光子が若女将修行に打ち込めば打ち込むほどに、従業員たちの反発はひどくなった。
明水館の仲居ともなると、一応は名の通った商家の娘やら出自のはっきりとした娘たちが多く、世間的にも庶民という立場ながらも格の高さを誇っていた。
それがどこの馬の骨とも分からぬどこぞの村からやってきた小娘に、どう紛れ込んだのかと訝る仲居たちを尻目に、あれよあれよと若女将の地位にまで上り詰めたのだ。
突然に現れた跡取り息子の嫁という立場ではあるものの、清二が惚れ込んだ娘だとされているけれども
「案外のところ、光子がたぶらかしたんじゃないの」という陰口が囁かれているのだ。
ここぞとばかりに反発がひどくなった。
そんな中、ただひとり光子をかばう者がいた。
「大女将、どうされたんですか。若女将を追い出す良い機会ですよ。なんでしたらわたしが音頭を取って、仲居たちの総意として、、、」。
いきり立つ豊子に対し
「あなたから皆に言って頂戴。金輪際、若女将の悪口は口にしないようにって。いいわね、守れない人にはここを出て行ってもらいますから」と、語気荒く告げた。
珠恵には分かっていた。光子の思いは両端にあることを。
哀しみと安堵感、その二つがせめぎ合っている。
そんな己の葛藤に憤りを感じて、ただただ若女将修行に没頭していることを。
(やっぱり清二の嫁にするんじゃなかった。
女将としての資質は持っているけれど、いえ女将になるべくしてここに来たのよ。それは間違いのないこと。
番頭さんに『出のはっきりせぬ娘は雇わない方が』と忠告を受けたのに、あの目に惚れて雇ってしまって。
でも入れたのは間違いだった。清二を明水館の跡取りとしてしまったのも、間違いね。
親戚一同の声に押されてしまって……。いえ間違えたのは、このわたし。
娘が亡くなったというのに、今日もまたパチンコ狂いとは。
いえいえ、辛いのよね、辛いんでしょ? 清二。
けどね、逃げちゃいけない。しっかりと受け止めて、光子を支えてあげなくちゃ)。
しかし言えない、なにも出来ない珠恵だった。
ただ、集中砲火のさ中にある光子をかばってやることが、せめてもの清子への供養だと思った。
朝から深夜まで動き回る光子で、帯を解くのももどかしく、とにかく横になりたかった。
そしてあとは泥のように眠り、疲れた体を休めたい、そんな日々を送る光子だった。
珠恵にとっての清子の供養は光子をかばってやるやることであり、光子には自身の体をいじめることが供養だった。
そんなある夜、清二が光子におおい被さってきた。
光子が疲れていることは分かっていた。そして清二の行為を望まぬ事だろうということも分かっていた。
そしてそれほどに頑なな思いの光子であることも分かっていた。
ではどうすればいい。今さらことばで謝ったところで、光子には響かない。それほどに殻は硬い。
(どうすればいい……)。毎日毎日、玉を打ち続けながら盤面を走り続ける玉を見つめながら
(清子はいない。でも、どこかにいる。そうだ、もう一人の清子を見つければいい。その清子とともに、ただいまあ! と帰ればいい)、そう思った。
そして今、泥のように眠るミツこの上におおい被さった。
(光子に希望を与えてやるんだ)。その一心で光子を抱いていた。
しかしそんな清二の思いは、光子には伝わらない。
(ああまただ。あの夜のように、自分の性欲を満たすためだけに、わたしの上にいる)。
今は清二をはねつける力も湧かない。今の光子のこころは死んでいる。
(死びとを抱いていることに気付かない哀れな男ね)。
どうしてもこころが交わらない二人だった。
明水館の仲居ともなると、一応は名の通った商家の娘やら出自のはっきりとした娘たちが多く、世間的にも庶民という立場ながらも格の高さを誇っていた。
それがどこの馬の骨とも分からぬどこぞの村からやってきた小娘に、どう紛れ込んだのかと訝る仲居たちを尻目に、あれよあれよと若女将の地位にまで上り詰めたのだ。
突然に現れた跡取り息子の嫁という立場ではあるものの、清二が惚れ込んだ娘だとされているけれども
「案外のところ、光子がたぶらかしたんじゃないの」という陰口が囁かれているのだ。
ここぞとばかりに反発がひどくなった。
そんな中、ただひとり光子をかばう者がいた。
「大女将、どうされたんですか。若女将を追い出す良い機会ですよ。なんでしたらわたしが音頭を取って、仲居たちの総意として、、、」。
いきり立つ豊子に対し
「あなたから皆に言って頂戴。金輪際、若女将の悪口は口にしないようにって。いいわね、守れない人にはここを出て行ってもらいますから」と、語気荒く告げた。
珠恵には分かっていた。光子の思いは両端にあることを。
哀しみと安堵感、その二つがせめぎ合っている。
そんな己の葛藤に憤りを感じて、ただただ若女将修行に没頭していることを。
(やっぱり清二の嫁にするんじゃなかった。
女将としての資質は持っているけれど、いえ女将になるべくしてここに来たのよ。それは間違いのないこと。
番頭さんに『出のはっきりせぬ娘は雇わない方が』と忠告を受けたのに、あの目に惚れて雇ってしまって。
でも入れたのは間違いだった。清二を明水館の跡取りとしてしまったのも、間違いね。
親戚一同の声に押されてしまって……。いえ間違えたのは、このわたし。
娘が亡くなったというのに、今日もまたパチンコ狂いとは。
いえいえ、辛いのよね、辛いんでしょ? 清二。
けどね、逃げちゃいけない。しっかりと受け止めて、光子を支えてあげなくちゃ)。
しかし言えない、なにも出来ない珠恵だった。
ただ、集中砲火のさ中にある光子をかばってやることが、せめてもの清子への供養だと思った。
朝から深夜まで動き回る光子で、帯を解くのももどかしく、とにかく横になりたかった。
そしてあとは泥のように眠り、疲れた体を休めたい、そんな日々を送る光子だった。
珠恵にとっての清子の供養は光子をかばってやるやることであり、光子には自身の体をいじめることが供養だった。
そんなある夜、清二が光子におおい被さってきた。
光子が疲れていることは分かっていた。そして清二の行為を望まぬ事だろうということも分かっていた。
そしてそれほどに頑なな思いの光子であることも分かっていた。
ではどうすればいい。今さらことばで謝ったところで、光子には響かない。それほどに殻は硬い。
(どうすればいい……)。毎日毎日、玉を打ち続けながら盤面を走り続ける玉を見つめながら
(清子はいない。でも、どこかにいる。そうだ、もう一人の清子を見つければいい。その清子とともに、ただいまあ! と帰ればいい)、そう思った。
そして今、泥のように眠るミツこの上におおい被さった。
(光子に希望を与えてやるんだ)。その一心で光子を抱いていた。
しかしそんな清二の思いは、光子には伝わらない。
(ああまただ。あの夜のように、自分の性欲を満たすためだけに、わたしの上にいる)。
今は清二をはねつける力も湧かない。今の光子のこころは死んでいる。
(死びとを抱いていることに気付かない哀れな男ね)。
どうしてもこころが交わらない二人だった。
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