昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

スピンオフ作品 ~ 名水館女将、光子! ~ (二十八)(明水館女将! 光子:四)

2024-10-25 08:00:54 | 物語り

(若女将としてはそれを語ることは出来ないようです。
まあ、客商売の基本です。簡単にいいますと、不倫なわけです)。

 付け足させてくださいな。佳枝さんはそのことを恥じておられるようではありません。
そのことをご自分の口からお話しされましたが、そのおりには真っ直ぐにわたくしの目を見据えながらでございました。
正直を申しますと、痛い視線でございました。
そう、わたくしに対する挑戦するといった風でございました。

といって敵視するといったことでなく、かと申しまして追従する、いえそうではございませんね。
先輩として後を追うがいつかは超えてみせる、そういった観が感じられました。
瑞祥苑の女将さんがわたくしをたいそう褒めていただけますので、それに対する嫉妬心がない交ぜになっておられるのかもしれません。
なんにしても和やかな中にほんのすこしの緊張感がただよう時間でございました。

 そしてまたもうひとつご報告せねばならぬことがございます。
ほかならぬ里江さんのことでございます。
三水閣においてどれほどに助けていただいたことか、わたくしがこうして明水館に戻れましたのも、里江さんの支えがあればこそでございます。
ですので、なんとしても恩返しの一部でもできぬものかと考えておりました。
それが、里江さんも三水閣をでられたとのこと、喜ばしい限りです。
ですが、瑞祥苑でお世話になっておりますおりではなにもできませんでした。
ですが、今こうして明水館に戻りまして、いぜん同様に、いえ以前にも増して切り盛りをまかせていただけることになったのを機に、明水館で働いてもらったらどうだろうか、と考えました。

分かっておりますです、三水閣での生活は。
その長い年月が里江さんをどれほどに苦しめ、そして諦めさせたものが多いかは。
いくら若女将といえども、あのままの里江さんならば到底のことに受け入れることはできません。
元々は、ご夫婦そろっての行商人を為されていたとのこと。
個々の家庭に入り込んでのご商売には長けていらっしゃいます。
そこに目をつけたのでございます。

わたくしには、女性やらお子さまの小さなこころの機微をつかむことには慣れておりません。
口はばったい言い方ではございますが、殿方については多少なりとも勉強させていただきました。
ですので、わたしの足りぬところを里江さんに補ってもらえれば、そう考えたのでございます。
で、里江さんにもわたくし同様に、三水閣での垢をしっかりと落としていただいてから迎えることにしたのでございます。
すこし時間はかかりましたですが、わたくしより遅れること一年足らずにて来ていただきました。
年を召されてからの仲居ということで反対の声もあがりましたが、そこは若女将の意向として押し切らせていただきました。

 



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