昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~RE:地獄変~ (二十一)ここで、坂田善三の備忘録を

2024-12-25 08:00:00 | 物語り

 ここで、坂田善三の備忘録を披露させてもらいます。
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 大正十年生まれで、呉服屋の長男。
東京帝国大学に三年生として在学中。
「民は我々の指導下にあるべきで、君なぞを級友だと称することはできんよ」と、級友からは蔑視される。

「人類皆平等!」を叫ぶグループに共鳴。
当初は物品調達係という役目を与えられたが、要は金ヅルに過ぎず。
以降、幹部連たちの連絡係となる。
現状において、アジ演説の作成に関わっている疑いあり。

 他人を見下すくせあり。
それが友を作れない大きな要因。女性蔑視が激しい。
『女は馬鹿な生き物だ。子を産むことしかできない。
子の才能を育て上げる能力を持たない人種なんだ。男に尽くすということが、女の本分だ』。
そう公言してはばからない。 
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 とんでもない事態に陥られたことはすぐに理解できました。
しかしその事態が小夜子さんの軽率な行動から生まれたとは、誰も思いませんし口にもしません。
ただいつもの一子さん経由ではない、三郎さんの友人からの言付けだったということ。
どうして一子さんに確認を取らなかったのかと、それが残念でなりません。
しかし恋する乙女心と考えれば、いちぶの疑いももたなかったこと、よくわかるのです。
けれども、小夜子さん。
なんの陰りの表情も見せず、何ほどのこともないといった表情でお話をつづけられました。

 みなさま、東京大空襲の夜をおぼえておいででしょうか。
と言いましても、なんですか百回を超える空襲があったそうでございますが。
中でもひどかったのが、昭和二十年三月二十日の下町空襲でございますよ。
空から降りそそぐ火の玉爆弾での業火のなかを逃げまどう人人人。
それこその阿鼻叫喚、まさに地獄絵図でしたわ。

 あの夜のことでした、両親を失いましたのは。
黒焦げになった両親らしき遺体を見ましたとき、不思議と恐怖感というものはなくてただただ呆然としていた――ご近所の方々によると、その場に立ちすくんでいたということでした。
まったく記憶がありません。
ですので、火の玉が空から降ってきたというのも、正直のところは定かではないのです。

 うっすらと思いだすのは、「小夜子、さよこ」と呼んでくれる人はいないか、探していた気がします。
店があったであろう黒焦げに燃えてしまった残がいののこる場で、立ちすくんでいた気がします。
両親が「良かった、よかった。ぶじだったんだね」と、声をかけてくれるのを待っていた気がします。

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*令和6年も、残りわずかとなりました。
 ことし1年、ありがとうございました。
 新作・旧作のリニューアル等、わたしの持てうる限りの引き出しから、
 傾向のちがう作品群をお送りしてきました。
 そのうちにはタネが切れてしまうかもしませんが、
 どうぞそれまではよろしくお願いします。

 それでは、どうぞ佳いお年をお迎えください。



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