昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第一部~(九)の十

2011-06-15 20:28:07 | 小説
「このまま、
五階まで行きますか?」
「勿論よ。
他の階は、
ショーの後にでも回ればいいでしょ。
良い席が取れなくなるとイヤよ。」
「なる程、
それもそうね。
良い席はすぐに埋まりますからね。」
老婦人が、
小夜子の横顔を見て頷いた。
一点を見つめ続ける小夜子に、
意思の固さを見る思いだった。

「三階でございます、
紳士服専門の階でございます。
山下様、
いつもご利用ありがとうございます。」
深々とお辞儀をして、
老夫妻を送り出した。
他の客たちも全て降りており、
乗客は小夜子たち二人になった。
「あぁ、
肩凝っちゃった。
今のお二人、
大のお得意様なの。
すごく気を遣うのよ。
あら、
ごめんなさい。
こんなこと言っちゃいけないんだわ。」
思いもかけぬ気さくな話し振りに、
小夜子もつい本音を洩らした。
「そうですか、
それで威張ってたんだ。
真ん中にデンって、
陣取っちゃって。
近寄りがたかったですね、
ほんと。
他の人も
、変に気を遣ってるように見えたし。」
「ふふふ・・・。
どうします?
五階で、
いいかしら?
二時間って、
結構長いけど。」
「いいんです、
五階で。
何だか疲れちゃって。」
「人いきれしたのかもね・・」


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