(一)
突き抜けるような青空が、五平には眩しく感じられる。
黄金色に揺れる稲穂を見るにつれ、胸の奥に痛みを感じ始めた。
“しっかりしろ! 加藤五平。
お前は女衒の五平じゃないんだ。
富士商会という真っ当な会社の専務さまだ。
今日は、社長御手洗武蔵の名代で来たんだ。
胸を張れ!”
黒塗りのハイヤーが、茂作の家屋前に着けられた。
茅葺きの古い家屋で、縁側の所々がすでに朽ち掛けている。
庭の草も伸び放題で、人の手がまったく入っていない。
この村に、ハイヤーどころか自家用車が来ることなど滅多にない。
何事かと、大勢の村人が集まっている。
ぞろぞろと、ハイヤーの後についてきた村人も多々いる。
「もし、もーし! 竹田さーん! もし、もーし!」
戸口で声をかける五平だが、中からは何の返事もない。
見かねた村人の一人が、中に入り込んだ。
土間から台所に回り板間を見るが、茂作の姿はない。
「茂作さぁ、茂作さぁ!」
と呼びかけながら、奥へと入り込んだ。
「おう、ここに居たか。
お客が見えとるが? えらい立派ななりのお方じゃが。」
「客だ? 立派ななり? うーん、誰じゃ……」
(二)
まさか先物取引の男では? と、身構える茂作だ。
武蔵がすでに清算済みだとは知らぬ茂作だ。
「大丈夫かの? 茂作さぁ。
昼寝だったか? いいご身分じゃのぉ。」
「ふん、なんということもないさ。」
ふらつく足が、心の動揺を表している。
「お待たせしまして、すまぬことです。
奥で昼寝をしておりましたわ。
今、出てきますで。」
ぺこぺこと腰を曲げる村人に、
「手数をかけて、申し訳ありませんな。」
と、五平が横柄に答えた。。
「はてはて、どなたですかな?」
草履をペタペタと鳴らしながら、戸口へと向かう。
初顔に不気味さを感じつつも、横柄な態度をとる茂作。
精一杯の虚勢だ。
“いざという時は、田畑を処分するさ。
小夜子の所に転がり込めば済むこと。”
と、腹をくくってしまえばよいことと思いはするが、忸怩たる思いもある。
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