「大体がですね。かけた相手については、なにも知らないことが多いんですよ。
適当な番号に電話をかけて、相手が老人だったり女性だったりしたときに、脅しをかけるんです。
良いですか、みなさん。けっして、お名前をなのらないように。
住所もだめですよ。そうそう。はじめはね、若い女性の場合もあるんです。
荷物をとどけたいので、住所を教えて下さい、とかね。
おかしいと思うでしょ?
住所がわからないのに、名前すらわからないのに、なんで電話番号がわかるんです?
おかしなところはね、冷静に考えるとたっくさんあるわけです。
でもね、そこは、相手はプロですから。
つけ込んできますからねえ、いろいろと。
ねえ、前列からうしろに3列めのおじいちゃん。
そう、あなたですよ。
若い女性との会話が楽しいからとスケベごころを出したら、相手の思うつぼですよ。
ほらほら、となりのおばあちゃん。あなたも他人ごとじゃないですよ。
あたしみたいないい男に、といっても顔はわかんないか、電話だもの。
でもね、若い男のこえだったら、ねえ」
ときおり笑いを取りながらはなす警察官で、会場は和気あいあいとした雰囲気だった。
そんななか、会場がこおりついたのは、実演の舞台がはじまってからだった。
演者のじつに巧みなトークで、錯覚におちいりそうになった。
いっぽひいた立場での観客である我々だからこそ、冷静に聞いていられるものだった。
もしもひとりでいる部屋にかかった電話にたいして、警官がいうような対応ができるかどうか…。
みなが黙りこくってしまった。
「ひとりだと、判断がつきませんね。これが大事なことですよ。
孫だとか甥・姪だとか、ひさしぶりの電話だとね、だまされやすいんです。
もしもね、こう言われたらですね。
『携帯電話の番号が変わったよ』なんて言われたら、以前の番号にかけてみてください。
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