いまが青春まっ盛りのこのむすめを羨ましく思った。
しかしまた、無軌道すぎるむすめが哀れでもあった。
目的のつかめないままに、まいにちを無為にすごす若者たちが哀れにおもえた。
男が部屋のロックを確認してふりかえると、むすめは窓ぎわに立って外をみている。
〝やはり後悔しているのかな〟と思いつつ、冷蔵庫からビールとりだしテーブルに置いた。
「おいしい?」と、上目づかいに尋ねるむすめに、「苦いよ」とみじかく答え、タバコに火をつけた。
むすめは空になったコップにビールを注ぐと、”こんやは1本だけにしてネ”と目で告げた。
そして娘は、にが笑いの男のうしろろにまわると肩をつついた。
「今夜はおとなしく寝なさい。
明日になって後悔しても、取り返しがつかないんだ。そうしなさい」
と、肩の手をやさしくにぎりかえしながら男は言った。
しばらく無言をつづけたあと、むすめは男の肩から手をはずした。
男は、欲情と理性をたたかわせながら、さいごのいっぱいを飲みほした。
そしてタバコをくゆらせながら、窓の外のネオンに目を向けた。
もう若くもないあいつが、この俺の不始末のためにどれだけ苦労したことか。
ときにイガミ合いながらも、おれなんかの傷をいやしつづけてくれた。
それなのにおれは、あいつに優しいことばひとつかけてやることができなかった〟
〝おれがアルバイトから戻ると、あいつが店へと出ていく。
わかっているくせに、「どこに行くんだ!」とおれがなじる。
あいつは「さきにねてて」と言う。
「戻らないつもりだろう!」と、なじる。
「だいじょうぶ。かぎはもってるわ」とこたえる。〟
ドアノブに手をかけるあいつを、うしろから羽交い締めにする。
そして首をこれ以上は回らないというまでひねり、真っ赤にぬられた唇をうばう。
「もういい?」
その声をのこして、ローズの香をのこして、ドアが閉じられる。
とりとめもなく浮かぶ想い出に、男はひたった。
と、急に灯りが暗くなり月明かりのなかに、むすめの一糸まとわぬ裸身が妖しく浮かびあがった。
「おじさん、好きにして!」。ふるえ気味の声だった。
しかし有無を言わさぬ強いちからが宿っていた。
男にはどうしても手に入れることのできない、キラキラとかがやく若さが、たしかにそこにあった。
男は、だまって背広をぬいだ。
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