昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空~(十六)ラベルにハートマークがあり

2015-08-18 08:56:30 | 小説
慌てて彼は、女のグラスにウィスキーを注いだ。
ラベルにハートマークがありその中に何やら描かれているが、何を示しているのか彼には皆目分からない。
しげしげと見つめる彼だった。

「おっぱいだよ、あたいの。あんたもスケベだね、男なんだ」
「ああ、おっぱいか、なるほど」
彼からボトルをひったくると、
「マスターがくれたんだよ。誕生日プレゼントだって。
あたいのお父ちゃんなんだよ、マスターは」
と、胸に抱え込んだ。

「あんたねえ。男と女の間に、何があるのよ。
セックスでしょうが。あんた、嫌いかっ! おかまちゃんならいざ知らず、さあ」

グラスを一気に飲み干すと、大きくため息をついた。
カウンターに突っ伏しながら、また早口でまくし立て始めた。

「おかしいんだよ、あいつ。あたいをテーブルに呼ばないんだ。
あの店はね、お気に入りのダンサーを呼べるんだ。
そしたら、チップが出るんだよ。
あたいなんか、引く手あたまさ。違った、あ、ま、た、だ。引く手あまただよね? 

ホントとだよ。毎晩、十人はくだらないんだから。
そんなあたいがだよ、あいつに…。
バカにしてんだよ、あいつ。

あいつの横まで行って、あたいのおっぱいを見せて やってるのに、あいつ下なんか向いちゃって。
顔を真っ赤にしてんの。
純情なんだね、あいつ。

おいっ、水! 喉がカラカラだ。
お前! あたいを酔わせて、どうする気だい。
抱きたいのか、あたいを。
おっぱいを吸いたいか? だったら、水だよ。
お水、頂戴よお」

彼はマスターに、水を! と、目で合図した。
「済みませんねえ、お客さん。こうなっちゃうと、どうしょうもできないんです。今夜のお代は結構ですんで」
と、平身低頭で水を差し出した。


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