昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (七十一) 女将の力が大です

2013-11-17 12:19:32 | 小説
(二)

「そうですか、女将一人での切り盛りですか。
まあこういった客商売では、女将の力が大です。

男なんて、髪結いの亭主同様に、刺身のつまみたいなものですよ。
表に出しゃばってくるのは、だめです。

あくまで裏方に徹しなければ。縁の下の力持ちの役割に甘んじなきゃ。
あ、こりゃ失礼。故人におなりだったんだ。失礼、失礼。

一般論として話したつもりなんです。他意はありませんから」

女将が後家だと知った武蔵、饒舌さに拍車がかかる。

「ところで女将。この旅館の売りはなんですか? こいつは大事なんです、案外に。
閑静だとか、庭が美しいとかです。老舗旅館だからというのは、売りにはならない。

そう! 料理が美味いとか、珍品が食べられるとかなんかも良いですな。
湯は、当然に温泉でしょうな」

疑問符をつけた武蔵の言い草に、毅然としてぬいが答えた。

「もちろんでございますとも、立派な露天風呂がございます。
幸い今夜は、社長さまの貸切状態でございますよ」


胸を張って鼻を膨らませて、意気込むぬいだ。

「あらまあ、あたくしとしたことが。
幸いだなんて、とんでもない言葉を使ってしまいました。
あたくし共にとっては…」

一人はしゃぎ回るぬいには、武蔵も呆気にとられてしまう。

終始笑みを絶やさぬぬいに、武蔵も脱帽だ。
したたかな商売人なのか、はたまた楽天家なのか、武蔵にも判然としない。

“仕事の話じゃなく、艶っぽい話をするつもりが。
俺が熱くなってどうするんだ。どうにも、この女将を応援したくなってくるから不思議だ”


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