昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第一部~(五)の五

2011-04-26 21:21:32 | 小説
「また、大福?
本家じゃ、チョコレートを食べたってよ。」
不平を洩らしつつも、半分に分けて
「お父さんも、食べて。
小夜子、半分でいいから。」と、手渡す。
茂作翁を喜ばせる術を知り尽くした、小夜子だ。
満面の笑みを浮かべて受け取る茂作翁に、改めておねだりを始めた。

「ふみ子ったらね。
後藤さん家の新屋のくせにさ、着物を新調したんだって。
うぅん、小夜子はね、着物はいらない。」
大福を喉に詰まらせながら、慌ててお茶をすする茂作翁に
「だから、着物はいらないって。
その代わりに、お帽子が欲しいの。
つばの広ーい、お帽子が。」と、続けた。
「そ、そうか。
帽子でいいのか、着物じゃなくて。」
「そう、お帽子。
小夜子、聞き分けのいい子でしょ?
お父さんを困らせるようなことは、言わないわよ。」
ほっと胸を撫で下ろす茂作翁だったが、はてさてどこで見たものかと気になりだした。


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