“こんなに軽いのか”
彼は、驚きの気持ちを抑えきれなかった。気のせいか、身長も縮んだような気がした。
「寒いのお」と言う茂作に、たっぷりと綿の入った褞袍(どてら)を着せた。
「重くないですか? この褞袍は。」
「うんうん、重いのお。しかし暖かいぞお、これは」
ゆっくりと、茂作の足取りに合わせて、彼は歩いた。
すり足状態の、茂作だった。彼の知る茂作は、かくしゃくとしていた。
”わずか一年でこれ程に衰弱するのか”と、彼には信じられなかった。
そして、そんな茂作の世話に明け暮れる小夜子の毎日を考えると、気が重くなった。
といって、彼には何もできない。
大学を中退することはできないし、小夜子にそう告げても反対するに違いないのだ。
椅子に茂作を座らせると、
「ご苦労さま、タケくん。お爺さん、良かったですね」と、にこやかに応えた。
「さあ、今夜は大好きな鯛々ご飯ですよ」
と、ほぐした魚の身が入ったご飯が置かれた。
嬉しそうに頷く茂作だった。
彼には、とんかつが用意されていた。
傍らに、キャベツが大盛りになっていた。
「さあ、いただきましよう。タケくん、キャベツは全部食べるのよ。向こうでは、野菜を摂っていないでしょ」
母親の前には、茂作に用意した魚の残りがあるだけだった。
そして、たくあんと菜っぱの漬け物が、ドンとテーブルの中央に置かれていた。
そんな粗食に対して、
「お母さんは、今流行りのダイエット中なのよ」
と、彼の訝しげな表情に対して答えた。
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