(一)
まだまだ粗悪品が混じり込んでしまうことがある今、メーカー側の恣意的な混入を恐れる武蔵だ。
何としても、それは阻止しなくてはならぬ。
価格決定権死を守したいメーカーサイドにとって、富士商会のように力のついてきた卸問屋は、ある意味脅威になっいくる。
小売側との軋轢において富士商会に味方したメーカーではあったが、これ以上の富士商会の勢力増大は望まない。
そんな中で、担当者やその上司との個人的な友好関係を保とうとするのが、武蔵の戦略だった。
そしてその中で、重要な役割を果たすのが小夜子だった。
七人の女侍たちの女主人として世間の認知を得た今、その小夜子に会いたいという思いは男たちの共通のものだった。
そこで、小夜子同伴のあいさつ回りをする。然も夜の接待ともなると、小躍りの男たちばかりだ。
M精機の接待時のことだ。
「社長。お酌なんぞ、してもらえますか? 社内で、総スカンを喰らうかもしれませんがな」
と、上機嫌だ。
接待嫌いという噂の課長だったが、当初は渋っていたものの小夜子同伴と告げた途端の言葉だった。
「課長。あんまり期待せんでくださいよ。とに角、あの鼻っ柱の強さですから。
自分は『新しい女だ』と吹聴してまわる女ですから、中々に御しがたいですわ。
その代わりと言ってはなんですが、お気に入りの女がいましたら、教えてください」
「えっ? そんな、わたしは、愛妻家で通っておりますから。
大体が、夜の接待なんぞ断る性質でして。明日はたまたま、家内が里帰りするんですが。
いや、別に変な意味で言ったのではなくてですな。
酔って帰っても、口うるさく言う者がいないということで…」
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