昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百七十八)

2023-07-18 08:00:36 | 物語り

「大げさなのよ。こんなことでお医者さまの手をわずらわせたら、あたしゃもの笑いの種になっちまうよ。
恥ずかしくて、表も歩けなくなっちまうよ。ほっときなさい。
あたしが来るのだって、ほんとは早いくらいなんだから。
これ、小夜子さん。そんなに大きな声で騒ぐもんじゃないわよ。
ご近所にまる聞こえだよ。ご迷惑ですよ、ほんとに。
こんなもの、あたりまえのことじゃないか。一時間以上の間隔でしょ? まったく情けないねえ、いい若い者が」
 まったく受け付けない。というより、辛抱の足りなさに腹が立ってくる思いだった。

「だって、だって。お医者さまの言いつけ、キチンと守ったわよ。
だからこんなに痛いのは、きっとどこか病気なのよ。
急がないと、わたし死んじゃうかもよ。
う、痛い! いたいぃぃ! また来たわ。
あ、あ、なんとかして。こんなに痛いのは、きっとどこかが、、」
「しようのない子だねえ、もう。それじゃ、とっておきのおまじないをしてあげるよ。
これをすれば、楽になるからね。そのかわり、特別料金をもらうからね」
「いいわ、いいわ。たけぞうにっいって。いくらでもだしてくれるはずだから。あ、あ、あ、また、、」
 小夜子のおなかを両手でさすりながら、もごもごと呪文らしきことばをとなえはじめた。

「*+$%#&”>?<{:*+;」
 意味不明のことばが発せられたが、日本語なのかも分からない。
しかしだからこそ、小夜子には霊験あらたかなものに思えた。
そしてその効果は、小夜子のおなかに如実にあらわれた。
さすっている産婆の手が、次第しだいにあたたかみが増してきた。
そしてそのあたたかさが小夜子のおなかにとどきはじめると、あれほど感じていた激痛がすこしやわらいだように思えた。
「すごいわ、すごい。あったかい、あたたかわ。いたみもなくなってくみたい。
あ、あ、でもやっぱり、いたい。もっとちょうだい、もっと。
いたみをなくして、もっと。あ、いたい。あ、あ、いたい!」
「すこしは我慢しなさい。赤ちゃんだって、頑張ってるのよ。
このいたみがね、母親の愛情をうんでくれるの。
このいたみがね、母性愛をね、そだててくれるのよ。
$*+<:{%&”#?*+>;」



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