昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第一部~(九)の八

2011-06-13 19:42:02 | 小説
「小夜子さん、
あれに乗ってみませんか?」
「あれって?」
正三の指差す先に、
小部屋があった。
中の女性が深々とお辞儀をしながら、
お客を招き入れている。
「エレベーター、
という乗り物です。
歩かなくても、
上の階に行けるんです。」
得意げに説明する正三に、
“あれが、
本家のみよ子が自慢してたエレベーター?”
「ふーん、面白そうね。」と、
興味を示した。
「いらっしゃいませ。」
深々とお辞儀をして迎えたエレベーターガールのその済んだ声に、
思わず
「やっぱり、声が違うわね。」と、
関心する小夜子。
ここで正三が
“小夜子さんの声も、
ステキですよ。”とでも囁けば、
グンとランクアップできるのだが。
正三には望むべくもないことだった。
「本日のお越し、
まことにありがとうございます。
当百貨店では、
一階にアクセサリー・・」と、
階ごとの売り場説明を始めた。
その凛とした立ち振る舞いに、
思わず小夜子は見とれてしまった。
紺のスーツ姿で、
襟元に赤いラインが入っている。
ピッタリと体にフィットした制服も、
小夜子には目新しいものだった。
“やっぱり、違うわね。
田舎とは大違い。”
「お嬢さま。
ご用命の階は、
どちらでございますか?」
見とれている小夜子の目を覗きこむように、
尋ねてきた。
「えっ?
あ、ファッションショーに、
行きたいんです。」


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