昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(四十九)の九十

2012-11-10 13:48:19 | 小説

(九)

外で荷解きをしていた男たちも呼ばれて、大騒ぎとなった。

「お姫さまがね、竹田さんのお姉さんの看病をされるんだって。

社長は渋ってらしたけど、根負けされたわよ。

すごいわねえ、社長をやりこめるなんて。」


「えぇー、ほんとなの? 

一社員の家族の為に、そこまでしてくださるなんて。

信じられないわ、あたし。」

「うわー。

あたしん家も、誰か大病しないかしら?」

「痛てて…腹が痛い! これ、きっと盲腸だぜ。」

腹を押さえるひょうきん者。

隣の若者が、
「バカったれ! バレバレだぞ、そんなの。」
と、笑い飛ばした。


「それ、ほんとか? 困るぞ、そんなの。 

母が付き添ってるんだ、それを奥さまにまで。」

遠巻きから聞いていた竹田、慌てて二階へ駆け上がった。

「おう、竹田。

丁度良いところに来た。

小夜子を病院に送り届けてくれ。」



(十)

「社長、そんな。

ぼく、困ります。

小夜子奥さま、おやめください。

そのお気持ちだけで、十分です。

昨日だって、色々とお世話頂いて…。

それに万が一のことがあったら、ぼく死んでもお詫びできません。」


懇願する竹田に
「だめ! 看病するの。

あなたの為じゃないの、お姉さんの為でもないの。

あたしの為なの、これはあたしの勤めなの。」
と、強く言い放った。

“ひょっとして、小夜子の奴。

お母さんが、と言いはしたが。

ほんとのところは、あのロシア娘か? 

あのロシア娘に対する罪滅ぼしではないだろうが、何にもできなかった自分を…。

そうか、自分を納得させる為でもあるのか。”



最新の画像もっと見る

コメントを投稿