今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
(お問合せ)tomytmzk@titan.ocn.ne.jp
 

今年の締めは腕時計

2010年12月30日 02時38分05秒 | インポート

Dscf167354 オークションで2個 3.000円で入手した組立習熟用のジャンクをオーバーホールします。モデルはセイコーのユニークという機種で、マーベルとは異なり第二精工舎の製品のようです。15石ですから資料によると1955年頃の製造で、私とほぼ同じ歳ですね。ユニットの外径はマーベルよりも小さくて、この頃から、段々文字盤のサイズは大きくなって来たらしく、しかし、ユニットは旧タイプですから、ユニットを収めるケースの肉厚がご覧のように厚くてゲタを履かせたようになっています。ニッケルメッキは剥離が激しく、いっその事、全て剥離をして、メッキ工房で24kメッキでもしてやろうかしら? 何度か分解を受けており、文字盤の文字も消え掛かっているし、風防ガラスもクラックが入っているので難物ですけどね。まずは、不動のユニットが動くかが先決です。

Dscf167567 地板など基本的には銅色の表面処理ですね。洗浄した地板に真鍮地の香箱(ゼンマイ入り)を収めます。時計の構造は決まっていて、この後に二番車(分針)、三番車、四番車(秒針)と動力が伝わって、四番車に付くガンギ車やアンクル、テンプによって、一定のスピードで回転しているだけなのです。

Dscf167654 ニ、三、四番車とガンギ車が入っている部分。赤い丸の部分はルビー石で、ここに歯車軸の先端が収まっています。これらを輪列といいます。このルビー石の小さな穴の中に3軸を正確に収めることが一苦労です。

Dscf167998 最後にテンプを取付けますが、極力、フリクションを少なく組んだお陰で、このユニットは、殆どゼンマイを巻いていないのに天輪が回り始めています。これは調子が良さそうです。各軸受け部には、それぞれ種類の異なる時計オイルを注油しています。テンプ部分の軸受けだけ、ちょっと形が異なりますね。これは耐震装置の付いた軸受けで、耐震装置がないそれ以前のユニットでは、落下などによって、天真の軸が折れたそうです。セイコーでは、この装置をダイヤショックと称しています。

Dscf168387 左がユニークの後に発売されたマーベルで、ユニットが一回り大きいですね。このユニットで世界に追いついたと言われたそうです。較べるとユニークのユニットは小さいですね。このユニットに適合する小さいケースを探してみましょうかね? そうこうしている間に、いよいよ押し詰まって来ましたね。今年も「今なに」にお付き合いを頂きましてありがとうございました。では、皆さん良いお年をお迎えください。


たぶん、これが最後のFVです

2010年12月28日 12時57分28秒 | インポート

Dscf163868_2 修理の個体は今年は終わりかなと思っておりましたら、PEN-FV #1308XXが到着してきました。お調べすると9月にお問合せを頂いたい個体です。なんでも炭酸飲料をこぼして動かなくなったようです。(それならもっと早く・・)裏蓋を開けようと巻き戻しノブを引いても貼り付いておりラッチが作動しません。これは重症だぞぅ・・・

Dscf164068 やっとトップカバーを分離しました。ご覧のようにリターンミラーは止まった状態でシャッター幕も開いたままです。この状態では検証は出来ませんので、全て分解をすることにします。

Dscf164187 こんな状態です。巻き戻しノブの付近から炭酸飲料が浸入してシャッター幕の隙間に入り込んだのでしょう。炭酸飲料は砂糖水ですから乾けば飴でシャッター幕を貼ったようなものです。本体側にも水飴状に残っています。シャッターユニットは幕が張り付いた状態。全面にピッタリと固着していますので無理な剥離はチタン幕を損傷します。アルコールを流し込んで剥離をしましまたが、全て洗浄しなければ、また貼り付いてしまいます。砂糖水ですから助かりましたが、塩水でしたら、これだけ時間が経過していればアウトでしたよ。改良後の部品で組まれた稀少なFVを殺すところでした。

Dscf166281 シャッターユニットとシャッター幕は超音波洗浄をして各部のメンテナンス・注油で復活させています。やれやれ、これで何とかなるかなぁと思ったのですが・・・

Dscf166616 ところがギッチョンそうは問屋が卸してはくれなかったですね。リターンミラーを駆動しているユニットですが、画像の状態で(厳密にはネジ孔分だけ強制的に移動)固着していました。そうだよなぁ、水分は下に溜まるんだよね。張り付きはこの部分が一番強固で、すでに腐食も始まっていました。このユニットは作動に重要な部分で、少しでも不調ですとミラーは正常に作動してくれないのです。また、このユニットはカシメによって組立られており、基本的に分解をして洗浄することが出来ません。超音波洗浄をしても、シャフトの内部に入り込んだ砂糖分を完全に抜くことは出来ません。その部分に腐食があれば、正常な作動は出来ないのです。本来は交換ですが、オーナーさんは予算を気にされていますのでこのユニットを使うしかありません。とにかく、事故が起きたのは仕方ありませんが、直後に送って頂けたらそれ以上の状況の悪化を招かずに済んだケースと思いますね。

Dscf16701518 何とか作動状態に復元して組み込んでありますが、絞りレバーの復帰がちょっと遅い。底蓋には炭酸飲料が溜まった跡があります。やはり、巻き戻しダイヤルから浸入したことが分かります。きれいに洗浄してから取付けます。

Dscf167264 革のハードケースに入っていることもあり、非常にきれいな個体ですね。各ユニットは全て改良型で組まれています。1969年8月 諏訪工場製です。和暦で言うと昭和44年ですから、隣りのセイコーマーベルの昭和33年製よりはかなり新しい工業製品です。奇しくも両方とも長野県は諏訪湖の近くで生まれた製品です。それを何十年後に同じ人間が治しているのも妙な縁ですね。今度は事故の無いようにお願いしますね。


今年最後? のPEN-F

2010年12月25日 12時57分26秒 | インポート

Dscf163561 時計の組立で気分転換してきまして、さて、今年最後のPEN-Fになるのかなぁ? この個体#2336XXはご常連さんが探して来られた個体で流石にベテランの選択眼。外観のきれいさ、巻上げの軽さ、製造時期もしっかり押えての入手ですね。もちろん分解歴はありますが、付属の25mmと100mmですが、25mmでは快調ですが、100mmでフリーズします。レンズによってシボリレバーの要求トルクは異なり100mmはちょっと重いのですね。とすると、先ほどの巻上げの軽さはテンションが低く組まれている可能性もありますね。もちろんフリクションを取ることが先決ですが、きれいに組まれていますので・・気になった点は、シャッターダイヤルの回転が固くギグシャク、リターンミラーの遮光マスクの組み方が違うのでプリズムが分離されていることが分かります。また、マウントの12時周辺に磨耗で真鍮母材が出ています。これはマウントが歪んでいる可能性がありますね。では、最初からやり直しましょう。

Dscf163755 まじめで綺麗なオーバーホールを受けていますね。プリズムなどにはコーティングの劣化や拭きキズもありませんね。作業された方のセンスが偲ばれる眺めです。下は、娘から貰ったクリスマス(誕生日)プレゼント。モロゾフのチョコレートなんですけどね。このブリキの空きケースがピンセットやドライバーを入れる工具箱にちょうど良くて以前から使っているのを知っているのです。チョコレートは疲労回復には良いようですが、頭痛の時はいけないようです。

Dscf164976 腕時計と交互に組立てていました。この個体は全体にシャッタースピードが遅めで、1/500が1/250程度という具合。シャッターを分解してみると確かにテンションは低く調整されていましたが、これは工場での調整のままでしたのでバネの劣化もあるのでしょう。全体のメンテナンスによりフリクションを軽減させて、テンションの再調整をしました。但し、新品の当時でも1/500は出ていないので、あまり無理な調整は避けて、100mm装着でフリーズしないことを念頭に調整をしてあります。ブレーキのOリングは消耗して全く機能していません。故意かは不明ですが、油が付着したような形跡がありますので新品に交換してあります。全反射ミラーは交換ご希望でしたが、状態が良いため再使用として完成とします。Fのユニットは、テンションの高低の差だけでなく、巻上げの重さは個体差が大きくて、その意味からは非常に好ましいフィーリングの個体でした。


どこまで続くぬかるみぞ(PEN-F)

2010年12月21日 19時44分17秒 | インポート

Dscf160164 ちよっと腕時計の分解で時間を使っておりました。で、カメラに戻ります。次もPEN-F #2454XXですね。FTたちはどこへ行ったのかなぁ? Fは精神的に疲れるのよね。この個体は、ご友人のお家にあったものを譲り受けられた由。メカ的には各部の改良が終っている頃の個体ですけど、巻上げをしても全くレリーズボタンが降りない。底蓋を開けて見ると、巻上げ不完全の時にシリーズボタンが降りることを防止する止めレバーが降りたままとなっていますね。これはシャッターの作動に問題がありそうです。

Dscf1603661

分解してみると、シャッター幕が正規の位置に戻っていない。これはブレーキに問題がありますね。

Dscf160755 ブレーキを分離してみると・・完全に固着して一体物になっています。ここまでのものは珍しいですね。長期の放置が原因だと思われます。

Dscf160889 Oリングを分離してみると、激しく腐食して固着していました。フランジ内を丁寧に研磨しておきましたのでピカピカです。その他、シャッターユニットの洗浄も終っています。特に不具合は無いと思いますが、過去にシャッターユニットまで分解を受けていました。何が不具合だったのでしょうね? まぁ、何事も無く組み上がってくれることを願います。最近疲れ気味なので・・

Dscf161961 はじめの不動状態からは想像出来ず、意外にメカに問題はなく作業が進んでしまって画像がありません。中期以降の製品でシャッターユニットのレリーズレバーが改良型(3回設計変更されています)が付いているのも作動の安定に寄与しています。また、光学系も状態は良く、プリズムや全反射ミラーの腐食もありません。よって、ミラーは再使用としています。

Dscf162034 付属で来たズームレンズは現実的ではない状態なので当方在庫のF用38mmをお付けすることにします。現役の個体として流通していた個体と違って、長期死蔵のカメラですから、返って消耗が少ないなどの利点もあるのです。底蓋はキズがありますが、他は非常に良いFとなっています。現役復帰出来たことがうれしいですね。オーナーさんはカメラファンというわけではなくて、たまたま譲り受けたので使ってみたいというのが修理のきっかけです。京都にお住まいで、普段は東寺の弘法市でソフビの怪獣人形を探して欠損した部分のレストアをされており、ホームページもお持ちです。そう言えば、うちの大阪のご常連さんも弘法市通いをされていますので、どこかすれ違っていらっしゃるかも知れません。ホームページを訪問して差し上げてください。怪獣れすとあ工房

http://www.geocities.jp/kaiju_restore_koubou/


PEN-Fに戻りますよ

2010年12月16日 23時33分01秒 | インポート

Dscf156325 それではPEN-Fに戻りますね。この個体はオークションで入手されたとのこと。#1195XXと1964-7月の製造。東京オリンピックで日本が沸いていた頃ですね。そう思うと随分と昔ですから程度が悪くて当然という気もしてきます。この子もとにかくばっちぃ個体で、何度か剥がされたシボ革はヨレヨレで手垢まみれ。作動はミラーが止まる状態ですが、分解されているのでフリクションの増大か組立て方に問題があるのかは分かりません。なんか、まったくトルクの無い今にも死にそうな感じですよ。

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では、淡々と作業を進めて行きましょう。全て分解してダイカスト本体は洗浄してあります。やっときれいなシボ革が現れましたよ。まずは、巻上げ側のストラップアイのビスが緩んでガタガタしていますので、接着剤と併用で取付けておきます。

Dscf156831 ダイカスト本体にスプロケット軸とスプール軸を取付けて巻上げレバーもセットしてあります。最近のFは分解する度にビクビクするのてですが、調子が最悪であった割にはシャッターユニットに問題はありませんでした。中々きれいなユニットです。ブレーキのOリングも交換してあります。では、本体に組み込んで行きますよ。Fの初期型はシャッターユニットを本体にセットするのには知恵の輪のようなことをする必要がありましたが、この頃になるとダイカストの底部のリブ部分を大きめにカットしてあって、組み込みは容易になっています。工場の組立からクレームがあったのでしょう。しかし、巻上げレバーのクラッチもすでに改良されて、やっと落ち着いてきた頃の生産機ですね。

Dscf157068 外観の汚れと当初の不調からどうなるかと思いましたが、これが意外にメカと光学系も悪くは無いのです。すいすいと組立は進みます。モルトかすとテープ糊の汚れでひどい状態だったビューファインダー本体を取り付けます。ここのモルトを省略する修理屋さんが多いようです。FTとはモルトの位置が変わりますが、オリジナルに忠実に再現をしておきます。下に見える#2プリズムも奇跡的に腐食がありません。但し、リターンミラーは貼り替えかも知れませんね。リターンミラー基部の遮光モルトの配置が間違っていました。

Dscf157177 フレネルレンズも比較的きれいです。サイドカバーはレンズ位置を間違えて装着した跡がありますが、前回の修理時にシボ革を貼る接着剤が付着しています。気になるのできれいに清掃してから取付けます。

Dscf157464 きれいになったでしょ。さて、例のシボ革ですが、元々、生地の硬化もあるんですけど、前回の剥離が適切ではなかったのです。左側は切れたものを貼ってありました。右側は細かく砕けて無くなってしまいました。

Dscf157515 ちょっと画像がピンボケ。仕方が無いので、純正のシボ革から欠損部分を切り出して合わせています。格子柄ですから接合する部分の柄を合わせる必要があります。こんなものかなぁ?

Dscf157845 どうでしょうか? 言われなければ分からないでしょ。返って左側の方がヨレていますよね。

Dscf158597 で、こうなりました。全反射ミラーはご希望で交換してあります。トルクは少し弱めなんですが、巻上げも軽快で何より作動が安定しています。これなら、労わって使って頂ければずっと生きていけると思いますよ。オークションものだって良いものもあるんですね。あとは、セットされていた38mmを清掃して完成です。