昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(十九)の三と四

2011-10-14 21:53:08 | 小説


正三はと言えば、小夜子からの手紙を心待ちにしていた。
毎晩の如くに小夜子の夢を見ては、朝に溜め息を吐く日々を送っていた。
“もう僕のことは、忘れたのか?・・”
悶々とした日々を送る正三だが、小夜子の住所を知らぬ為手紙を出すことも出来ない。
出す当てのない手紙が、机の中に溜まっている。
茂作翁に聞けばいいのだが、何故か気後れしてしまう。
一度尋ねてみたが、
「お前がそそのかしたのか!」と、一喝されてしまった。
まさか正三の両親が、小夜子からの手紙を隠し持っているとは露知らぬ正三だった。
友人達に話しても、
「そりゃ、東京に好い男ができたのさ!」
「振られたな、諦めな!」と、にべもない。
“もうすぐ、上京できるんだ!”
そう思うことにより己を慰めてはみるものの、連絡を取る術がない。



愈々上京!という前日になっても、小夜子との連絡が取れなかった。
既に小夜子が上京してから、二ヶ月近くが経ってしまった。
兄の落ち込みように接する幸恵は、意を決して告げた。
「正三兄さん、今まで黙っててごめんなさい。
実はね、小夜子さんからお手紙が何通か届いているの。
お父さんとお母さんがね、隠し持ってるの。
いえ、破り捨ててしまわれてるのよ。
でもね、住所、私覚えてるわ。」
「そうか!小夜子さん、手紙をくれてたのか。
・・・だけど、返事を出していないんじゃ、怒ってるだろうなぁ。
もう、今更、逢ってくれないかもな・・」
パッと顔を輝かせつつも、暗澹たる気持ちになった。
「大丈夫よ!正三兄さん。
キチンと訳を話せば、分かってもらえるわよ。」
そんな幸恵の言葉にも、正三の心は晴れなかった。
両親が反対していると聞いた小夜子の反応が、正三は恐かった。
“障害が多ければ多いほど、燃え上がるさ。”
“両親を説得できないなんて、最低!と言われるかも・・”
相反する思いが、正三の頭を駆け巡った。
「とに角、向こうに着いたらすぐに手紙を書くよ。」
直接出かけようとは思わぬ、そんな気の弱さが幸恵には焦れったい。
それが正三の限界だと分かってはいるのだが、
“お兄さんと、小夜子さん。だめかも・・”
そんな思いが、幸恵に過ぎった。


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