久しぶりに、ご常連の北海道のINOBOOさんです。まぁ、だいぶ前から来ていたんだけどね。やる気が出なくて・・PEN-FTベースのメディカルです。シリアル№は#1446XXですけど、1971-6月製造でFTで言うと37万台付近に相当する後期型になりますね。
メディカル機は、そのまま通常の撮影には使用できないので、あまりいじられている個体は少ないのですが、この個体は分解を受けていますね。
基本的には露出計のないFV仕様ですがフレネルレンズはなく、ターゲットレンズが接着されたプリズムが使われています。その他、使用目的からセルフタイマーも不要ですね。
セルフタイマーユニットが省略されているため、マウントの12時にあるネジは不要ですが、ネジが無いと体裁が悪いのでダミーのネジを取り付けてあります。特殊ナットに注意。
底部はシンクロ配線はありませんね。カバー内側にはシールが貼られていますが意味不明。先日、大学生さんと思われる若いファンの方からメディカル機のO/Hのお問合せがありましたが、「そのままでは使えないのよ」とお話するとご存じなかったようでした。わたしも過去に何台が改造を施して世の中に出していますので、それらを見て誤解をされたかも知れませんね。
で、あまり丁寧な分解を受けていませんね。シボ革が切れまくっています。そもそも、メディカル機で分解されている個体は少ないのです。
分解を進めていくと・・スプロケット部分が変です。FT(V)はスプロケット内周のクラッチ部が摩耗して巻き上げ不良(滑り)が発生しやすい持病がありますが、この個体もその症状となって、対策としてクラッチが嵌るスリットを広く削ってしまい滑りを解消しようとしてあります。う~ん、頭いい。オリジナル思考の私には考えつきません。でも、スプロケットのガタが大きくなってしまいますよ。次は本体側のスプロケット軸受は本来ダイカスト面より飛び出しているのですが、それを削って面一にしてあります。(よって回転による塗装剥離)クラッチとスプロケットの位置関係を変えようとしたようですが、逆なような気がしますが・・まぁ、色々な考え方の人がいるものです。これは全て交換でオリジナルに戻す必要があります。
左が正規のスプロケット軸受けで全長4.5mm、右がこの個体に付いていた軸受けで全長4.2mmと0.3mm削られているわけです。
正規の軸受けを取り付けたところ。モルトを貼って、蝶番を取り付けます。後期型なので取付けネジは2本(前期型は3本)です。
クラッチバネも何やら怪しいものが付いていました。下が正規のバネです。一つ嘘をつくと、次々と帳尻を合わせなくてはならなくなる典型。
スプロケットは良品と交換しています。これで巻き上げ関係は完全にオリジナルに戻りました。この分で行くと画像数が増えすぎますので途中のUP省略するかも・・
シャッターユニットは最後期型でチャージギヤはナットによる組立式となっています。テンションシャフトの摺動部もかなり傷か入っていますので、かなり使い込まれています。メディカル機では珍しいことです。
でも、まぁいいかなぁと思った瞬間。こりぁダメです。シャッター幕の軸が緩んでいます。ここは裏から緩み止めのためカシメられているので、自然に緩むことはまず(たまにはあります)ありません。殆どの場合、スリ割りを緩めてしまったのです。
このままネジを締め込んだだけでは、すぐに緩んでしまいますのでカシメをしてから緩み止めを塗布しておきます。やれやれ、なるべくUP数を減らしたいのに、素性の悪い個体は次々と問題が発生します。カメラが悪いわけではないのですけどね・・
特殊なマスクと遮光マスクは通常仕様に比べて強力な接着をされていて剥離が困難。
リターンミラーユニットのロックネジが無い・・油断も隙もない個体です。
手前が調達したFT用プリズム。コーティングも完全なもの。
その他、フレネルレンズ、オサエバネ、マスクも別途用意します。
組立完了。
全反射ミラーの端がめっきが隔離していますね。この頃の製造だと、劣化はあまりないと思いますけど、途中で交換されたものかも知れません。とにかく信用できない個体ですから・・取りあえず再使用とします。
これでメカ部分は完成です。部品を集めてセルフタイマーのないFVを1台作ったようなもの。ここで、作業を中断するかもしれません。
戻って来ました。それでは外装を仕上げていきます。
ちょっと外出していて作業が進んでいませんね。トップカバーに傷があるためオーナーさんのご希望で正面右側の部分を左側に合わせてカットしています。過去に「ハーフムーン」のCANさんのご希望により同様な改造をしたことがありましたが、その時はハンマートーン塗装でしたので、多少の加工傷や面取りなども可能でしたが、今回はオリジナルの梨地クロームのままでカットするのでクローム被膜があって硬いですし、傷やカット面の返り(バリ)も許されません。お受けしてから「しまった」と思ったのは後の祭り。でも、なんとかやりました。カット面は真鍮地が露出するため、シボ革の隙間から見えることも想定して、ニッケルメッキを施してあるのは芸が細かいところ。
「ハーフムーン」さんのHPには、その個体が掲載されています。現在は掲示板など休止中となっていますが、復活して頂けるとうれしいなぁ・・
http://www.hicat.ne.jp/home/bianchi/bianchi/f-body.html
シボ革はご希望でバルナック用を使います。工程の関係から、まずは裏蓋から貼り替えて本体に取り付けます。
ついでなのでUPしておきますが、圧板の腐食を磨いて取り付けました。最後期型の個体がベースなので、取付けは2点留めになっています。
F系の場合は個体によって上下カバー間の寸法が微妙に変わりますので、個体に合わせてカットするしかないですね。特に今回のような改造の場合は採寸は慎重に行います。
改造で問題となる点は、本体とトップカバーの合わせは、シボ革を貼る先端部分で合うようになっているため、途中でカットをするとダイカスト本体との隙間が大きく開いてしまうのです。バルナック用のシボ革はオリジナルより薄いこともあって、ゲタを履かすような調整が必要になります。
左側も貼り終えて完成です。後ろのバルナックは同じシボ革で貼り換えてありますが、F系はバルナックのサイズを参考として設計されたとのことで、トップカバーのデザインも似ていてライカのような雰囲気も感じますね。
このような改造のアイディアは、セルフタイマーのないPEN-Fか、FT系のメディカルが好都合となりますが、今回はオリジナル性の低いジャンク機を有効活用する目的で改造をしたものです。なるべくオリジナルは尊重したいものです。
http://www.tomys800.sakura.ne.jp/