(一)
「上得意さまなのね、小夜子さんは」
眩しげに見上げる勝子に、勝ち誇ったように応える小夜子だ。
「まあね。色々と、お買い物をしてるから。婚礼の品も、ここで一式揃えたし。
それに、これからも色々とね」
「あゝ、羨ましいわ。あたしも、そんな生活をしてみたいわ。
あたしも、社長さんみたいな素敵な殿方に見初められたいわ」
「大丈夫よ、大丈夫。ここで勝子さん、変身するの。
最新モードで武装して、世の殿方を悩殺してしまうのよ。
勝子さんは美人なんだから、選り取り見取りよ」
「ほんとお? なんだか、小夜子さんにそう言われるとそんな気になってくるわ。
でも、あたしに似合うかしら? そんな最新モード」
“馬子にも衣装って言葉、知らないの? それなりに、女性は変身できるものよ”
別段、侮蔑の気持ちがあるわけではない。勝子が好きな小夜子だ。
しかしそれでも、己より一段下に見てしまう小夜子だ。
“あなたたちより数倍も努力してきたのよ、私は。
のほほんと生きてきたあなた達が、この私に勝てるわけがないでしょ!”
この性癖が、小夜子の小夜子たる所以になっている。
母の愛に薄かった小夜子だ。
その哀れさでもって、周囲から腫れ物に触るが如くに接しられた。
真綿でくるまわれた生暖かい愛情を注がれた。
甘やかしという言葉では、到底言い表せられない。
愛されることに慣れてしまい、愛することを知らずに育ってしまった。
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