昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十七) 一

2013-10-06 12:31:19 | 小説
(一)

娘たちのため息が洩れる中、小夜子の話は続いた。

「でもね。あたくしだって、のほほんとくらしていた訳じゃないのよ。
お昼はイングリッシュスクールに通って、すべてイングリッシュでの会話なの。

日本語なんて、誰も使わないの。
グッドモーニングに始まって、グッドバイで終わるの。

ううん、スチューデントは全員日本人なのよ。
ティーチャーはアメリカ人ですけどね。

あ、ごめんなさいね。

スチューデントは生徒で、教師はティーチャーと言うの。
ご存知だったかしら」

得意満面な小夜子に、誰もがうんうんと頷くだけだ。女王然とする
小夜子の性格を知る、賢い娘たちだ。

「変わっていないね、竹田嬢は」
「そうだね、相変わらずの女王様気取りだ」

車座から離れた場所で、ふたりの恩師が囁きあう。

「でも、そんな彼女を、皆さん認めてらっしゃるんでしょ? 
在学時から、特別待遇でしたものね」

遅れて来た女教師が話の輪に加わった。

「そう、そうなんですよ。
どうもね、あの娘に限っては許してしまうんですよ。
不思議と腹もたたないんですね」

「同感です。
某教師は『卒業したら求婚してみるかな。

へなちょこ坊主の佐伯正三なんぞに渡してなるものか!』
なんて、真顔で言ってましたから」

「それって、案外、君の本音じゃないの。
いや、冗談だけどね。けど、彼女は難しいよ。
御しがたいと思うよ、実際。旦那さんになられた方、相当の…ね」
意味深な言葉で締める教師に、他の者も頷き合った。


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