裏ではPEN-S 3.5のリペイント準備を進めていますけど、時計を先にやります。この時計は、シチズンが60年代に開発した視覚障害者用の腕時計です。2時のボタンを押すと、風防が開いて、直接指で針を触って時間を読み取るしくみです。ちよっと、やってみましたが、私の指の感覚では読み取るのは至難でしたね。シャインは1963年から発売されて、1967年から機械はシチズンの名機ホーマーベースとなっているようで、この個体もその仕様です。個体としては、デッドストックではないかと思われるコンディションですが、当時、盲学校に大量に寄贈されたようですから、使用されなかった個体が出て来ているのかも知れません。問題は、文字板のクリアー塗装が軟化しており、指で触ると指紋が残ってしまい、アルコールではすぐに溶けてしまうことです。オリジナルが変質したものか、後年に塗装をされたものかは不明ですが、現状では、本来の使用方法では使えないという気がしますね。
ちょっと誇張をした画像ですが、ボテッとしたクリアー塗料塗装ブツが大量にあって、とてもメーカー製とは思えませんが、事の真偽は分かりません。文字板が軟化している状況では、針を抜く時に文字板に接触することは出来ません。
まぁ、何とか分解をしましたよ。すべて超音波洗浄をしてあります。ホーマーベースのキャリバー#3000は、普及機クラスの機械ですが、鉄道時計に採用された実績があるほど優秀な機械です。機械の構造は、シチズンとしては非常にオーソドックスな設計で、安定感を感じます。
非常に組立て易い機械で、すでに組立ては終了。テンプの片振りが大きいので、ひげゼンマイを直接接触して調整をして行きます。こんなところでしょうかね。なるほど素性の良い機械だと思います。
指で触れる針はステンレス製で、変形しないような形状になっています。秒針は強度的に無理ですし、必要も無いのでありません。
たぶんこの個体はデッドストック未使用品と思われますので、伸縮性の金属ベルトもオリジナルのようです。視覚障害者の利便性を考慮したものでしょう。しかし、一般男性の標準より細い私の腕には緩いです。同様の視覚障害者用腕時計は、現在でもシチズンやセイコーからも発売されているようですね。現代では、音声で時刻を伝える形式のモデルもあるようですが、静粛な場所では、やはりこの形の方が良いのでしょう。
時計を続けます。先日も取り上げましたキングセイコー・クロノメータですね。しかし、ワンピースケースで、裏にメダリオンが付いている個体です。日差40秒の進みと風防ガラスの接着がきれいでないということでしたが、風防はそれほどひどい状態でもないですね。それより気になったのは、クロノメータは普通のキングセイコーと針の仕様が異なっていて、黒の長針と細い秒針なのですが、この個体の秒針は、ちょっと太めですね。短針のメッキは劣化気味なのに、秒針はピカピカです。たぶん、損傷により、代替品と交換されたのでしょう。
40秒の進みとお聞きしていましたが、ゼンマイ一杯で安定したところを計測すると、約+20秒ぐらいですね。片振りが出ています。
この時計は、プロの時計屋さんが仕上げたものだそうです。文字板は新品と交換されているようで、ということは、交換が必要なぐらい、水気が浸入した個体であったということです。同時に風防ガラスも交換されたとのことですが、接着剤のはみ出しや白く見える部分がありますね。
リングと風防ガラスを分離してみました。このガラスは、純正ではないですね。社外汎用の平面ガラスです。
白く見えた部分を観察してみると・・・これはガラスが欠けているんですね。新品を使ったのであれば、このようなことはないので、別の個体から接着を剥がして貼り直したのではないでしょうか? その時の剥離の仕方によってガラスが傷ついた可能性があります。
クロノメータに戻ります。社外の風防ガラスが入手できました。リングに接着をしますが、元々、文字板の1/3に水の浸入による劣化がありましたが、それに伴ってリングの内周面の磨き部分の腐食と前回、ガラスを貼り替えるときに乱暴に扱ったためにキズがあります。接着面も古い接着剤が残ったままで再接着されていましたので、表面からの体裁は非常によろしくない状態でした。よって、研磨剤を付けて研磨をしておきます。時計屋さんの作業だそうですけど、意外に雑ですね。
研磨をしたリングに新品の風防ガラスを接着してあります。ケースにも多くのキズや打痕がありましたので、軽く研磨をしてあります。
しかし、問題は機械のテンプにありました。過去にいじられて、天輪の変形とひげゼンマイの変形があります。(画像はひげゼンマイは修正後)結局、このテンプでは精度が出ないため、良品と交換することにしました。
キングセイコーのワンピースケースには、風防を圧入した後でも、歩度調整が出来るようになっています。ピンセットの延長ビスを入れておきます。
風防ガラスをベゼルで圧入して完成です。ちょうど、同じオーナーさんから、セイコーマーベルが届きました。「日本電信電話公社総裁1957」と彫刻がある記念品です。耐震装置も付いた、実用にはちょうど良い個体だと思いますね。ケースのサイズも、大型化する以前のボーイズサイズで、マーベルらしい好ましいものです。
文字板は人気の「S」付きですが、細かなそばかすが出ているのは惜しいところです。デッドストック新品はありますが、この程度は良い方ですので再使用としています。針は、人気は太めのサーベル型ですが、この個体のものは、細い大人しいタイプですね。文字板のインデックスも対応した細いデザインです。針のめっきがくすんでいますので、軽く磨いておきます。
じつは、オークションの画像ではステンレス側に見えたそうで、到着してみたら金めっき側だったと言うお話し。この当時は、殆どが金めっきケースでしたので、注意が必要です。金めっきケースは、使用によりめっきが剥離して、真鍮が腐食して行きますので、現存で程度の良いものは稀です。裏蓋の合わせ部分には、緑青が噴いていますので、削り落としてから、超音波洗浄をします。
研磨洗浄をした金めっきケース。ベルトを付けるラグ部分の痛みが激しいですね。左は、おなじサイズのステンレスケースの新品です。
先に完成していたキングセイコー・クロノメータとツーショット。マーベルの時代は、金時計に茶のベルトが定番でよく似合うと思います。金仕様のリューズは、ゼンマイの手巻きで酷使されていますから、ローレットが摩滅して巻きにくくなっていますね。