けて(904)ガザ紛争を正しく理解するために・・・一問一答-20140727
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/496b715be8370614dc833ec976a15f55

明日に向けて(909)なぜ停戦だけでは不十分なのか(ラジ・スラー二さん。岡真理さん翻訳)-20140804
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/4cf7cea78528bf0e50e6d6d72bb4be95

明日に向けて(910)アメリカのメディアがあなたに言わないこと(岡真理さん翻訳)-20140804
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/bd2e04075bfb3c7bbc7d21425bf0ddf2

明日に向けて(911)ハマースを理解する(岡真理さん翻訳)-20140804
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/0f698629188800b2e67488c28f4eb850

明日に向けて(917)紛争解決入門:ハマースと話せ(メデア・ベンヤミン 岡真理さん翻訳)-20140816
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/ca4334ebacdbb74e0d4a69d544c8828c

明日に向けて(927)ガザを想う―「停戦」という名の戦争の継続の中で-20140903
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/3afd82de5545c425528db8e6df611c2c

 

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明日に向けて(944)ポーランドでチェルノブイリとフクシマをめぐる国際会議に参加してきます!

2014年10月01日 23時30分00秒 | 明日に向けて(901)~(1000)

守田です。(20141001 23:30)

今年の初めに僕は次の言葉を掲げました。
Power to the People!
福島原発事故を経て、私たちの国の民は間違いなく新しい覚醒の時代を迎えている。この流れに掉さし、どこまでも強くしていくことにこの1年間、寄与していきたいと考えてのことです。

そのために必要なことの一つは国際連帯であり、とくにチェルノブイリの経験をわがものとすることだ、ヨーロッパやチェルノブイリの周りの国々の痛みをシェアし、その中から紡ぎ出されてきた知恵に学ぶことだと考え、積極的に自分自身が海外に出て行くことを志向しました。
こうして2月から3月にドイツ、ベラルーシ、トルコを訪れる旅を行い、8月にもトルコ、シノップ県のゲルゼ市を訪問しましたが、これらの活動の一つの締めくくりとして、今度は10月下旬にポーランドを訪れ、国際会議に参加することになりました。
この一連の過程を振り返るとともに、ポーランドでどのような会議に参加するのか、何を実現するのかを記しておきたいと思います。

僕がヨーロッパに赴くことを志向し始めたのは昨年の初夏のことです。最も強い刺激を受けたのは岩波書店から邦訳の出た『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』の出版でした。(2013年4月26日初版発行)
実は僕はこの本のことは、翻訳チームの中に友人がいたことがあって、早くからキャッチしており、記事で何度か論じても来ました。
チェルノブイリ原発事故があったのは1986年。被害の実相は国際的な原子力推進派によってさまざまな形で覆い隠されてきましたが30年近く経ってようやく全体像が見え始めました。何はともあれ、これに学ぶこと最重要だと僕は当時考えたのです。以下、記事をご紹介します。


明日に向けて(264)必読!チェルノブイリ被害実態レポート(前書きがアップされました)-20110918
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/b9d72063aa5a264631f0f6ea82dd1456

明日に向けて(538)チェルノブイリ―大惨事が人びとと環境におよぼした影響(上)-20120903
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/38e19aeb35ab80584e2c3bdc656db68f

明日に向けて(540)チェルノブイリ―大惨事が人びとと環境におよぼした影響(下)-20120909
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/73cc6881392949c1f5d960ace2504cba


同書が出版された時には、翻訳チームの方たちが印税を使って、著者の一人、アレクセイ・ヤブロコフ博士を日本に招き、連続講演会を行ってくださいました。
僕も5月22日に行われた京都講演会に駆けつけ、博士の講演の抄録を紹介しました。

明日に向けて(688)『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』に学ぶ!・・・1 -20130611
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/00e99196bba2537ef9e312918d42d64f

明日に向けて(689)『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』に学ぶ!・・・2 -20130613
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/54713fcf08ab8c0ab3e6fc0f26c1a5c1

明日に向けて(690)『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』に学ぶ!・・・3 -20130614
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/a8393e2ded37f7f2a672ab8a1be4a1da


チェルノブイリ事故の実態はまだまだ隠されているし公になっていない。また今後、日本の中でチェルノブイリの後に行われたのと同じ事故隠しや犠牲者切り捨てがなされようとするだろう。
だとするならばチェルノブイリのことに熟知していく必要があるし、何よりもそこに関わってきた人々と交わり、悲劇の中からつかんだ英知に学びたい。
そのために言語の達者な人々に、交流を任せてしまわずに自分が出て行かないとダメだ・・・。博士の講演を聞きながら僕が一番強く思ったのはこのことでした。

そこでさまざまな経緯を経た上でですが、今年の3月にドイツで行われた国際医師会議に日本の医師たちと共に参加することになり、この時にベラルーシも訪問することができました。
さらに僕にとって大きかったのは、この国際医師会議に続けて行われたヨーロッパ・アクション・ウィークに参加できたことです。
この企画はドイツのIBBという組織が担っているもので、チェルノブイリとフクシマの証人をヨーロッパ各国に派遣し、証言集会を行い、核のない未来を展望していくというものです。

ちなみにIBBとはドイツ語の略称です。Internationales Bildungs-und Begegnungswerkのイニシャルをとっているのですが、英語に直すならInternational Education and Exchange となります。
国際的な教育と経験交流の場・・・と訳すのが良いでしょうか。
ホームページ(英語ページ)を見てみると、冒頭に”Overcoming boundaries: Not only between countries, but also in the head.”とある。「境界の克服、国の間だけではなく、頭の中のそれもまた」という意味です。

IBBはこの観点で1986年からさまざまな活動を積み上げてきた。当時はまだ冷戦が完全には終わっていませんでした。その西と東の境界を越える。
さらにヨーロッパの中でも、周辺の中東やアジアとの間でもさまざまな対立があります。その境界も越える。そのためにはそれぞれの頭の中にある偏見を越える。そのために教育をし、交流してさまざまなものを交換していく。
IBBはこうした活動の中に、チェルノブイリ原発事故のことを非常に大きく位置づけました。ドイツ・ドルトムントに本拠を置いていますが、ベラルーシ・ミンスクにも拠点を作りました。

僕はこのIBBが積み上げてきた実績のもとにトルコに派遣してもらえました。そしてイスタンブール、シノップ、イズミルで講演を行い、本当にたくさんの方たちと交流できた。
僕が派遣されたのは、日本からトルコ・シノップへ原発が輸出されようとしているからでした。そのためにトルコの人たちにフクシマの経験を知ってもらう必要があるとIBBは考えました。
さらに目指されたのは、トルコ人と日本人の間の新しいつながりを生み出すことでした。そこに大きな期待をかけて僕が送り出されたことを後になって知りました。

トルコ訪問はいろいろな意味で大成功でした。僕自身はどんどん体調を悪化させ、強度の便秘と腹痛からイスタンブールで入院し、その後も美味しいトルコ料理もぜんぜん食べられないなどのアクシデントがありましたが、交流そのものはどこでも大盛況でした。
さまざまな要因が僕に味方してくれたのですが、その中でも大きかったのは、直前になって彗星のように現れてくれた通訳者のトルコ人女性、プナールさんの存在でした。
彼女と僕は講演内容をめぐって事前にかなり綿密なやりとりを繰り返しました。彼女は原発のことにはそれほど詳しくなかったのですが、大変な苦労をして、原子炉の構造や放射線学の初歩知識を含むプレゼン内容の翻訳を進めてくれました。

こうして実現した講演の中でもとくに盛り上がったのは原発予定地のシノップでのものでした。現地の方たちがたくさん参加してくださったのですが、そのうちの1人の方がシノップの中心地からは20キロほど離れていたゲルゼ市から来ていた。
その彼女が僕の講演を聞いてゲルゼに帰ってから市長に会い、ぜひモリタをゲルゼにも呼んで話してもらうべきだと説得してくださったのでした。その縁があって3月を引き継ぎ、この夏にゲルゼからお声がかかりました。
実はこの時、僕も再びどうにかしてシノップに行きたいと考えていたのでまさに渡りに船でした!それでどうせならほかの人も呼ぼうとドイツで知り合った核戦争防止国際医師会議ドイツ支部長のアンゲリカ・クラウセンさんとそのお連れ合いで3月にも僕のトルコ訪問に同行してくれたトルコ人医師のアルパー・オクテムさんなどにも声掛けしました。

さらに東京で精力的に原発問題で活動しており、とくに原発輸出問題で国会議員を説得していたFoE JAPANの方たちにも声掛けし、吉田明子さんが一緒に参加することになりました。
吉田さんは日本の「脱原発をめざす首長会議」からシノップの市長たちにあてたメッセージも持参してきてくださいました。
こうして8月上旬に一行がゲルゼで合流しました。3月にイズミルでご一緒したトルコ人核物理学者のハイレッチンさんも参加されました。こうしてゲルゼの町の海岸で行われたサマーフェスティバルのメイン企画に僕らの講演会を設定してもらい、福島原発事故の話や、日本民衆の放射線防護、脱原発に向けた奮闘などを紹介しました。

その後、現地の人びとを含めたみんなで再びシノップの原発予定地(今は美しいトルコの人たちのリゾート地、憩いの地です)に赴き、一緒になって「ここに絶対に原発と作らせてなるものか」という意志を共有してきました。
ゲルゼだけでなく、もう一つのエルフレックという都市も訪れ、市長さんと会談し、チェルノブイリ事故以降、黒海沿岸でがんの死者が増加し、今もなお多くの家族が苦しみ、怯えていることなども聞いて、市長と共に原発を許さない意志を確認してきました。トルコにも脱原発首長会議を作ろうとの動きまで始まりました。
これらの一連の過程が終わり、翌日にお別れする夜、トルコ人医師のアルパーが叫びました。「われわれは大成功した。われわれは最高のチームだ!」と。

実はここにIBBから派遣されてきた女性も参加していました。彼女はこの一連の過程をドイツに帰ってIBB本部に報告してくれました。10月のポーランドでの会議のためです。
この国際会議はすでに3月以前に企画が立ち上がっていたもので、今回のヨーロッパ・アクション・ウィークの成果を確認するとともに、2016年がチェルノブイリ事故から30年、フクシマ事故から5年になることを踏まえて大きな企画をうつための打ち合わせをすることを目的としたものです。
僕の参加は3月にドルトムントを訪れたときに「こういう会議をやるので日本人も参加するか?」と問われたときに「YES!」と即座に手を上げたら「OK、契約成立!」と握手されて決まったのでした!

その会議のスケジュールが送られてきたので見てみると、初日のオープニング・セッションで僕がプナールさんと一緒に、トルコでのヨーロッパ・アクション・ウィークの成果を報告することになっています。
さっそくプナールさんと打ち合わせを開始しているところです。「たくさんのことを積み上げることができたので、ちょっと自慢してしまいましょう」と僕。プナールさんも喜んでいます。ちなみに発表は英語になると思いますが、プナールさんとの打ち合わせは日本語。彼女が日本語が達者なのでとても助かっています。
この会議にはFoE JAPANの吉田さんも参加を予定していて、やはり初日のオープニングセッションで、「脱原発首長会議」について報告されます。

会議は10月23日から26日まで。22日に出国して向かいます。その後、27~29日にプライベートでポーランドを旅してこようと思いますが、やはりどうしてもアウシュビッツに行ってきたいなと思っています。
悲惨な過去と向き合わなくてはなりませんが、同時に必ずそうした場には、悲惨きわまる現実と立ち向かい、苦しい捉え返しを進め、未来への光を紡ぎ出そうとしてきた連綿たる営みがあります。だから悲惨なだけでなく感動もある。その双方に触れるために僕は行きたいのです。それでこそ私たちの英知が磨かれるからです。
同時にそれは僕がヨーロッパの人々、アジアの人々、パレスチナの人々、そしてまたイスラエルの人々と今後連携を深めていく上で、もっとも大事な通過点の一つだとも思います。その意味で今回、この会議のおかげでアウシュビッツを訪問できることにも感謝しています。

以上、こうした経緯と目的のもと、10月にポーランドに行って国際会議に参加してきます!チェルノブイリに学び、福島を伝える旅の続きです。

Power to the People!
ますます連携を深めてきます!

なお今回は会議のための渡航費と滞在費をIBBが負担してくださいます。その点で基礎的なファンドは確保されていますが、取材経費などやはり費用がかかります。
僭越ですが可能な方にカンパを訴えたいと思います。以下に振込先を記しておきますので、お気持ちだけでもお願いできればありがたいです。
8月に続いて今度も、けが、病気をしないように、現地の方にけして迷惑をかけないように、気を付けていってきます!

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振込先 郵貯ぎんこう なまえ モリタトシヤ 記号14490 番号22666151
他の金融機関からのお振り込みの場合は
店名 四四八(ヨンヨンハチ) 店番448 預金種目 普通預金
口座番号 2266615

 

 

 

 

 

 


 

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